榊原紘『悪友』デジタル栞文-vol.6-

「遠泳」同人の榊原紘の第一歌集『悪友』(書肆侃侃房)が刊行されました。毎週一回、「遠泳」メンバーがリレー方式で歌集についてnoteを更新しています。第六回目は中澤詩風が担当です。

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仕事帰りにふらっと寄った丸善で詩歌のコーナーを見ていたら,『悪友』と『ビギナーズラック』が並んで置かれていた。榊原先輩と阿波野先輩は京大短歌に所属していた時の2個上世代で,一番良くしていただいた世代だった。そんなこともあり,この2冊が並んでいるというのが私にはとてもまぶしい。

攫われたとしか形容できなくて姉と好き合うひとを知らない
/海鳴りの語尾
雨上がりの空を連写し予想より早く来た今日を記録しておく
/海鳴りの語尾
引き分けになるための術ばかり探す あくびもきれいなひとの隣で
/海鳴りの語尾
憧憬は殺意にも似て新しい名前を授けるひとを見ており
/海鳴りの語尾

『悪友』収録の連作「海鳴りの語尾」から,大好きなので4首引いた。姉の結婚を描いたこの連作には,ストレートに感情を出した歌が多く,読んでいて揺さぶられる。姉の結婚への戸惑いを普段使いの言葉で表現しているのが,ぴったりはまっている。

榊原先輩は,感情の発現と制御がとても上手い方だと思っている。だからだろうか,先輩の歌の中で感情が強めに出ているものを見つけると,妙に嬉しくなってしまう。他人の感情で気持ちよくなるのは,他人を消費する活動なのでかなり良くないのだけれど。

雪のしみた靴から君が伸びている そんな顔で笑うやつがあるか
/戯れに花
ゆるせなくていいよ、このまま区境を越える僕らの傍らに雪
/戯れに花
好きだったスープは今も好きなんだ社会に出ても平気でごめん
/強くてニューゲーム
半袖は実際三分袖だよね 次暮らす街ってどんなとこ
/強くてニューゲーム
洗濯機のネットのごみをときどきは捨てなね ななめにきみはうなずく
/短い脚立

先輩はいつも難しいことを詠んでいたように思っていたけれど,けっこう普通の生活のことも詠んでいたのだな。歌集単位で歌を読むと,新たな発見があったり,好きな歌を見つけられたりしてとても楽しい。

『悪友』刊行,本当におめでとうございます。


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