グッバイ・エマージェンシー
カチッ…カチッ…カチッ…
「…………。」
カチッ……カチッ……
「…………………。」
「あーーー…ダルッ…」
12月31日。
時間を無駄にして生きている割には、『昨日』が『今日』に移り変わるたった今まで目を覚ましていた。
今もなお眼球が眠気を受け取らず、遅寝する気持ちさえも闇に食べられていた。
俺からすれば、『今日』も『昨日』も『明日』も、ただただ無心に経過していく365分の1日な訳だ。
さっきからこれ見よがしに音を出しながら時間を刻んでいた針を見ると、案の定二つはぴったりと重なって「12」を示していた。
…ここは檻だろうか。
甘い誘惑で誘い、気力という餌を貪り喰い、それを糧に更に強い香りを放つ魔の監獄だろうか。
いや、それでもいい。
掌を返せば、ここなら何でもできる。
奴らの五月蝿い都会からもサヨウナラできる。
だから「出たくない」、いや「出られない」んだ。
夜景という名の、空に塗りたくられた黒ペンキを窓から覗く。
いつからか、この闇も、闇に咲く星々も、笑顔を見せつける月も、何か意味のあるものに思えてきた。
無いと困るけれど、それは人間の都合であって、そこに闇夜や星々、月がある理由ではない。
でも、こんな引きこもりと等しく、何の意味もないなどとは考えられない。
きっと人が望んだ大きなプレゼントなのだろう。
使い古しで壊れていた時計は、針と少し遅れて日付が変わったことを知らせるアラームを鳴らした。
私は声を零す。
「年が開けた瞬間もこのザマか…」
何の生産性もなくて、自分の存在価値と24時間をすり減らし続けるだけのヒキニートには、この違和感に気付けなかった。
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