仮題 エピソード2

 器用に箸をつかい、チキン南蛮弁当を食べる娘をしばらく眺めていた。たまにはいいじゃないか。私だってたまには手抜きしたい。


 「美味しい?」と尋ねると、娘は小さく頷いた。
「おいしいけど、今度またコロッケがたべたい」。
「分かった、いいよ。じゃ、次のお休みの日に作ってあげるね」
「やったー」


 コロッケは、別れた旦那の得意料理だ。料理は明らかに私よりも上手で、特にコロッケは感心するほど美味しくて、これだけレシピを教えてもらったのだ。娘の一番好きなおかずが、別れた旦那から教わった料理だというのも、いささか複雑だけど。
「もう、おなかいっぱい。ご馳走様でした」娘はそういうと箸を置いて、テレビをつけた。チキン南蛮がまだ半分くらい残っていたので、仕方なく食べた。
本当は、幕の内弁当みたいな弁当をつまみがわりに缶ビールでも飲みたい所なのだが。ぼんやり、そんな事を考えながら目の前のチキン南蛮弁当を完食した。

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