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風邪と回想

久しぶりに体調を崩した。
悪夢を見た。自分含む家族5人が巨人に追い詰められて、これから食べられるという夢だった。階段を登ってくる巨人から逃げていた。絶望で目を覚ました。
図書館にいながら、寒いんだか熱いんだかわからない。
騒がしい頭の中で、2つの場面を思い出す。

鬱っぽい友人に俺が言ったことで何度も思い返すものがあると言われたことがある。 
2018年の11月、病院で実習をするために必要な試験を前にしていた。その試験が受かったら、俺たち医学生が死んだ時の賠償金は上がる。より医師になる可能性が増えるからだ。近年、試験は難化傾向だった。ありがたいことに大事な医学の進歩というものが毎年毎年あるからだ。学生の勉強は指数関数的に増えてきているらしい。
 
そいつが病んでいることを俺は知っていた。元々責任感の強く、できる奴で、器用に見えるから、その笑顔の奥の素顔が恋人以外の誰とも共有されていないだろうと思っていた。話をしたいと思った。俺はドライブは別に好きじゃなかった。だが、しみじみと話すにはドライブをするものだという周囲の風潮から、飯を食いながらとかじゃなく、散歩しながらじゃなく、ドライブでもしながら話すか?と聞いたら、何故か相手は喜んでいた。俺は対話すると運転が雑になるから、少しプレッシャーだった。夜の国道8号線で話した。信号にたくさん引っかかりながら話した。
 
「どんな○○でも、俺はダメな奴なんては思わない。嫌いにならない。」
「自分を大切にする方法はな、好きな人と一緒にいることさ。優しくしてくれるやつとかな。そして、甘えてみることだ。求めることだ。お前は求めるのが苦手だからな。そして、他にもいろいろある。いろいろ試してみよう。自分を大切にするってことを。」
「何せうぞ くすんで 人生は一夜の夢よ ただ狂へ、俺はこの言葉が好きだ。人生なんて一夜の夢だ。正しさなんてない。前提にまずどうでもいいがある。最高だよな。どうでもいい、だぜ。その上で脚色と自己満足があるんだ。他の奴が俺を、お前をどう思おうと、それこそどうでもいい、だ。」
 
ボー、と車の暖房の音が聞こえる。橋の上の信号で止まった。フロントガラスは構ってやらないとすぐ曇る。
 

 
2019年2月、医師国家試験の前日、静岡から将来働く病院の見学をして、福井に帰ってきた。同じアパートに、よくカレーのお裾分けをしてくれた先輩がいた。先輩に静岡のお土産とエールを送るために、部屋のチャイムを鳴らして呼んだ。
 
「・・・けいしろう?」
か細い声がドアの奥から返ってきて扉が開く。目を腫らしているな。玄関に座り話した。
「もう眠ろうと思ったんだけど眠れないんだ。部屋の明かりがついてるのは、最近こうしないと眠れないからだよ。」
「一緒に勉強している人が、知識が凄すぎて、自分はダメなんじゃないかって思ってて、私はここぞって時に落ちてきたから今回もダメなんじゃないかって思っちゃうんだ。」
とうとうと明日への不安を聞いた。先輩の努力量は知ってたから、これが国試せん妄というやつかと思った。間違えればその1年間の努力は否定される。不安だろう。でも、大丈夫だと思った。先輩なら絶対大丈夫だ。俺も話した。
「ホットミルクを飲みましょう。ミルクにはセロトニンが微量ながら入っていて、これは睡眠を助けます。願わくば搾りたての母乳が最適です。すっごいたくさんのセロトニンが含まれていて、ノルウェーの牧場の家は不眠知らずらしいですよ。あとは、ハグをしましょう。ハグは30秒間すると、ストレス軽減にいいらしいですよ。」
ハグをした。心を暖めたかった。
「・・・ありがとう。落ち着いてきた。」
  
  
回想終了。
自分から出てきた言葉たち。
これを自分自身のために使えているか?人には優しくできている時がある。OKOK。では自分にはどうだ?自分をダメなやつって思わないでいるか?日々の中で自分を大切にする方法は実践できているか?創造出来ているか?自分にハグはできてるか?自分を大切にできているか?
悩みは多い。未来は真っ暗に見えたりする時もある。身体の力みはなかなか抜けない。穏やかで幸せな日々が来るかはわからない。
だが確実なのは、自分を大切にする時間を作るってのは、当たり前だけど大事だってことだ。暖かいココアを飲む時間が必要だ。愛だとか、存在の安定性とかそんな小難しいことは置いといて、、、
 
やさしさに包まれたなら きっと
やさしさで包めたなら きっと

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