ムズカシイお客さん~ある婦人~
私はとあるお店を営んでいる。
そのお店は小さなお店で、店内で小物を販売しつつ、珈琲が飲めるカウンターも併設している。こ洒落た空間を気に入ってくれた常連さんもいてじつにありがたいことだ。
営業時間中は必ず扉を開けているのでいろいろなお客さんと遭遇してしまうのだ。
オープンして一時間くらいするとおひとり様の婦人が来店した。
「駐車場はあるの?」
「ここは○○の店なの?」
「気になってたからとりあえず来ただけなの」
来店と同時に質問攻めである。そして、購買意欲が薄いことをはっきりとアピールしたのち会話を締めくくられてしまった。
このとき私は「はい」の一言を繰り返しただけであった。
一度も止まることなく店内を一周したのち、店の奥に併設されているカウンターにやって来て「来たからついでにコーヒー飲もうかしら」と一言。
カウンターのなかには事務用パソコンが置いてあり、接客時以外は基本的にそこで仕事をしている。
珈琲を準備している私を眺めながら婦人はまたしても質問攻めを開始した。
「いつからやってるの?」
「あなた一人でやってるの?」
「ここにあるものはあなたが選んで置いてるの?」
やはり私は「はい」の一言を繰り返すだけであった。会話を深掘りさせようとして気を遣ってはみたが、「はい」以外の言葉を発する間がまったくないのである。というか婦人がその間をあたえてくれない。
私はもうかなりうんざりしていて、カウンター越しに向かい合っている婦人のことを【ムズカシイお客さん】と認定していた。
この婦人とのお話に花を咲かせる気などすっかり失せてしまったので、珈琲を提供したあとはずっとパソコンをいじっていた。
それでも婦人は「はい」で済むような短い質問を投げかけてくる。
私はパソコンをいじりながら「はい」を繰り返す。とても機械的に。
婦人はこんな質問も投げかけてきた。
「ここにあるもの買う人いるの?」
うちの店にある物はどれもやや風変りなので、それゆえの質問なのだろう。しかしなんと失礼な!
お店に置いてある物に対する発言は、そのままお店の人へ対する発言でもある。自分を否定されている気分になるし、自分の店で売っているものに対する愛情を軽視されたような気分にもなる。
私は冷たい店員さんになきって「そうですね~」と、とても愛想悪い返事をしてさしあげた。
婦人は宣言したとおり何も買わずに帰って行った。
もう来ないでほしい。
店員さんに対して文句を言っている人を見かけるたびに思う。
失礼な態度のお客さんに対して優しい接客をするわけがないだろうが。
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