2月29日

 『親密な手紙』を読み終わる。あきらめたような老境で明るいユーモアを見せる筆致、それでいて静謐で豊かな深みを持つ大江の精神性を見る。自分にはどのような人々が、どのような本が「親密な手紙」となるだろうか。
 人からしっかりとした手紙をもらったことは、数えれば三度ほどあるだろうか。どれも大切に実家の引き出しにしまってあるが、思えばそれらはその時々、人生の辛苦を和らげてくれるようなあたたかさに満ちていた。あまり人と深く関わってこなかった自分の人生だが、時折そうした距離のあるあたたかみを欲して、無性に手紙を書きたくなる時はある。しるべのない今の生活に、親密な手紙こそ必要なのだな、と自覚できた。