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#18 誘蛾灯

 誘蛾灯に吸い込まれた羽虫は、爆ぜるような閃光を最後に放った。それは電線がショートするような、くぐもった音だった。同時にそれは、夜が死の季節であることの象徴のようにわたしに思わせた。わたしは冷醒な眼で、それを見つめた。最期の火花は美しかった。わたしは彼の一生を知らないが、死ぬ瞬間だけは、しっかりと見ていたのである。それは生を自覚せず、死だけが浮き彫りになるこの世界の人間の有り様。生は暗い闇の中に、ぽっかりと空疎に存在するだけの、ただ生きている人間という種族に似ていた。

 真っ暗な宇宙で、仄かに灯る地球という誘蛾灯に、びっしりと群がって離れない、七十億の羽虫たちのその姿に。