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書評

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読書記録、しっかりした書評からメモ程度まで形式は統一していません。ネタバレ多。
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#言葉

闘争としての恋愛の極北―石原慎太郎「太陽の季節」

 新潮文庫の裏表紙の紹介文はこのように評している。1955年、石原慎太郎が一橋大学在学中に執筆した本作は、新世代の若者のメルクマールとして迎えられた。奔放な戦後青年像は当時の選評も二分し、「攻撃的」「快楽主義的」な表層的な印象から「太陽族」という流行語も生まれた。 という有名な書き出しから物語は始まる。結論から一言で言えばここで描かれるのは、恋愛に形を借りたファム・ファタール(宿敵)=英子との闘争だ。恋はそのまま拳闘に重ねられ、それは効果的に作中に持ち込まれる。  主人公

[感想]三木那由他『会話を哲学する コミュニケーションとマニピュレーション』

 言語哲学の研究者の視点から、会話の機能としてのコミュニケーションと、潜在的意図としてのマニピュレーションを、さまざまな事例から解きほぐす。過不足ない手際で、非常にわかりやすく議論が展開する。会話の中に潜む機微として、「伝わらないこと」「わかり切ったこと」をわざわざ伝えることなどが語られる。  とっても読み易い本で、マンガのカットが引用されていたりする。そしてなにより、説得力がある。約束事の形成としてのコミュニケーションと、その裏側で意図されるマニピュレーションが、いかに会話