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雜記

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思考以上言明未満のものたち
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2021年3月の記事一覧

散歩の哲学

 散歩には哲学がある。と最近おもう。  唐突だろうか。詩人・長田弘が「この世界は本である」と表現したように、いちばん身近な世界の、人々の生きていることを、それらの人々が各自で何かを紡ぎ、今この瞬間も築き上げていることを滔々と散歩は示してくれる。それは世界を読み解く行為の第一歩であるような気がする。目的地を決めずに、交差点にては選択し、脇見しながらゆったりと歩く。いつも見ているものを清新な気持ちで、じっと見つめるような、そんな行為だ。花粉と黄砂が無くなれば、もっと清らかな気も

文学とは何か

 序  文学とは何か、といったタイトルの著作は多々あり、名のある文学者たちが挑んできた難しい領域であることは承知している。今回はこのシンプルな題名で、自分なりに文学について考えていることをつらつら書こうと思う。  前提として、この文章の著者であるぼくは、この春から大学院生になる23歳の男である。文学を学び始めて半年といったところのほぼ門外漢ではあるが、初心に筆を取って、書いてみることから始めようと思うのだ。自分の文学観を記録するという意味でも、いいかもしれない。そういうのっ

近況

 深い霧の中にいるような、手応えのない不安。若いということは、たくさんの可能性に許されながら、緩やかにそれらに絞めつけられるということでもあるんだ。日々は続いてゆく上に、ぼくの心臓はそれにやっとのことでついていっている。  あたらしい服を買う。春だから、というあいまいな理由でベージュの明るい柄を手に取る。ぼくはその時淡く期待している。これを身体の外側に纏うことで、ぼくの前にある厚い空気の層を、なんとかすることはできないだろうかと。自分自身として、春のうっすらとした霧の中に自

対峙

 抽象論は時として、その範疇を大きく超えた具体性を持って身に迫ってくる。工場の煙のような灰色の空から見えない無数の水滴が降り、パチンコ屋の前を通る中年の男が理由なくぼくを睨みつける。もしかしたら理由があるのかもしれない。若い女性が、広場でタバコをふかしている。空、というかどこでもない空間を見上げながら、ふぅーっ、と煙を打ち上げる。彼女の意識は煙のようにぼんやりとしていた。雨はすべての人々と建物を音もなく打ち付けている。彼女はまだ、見ることをやめない。  ぼくは、日頃から感じ