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3ピースの初夏


ピザって10回言って?

彼女はそう言って覗き込んできた

目の前の日陰にびっくりして僕はまばたきする

いいよ

ピザピザピザ、、

信号待ちの間 指を折りながら数える


彼女は嬉しそうに待っていた

ミーアキャットみたいだ


僕が数え終わった後 一息おいて聞いてきた

今日のお昼はなーんだ

よくある10回クイズだと思ってたが

今日は違うみたいだ

、、、え?ピザなの!

ふふっ、せいかいー!

嬉しそうだね、

だって久々のピザだよー? テンションあがる


僕たちは近くのピザ屋で何枚か買い

家で食べることにした


街中にフラッシュを焚いたみたいだった

眩しい光の中、自転車で風を切った


近くのスーパーでビールを買い

ようやく彼女の家に着いた


っぱさ ピザにはビールだよね

でもビール飲んだらさ 帰り自転車乗れないよ

いいよー泊まってきなってー

嬉しかったが恥ずかしくなってしまった

帰りの歩く時間を調べはじめる


彼女は嬉しげにコップとお皿を用意しはじめる


よし昼から飲むよー

ピザに乾杯!

乾杯っ!


夢中で飲んだし食べた

最近みた映画の話をしながら


もうお腹いっぱーい!あとは食べてよ

相槌の代わりに急に彼女は言った

床でだらしなく伸びをする満足そうな彼女

ピザを食べる手が止まった


あんなに嬉しそうだったのに

3ピースだけかよとツッコみたくなったが

心にしまった


きっとあの時ツッコんでいれば

もっと笑いあえていただろう

当たり前に存在した笑顔が消えたとき

あれは当たり前ではなかったのだと知った


初夏とはいえない

目が眩むような光と

蝉のサイレンの中

3ピースの彼女を思い出して

僕は泣いていた─


そして信号が青になった。


アセット 1-8


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