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「物流の仲間」として壁を乗り越える #02【JR貨物 日本貨物鉄道株式会社】

ロジ人では物流テックと分類される業界の著名人、サービスにフォーカスしていきます。前回に引き続きJR貨物 日本貨物鉄道株式会社で鉄道ロジスティクス本部 総合物流部長を務める五島 洋次郎さんと、総合営業開発グループの渡部 純也さんにインタビューしました。#02では、「直面する2024問題に立ち向かう策」についてお話いただきました。

<プロフィール>

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▼ 鉄道ロジスティクス本部 総合物流部長 五島 洋次郎氏
1967年生まれ。1991年に日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)入社。1999年に現・公益社団法人全国通運連盟へ出向。2004年にJR貨物本社の営業部グループリーダー、2006年に東北支社次長などを経て、2021年に総合物流部長に就任。

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▼ 鉄道ロジスティクス本部 総合物流部 総合営業開発グループ 渡部 純也氏
1979年生まれ。人材サービス会社での勤務を経て2015年に日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)入社。2020年に日本フレートライナーへ出向。2023年より総合物流部営業開発グループサブリーダーとして勤務。


“シフト“から“コンビネーション“へ

― 現在の日本の物流業界は、2030年に向けて非常に重要なターニングポイントを迎えています。一方で今年2024年はいわゆる「2024年問題」が深刻化し、経済において重要な局面を迎えることとなりそうです。こうした問題を抱える中、JR貨物では「2024年問題」に対してどのような対策を進めているのでしょうか。

五島さん:トラックドライバーの不足により現在の4分の1の荷物が運べなくなると言われている「2024年問題」ですが、そもそも私たちはトラックを排除するのではなく、トラックと鉄道をうまく組み合わせ、つながっていける社会を作ろうとしています。このような取り組みのことをこれまでは「モーダルシフト」と呼ばれていましたが、3年ほど前からは「モーダルコンビネーション」という言葉へと変化してきました。

― 「モーダルシフト」と「モーダルコンビネーション」は、どう違うのですか。

五島さん:「モーダルシフト」は運送手段の転換のことで大量輸送が可能な点や定時性、環境にやさしいことなど、「鉄道の特性を生かした輸送に置き換えていく」というものでした。つまり、トラックや自動車主体で行われてきた貨物輸送を、鉄道や船舶に転換していくという言葉ですね。ただ、「モーダルシフト」という言葉は、トラックを一方的に切り離すようなイメージを与えることもしばしばありました。そこで生まれたのが、それに代わる「モーダルコンビネーション」という言葉。これは、トラックと鉄道を組み合わせて物流の円滑な連携を目指していくものです。物流業界からトラックを排除し、鉄道輸送に切り替えていくという考えではなく、トラックや鉄道、海運、航空などそれぞれの役割を上手くつなげて、物流業界全体として機能するような仕組みを作ろうという思いが込められています。

― “社内”で連携をとるだけでなく、“社会”として連携するということですね。

五島さん:私たちにとってトラック事業者さんはライバルではありませんし、倉庫会社さんも海運会社さんも全く無関係のものではありません。みんな、一緒に働く「物流の仲間」。どうしたらそれぞれが一番うまく仕事をシェアできるかと考えることが今の時代にはふさわしいのではないかという思いで、「モーダルコンビネーション」という言い方をしています。

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― モーダルコンビネーションという考え方はどこから始まったのでしょうか。

五島さん:実はモーダルコンビネーションを提唱し始めたのはJR貨物の経営者で、「物流業界の他社がライバルだという考え方は違う」と言い出したのは、2020年ごろ。かれこれ4年ほど経ちます。ただそれがイメージとしてなかなか思い浮かべづらいものだったため、すぐに会社として動くことはありませんでした。しかし、2023年からようやく、国土交通省の有識者会議「今後の鉄道物流のあり方に関する検討会」が開かれるようになり、鉄道をもっと使いやすいものにしていくための問題提起がされるようになったことから、他社との関係性についてもしっかりと考えていくようになりました。話し合いを進めていく中で、「トラックの運送とうまくコンタクトをとれるよう、物流拠点がそれぞれ歩み寄ろう」という声や、「駅の中や駅の近くに物流拠点を少しずつ増やしていこう」という声が上がっています。

鉄道のデメリットをトラックで補う

― 具体的には、どのような取り組みが始まっているのでしょうか。

五島さん:例えば、直近では貨物鉄道と自動運転トラックとが連携する検討を進めています。貨物鉄道と自動運転のトラックを組み合わせて互いに補完し合うことで、輸送サービスを効率的に行えるほか、輸送キャパシティの維持と拡大への貢献が期待されます。また、自然災害などでどちらかの輸送手段が使えない場合でも、互いを代替し合うことで輸送機能を維持し、輸送の安定性を保つことができます。

渡部さん:ドアtoドアへ荷物を運べるトラック輸送は、利便性の高さから荷主様にとって最善の選択肢でした。しかし、2024年からは働き方改革法案によって、ドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限されます。結果としてドライバーの走行距離が大幅に短縮されることになるため、従来のように物流の大部分をトラック輸送に頼ることが難しくなと予想されます。そこで私たちがいま考えているのが、「遠くまでは運べなくても、駅までなら運べます」というコンセプト。東京からであれば福島、新潟周辺までとなる片道150㎞程度まで集荷範囲を広げ、駅へとトラックで荷物を持ち込んでもらい、私たちが配達先の最寄り駅まで輸送する、という輸送方法を検討しています。 

五島さん:これまで自社工場近隣あるいは高速道路IC近くに物流拠点を置いていたけれども、貨物駅を物流拠点にして、そこでコンテナを仕立てて運べばいいのではないかという考え方です。どの駅に運ぶかは、お客様に選んでいただけるようにもなると思います。

渡部さん:これは私たちからすると、駅から近い場所でしか荷物を集荷できないという鉄道輸送の欠点を、トラックを導入して集荷範囲を広げることで、長所に変えられる利点があります。トラックがこの先、長距離輸送を担うことができなくなることを見込んで、鉄道までバトンをつなげていただく役割を果たしてもらうというイメージです。これは、そのままモーダルコンビネーションのコンセプトにつながると考えています。 

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― コンセプトとしてとても分かりやすいですし、トラックドライバーからするととても嬉しいことですね。

五島さん:そうですね。鉄道輸送がトラックドライバーさんたちの仕事を完全に奪うのではなく、彼らが無理なくできるところまで頑張ってもらうのが一番良いあり方だと思っています。 

渡部さん:これまでトラックドライバーさんたちは、「稼げるから、どんどん走るべき」だと言われてきました。それが今では稼げない上、長時間にわたって拘束される働き方が主流になってしまっているという実情があります。こうした背景も加味し、日帰りで出発地に戻れるようなルートを選んでいただきたいと思っています。その上で、貨物駅がひとつの拠点になるというのはイメージもつきやすいのではないかと思います。

モーダルコンビネーションの課題

― モーダルコンビネーションの課題は、どのようなことが挙げられるでしょうか。

五島さん:モーダルコンビネーションの最大の課題は、トラックから鉄道へ、鉄道からトラックへ荷物を移し替える作業をいかに迅速、かつ低コストで実現できるかです。この課題をクリアできるかどうかが、モーダルコンビネーションの実用性を左右していくと思います。

渡部さん:最近ではトラックのボディと荷台の脱着ができる「スワップボディコンテナ」の導入が進んでいますが、それと同じような対策が必要になると考えています。

五島さん:こうした技術がさらに普及することを見越して、現在JR貨物が力を入れているのは、トラックの結節点として、貨物駅やその周辺で「積替ステーション」というものを展開していくことです。積替ステーションは、トラックと鉄道の間で荷物を積み替えるための専用施設で、貨物列車のすぐ近くまでトラックを寄せることができます。積み替えに必要なスペースも提供しますし、積み替え作業の代行や、必要な設備や機材の準備も検討しています。現状、東京、新座、岐阜、郡山など7カ所の貨物ターミナル駅・貨物駅に設置していて、2025年度までに全国22駅以上に拡大する計画です。

― 2020年には東京貨物ターミナル駅構内に「東京レールゲートWEST」という施設を開業されたそうですが、これはどういった施設でしょうか。

五島さん:「東京レールゲートWEST」は、JR貨物で初めてのマルチテナント型の物流施設です。地上7階建てで、延べ床面積は東京ドーム1.5個分にもなる物流拠点で、当社のこれまでの物流施設と異なるのは「マルチテナント型タイプ」だということ。これまでのターミナルは、日本通運や佐川急便、ヤマト運輸のような物流大手が物流倉庫1棟をまるごと借りていただき、効率よく鉄道コンテナへの荷物の積み下ろし作業を行っていました。しかし、そこに入居していない運送業者は、ターミナルの外にある自社拠点からトラックで荷物を運び込んだり、持ち出したりする形になっていました。そこで「東京レールゲートWEST」では、比較的小口の利用でもフロアの一部を借りて入居できるようにしています。物流を支える全国ネットワークの幹線鉄道とレールゲートをダイレクトにつなぐことで、生産性の向上やスムーズな輸送を実現しています。

― 物流の形を長期的に存続させていく観点からも、モーダルコンビネーションの仕組みは非常に有用だと感じました。次回は「物流業界の未来をどう考えるか」についてお話を伺います。


<取材・編集:ロジ人編集部>


次回の"貨物輸送の未来は、可能性の塊 #03"は 5/24(金)公開予定です、お楽しみに!

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