他社からも評価される強い組織作りの秘訣 #02 【アセンド株式会社代表取締役社長 日下瑞貴】
ロジ人では物流テックと分類される業界の著名人、サービスをインタビューしていきます。今回は、DXにより物流業界の価値最大化を目指す、アセンド株式会社代表取締役社長 日下瑞貴さんにインタビューをしていきます。#02では組織作りのポイントと今後のビジョンについてお聞きしていきたいと思います。
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<プロフィール>
経営における3つのポイント
ー 組織作りにおいて大切にされていることを、教えてください。
経営を考えるときに、事業と組織と財務の3つが大事だと考えています。特に経営資源が限られているスタートアップやベンチャー企業において、一番コミットしなければいけないのは事業をいかに伸ばしていくかということです。さらに、組織と財務も同じくらい重要です。
まず、財務の面からお話すると、大前提としてベンチャーとスタートアップを区別するとすれば、急成長を目指すビジネスモデルなのがスタートアップです。急成長を目指す際はエクイティファイナンスと呼ばれる、株式を渡してお金をもらう形で資金を調達し、その資金を基に急成長を目指します。そして、資金を賢く使うためには、経営戦略が必要です。事業と経営戦略を紐づけて、効果的なお金の使い方を考えていくことが、一番大事なポイントになります。
特に、物流領域のシステムは、作るものが多くて非常に大変です。そのわりに、運送会社はシステムに多額の予算を割くのが難しいため、大手企業に依頼すると数千万から数億、数十億円とかかるシステムを、年間100万円で販売しないといけません。当社のシステムはいわゆる業務基幹システムで、様々な業務をすべて行えるシステムになっています。作るものが多いので、当然優秀なエンジニアも必要ですし事業開発やセールスといった優秀なビジネス側の人間も必要です。これをいきなり作るのは難しいため、長期のビジョンを描き投資家から資金を集めて事業を作っていくことが一つ大事なポイントになります。
そして、同じぐらい大事なのが組織です。SaaSは、基本的に息の長いビジネスモデルです。特にバーティカルSaaSと呼ばれる領域に特化したSaaSは、業界の知見も必要ですし要件も複雑で、非常に長い目で作り込みをしなければいけないのが事業の大きな特徴です。そのため、ドメスティックで厳しい業界に対して思いを持って戦い続けられる組織でないと、この領域では勝負ができないと思っています。
だから、会社を立ち上げた当初から人事制度や等級制度、評価制度、報酬制度を作り、バリューを含めた設計を行い、非常に早い段階から組織投資をしてきました。事業が長期的なものであり、物流業界の価値最大化という大きな目標を達成するためには、100年続く会社を作らなければいけないという気持ちで組織設計をしています。
コンセプトは「良い昭和な会社」
コンセプトは「良い昭和な会社」です。昭和の会社には素晴らしい面があり、昭和の持っていたメンタリティを正しく評価すべきだと考えています。そのメンタリティとは何かというと、一つは公私混同です。公私混同というと一見ネガティブな印象がありますが、そうではなく、仕事を人生の一部として捉え、情熱を持って取り組むメンタリティは素晴らしいと思っています。猛烈な仕事へのコミットメントを、組織に対しても物流業界に対しても活かしていきたいという思いがあります。
しかし、昭和のやり方を、そのまま再現するだけではダメです。非効率に頑張り、とにかく残業をする、「欲しがりません勝つまでは」というようなマインドではいけません。合理性を重視した成長投資を行うことで、事業の伸びにレバレッジを効かせるのが、私の考える「良い昭和な会社」です。
ー 「良い昭和な会社」を作るために、具体的に取り組まれていることはありますか。
創業以来、平日の晩はオフィスで全員でご飯を食べるようにしています(「アセンド食堂」)。「アセンド」という社名は、「成長しよう」という意味を込めてつけました。成長するためには、上司から指摘やフィードバックを受けて自分ができていないところはしっかり認める必要があります。ただ、厳しい指摘を受けることや、未熟な自分を認めることは結構ストレスを感じることです。特に関係性の薄い人から指摘されるのは苦痛です。関係性の薄い人から指摘を受けることは、逆に成長を阻害してしまうと思います。相手の人となりを理解していて素直にフィードバックできる関係を築くことが、成長には必要不可欠だと思います。
そのための手っ取り早い方法が、一緒に食事をすることです。みんなで食事することで仲良くなれますし、何よりも当事者同士がお腹が減った状態で仕事をするのは不健全です。どれだけ忙しくても基本的にコンビニでご飯を済ませずに、ご飯の時間は最低限取るように社員にもお願いしています。心身のバランスを保つことによって、長い目で見たときにしっかり仕事ができるし成長もできると考えているので食事を大切にしています。
また、当社では四半期に1回、大型バスを貸し切って社員旅行を兼ねたオフサイトの研修を行っています。これには、家族やお子さん、パートナーなどにも参加いただいています。9時から15時頃までワークショップを行い、その様子をご家族の方にも見ていただけるようにしています。その後は運動会を実施するのですが、そこにも一緒にご参加いただいています。ご家族からすると、ベンチャー企業で働くことを不安に感じると思うんです。そこで、実際に会社の状況や雰囲気を知っていただいて安心できる会社であることを示すのが、ひとつの狙いです。
それから、スタートアップは非常に忙しくて変化も激しいので、四半期に一度のオフサイト研修で全社のリズムを作り、同じ目標に向かうために現在地を確認することも大切だと考えています。私の感覚からすると、スタートアップは時間軸が2倍から2.5倍なんです。そのため、半年や1年に1回の全社総会では、間隔が空き過ぎるんです。だから、3ヶ月に1回のオフサイトの研修の場で現在の状況や各チームの考え方について、経営陣に全て話してもらっています。そしてその内容を踏まえて、長期戦略やカルチャーに関するワークショップを行っています。その後は、運動会、飲み会と続いていくのが当社のオフサイト研修の流れです。
ー お話を聞いていて、非常に結束力の強さを感じました。
毎週月曜日の夜開催している全社会議に、他社のスタートアップの社長などに来ていただくこともあるのですが、「ここまで強い組織は見たことがない」と言っていただけます。創業当初から組織投資はこだわってきた部分でもありますし、PDCAサイクルを回し続けた結果、良い会社になってきていると感じています。また、入口の採用の段階で当社に合うマインドを持っている人物なのか、しっかりと見極めるようにしています。
目指すは「物流業界の価値最大化」
ー 日下さんが描かれている、将来のビジョンをお聞かせください。
創業以来ミッションとして掲げているのが、「物流業界の価値最大化」です。これには大きく2つのポイントがあります。一つは、いま、ロジックスを提供している運送業界だけではなく、物流業界全体を主語にすることです。荷物を運んでもらいたい人にとっては運送費はコストとなりますが、一方で荷物を運ぶ側にとっては売り上げとなります。そうなると、荷物を運ぶ側としては料金を高く取りたいし、荷物を運んでもらう側にとっては安くしてほしいと考え、利益相反になってしまいます。そのため、どちらか一方の課題を解決しようとしても物流業界全体の課題解決は進んでいきません。
また、2030年までに需要と供給のギャップが35%ほどに広がる可能性があると予測されていますが、実は日本の物流は4割ほどしか効率的に使えていないという事実もあります。荷物の積載率は4割と言われており、つまり6割は空気を運んでいるということになります。人手が足りないと言いながら、非効率なままないがしろにされているのが日本の物流業界だと私は考えています。欧米などでは積載率が6割あり、日本も2000年代には5割を超えていました。物流は非効率になってしまっている現状があり、デジタル化を進めて、荷物を運んでもらいたい側・運ぶ側双方がwin-winになるスキームを生み出し、業界全体を良くしていこうというのがミッションに込めた一つ目の意味です。
もう一つは、価値最大化に込めた意味です。物流業界のように業界慣行や商習慣がゆがんでしまっている場合はシステムやITだけでは限界があり、市場やルール自体をどのように変えていくのかまで踏み込んでいく必要があります。業界のルールや商慣行を変革することについても積極的に意見を述べ、自分たちが正しいと思う市場形成を目指して当社ではコンサルティングも行っています。
システムとコンサルティングを両立していくことが当社のミッションであり、やり続けていくことが物流業界の前進に繋がると思っています。使命を果たすために、粘り強く地道に取り組み続けていくことが当社の目指す形です。
ー 日下さんの会社や物流業界に対する熱い思いを、とても感じました。次回は物流業界の魅力と若手に向けたキャリア形成のポイントについて伺いたいと思います。
<取材・編集:ロジ人編集部>
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