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論理的な文章の簡単な部分と難しい部分

論理的な文章を書くにあたり、簡単な部分と難しい部分がある。簡単なのは、パラグラフで書くことだ。一方、難しいのは、パラグラフでロジックを組むことである。ロジックを組む、つまりトピックを横に並べ、縦につなげることは相当難しい。

パラグラフを書くことは簡単だ。なぜなら、書き方のルール従って書けば良いから。まず、Topic sentence を簡潔に書く。その Topic に対して、PREPを意識して Supporting sentences を展開する。展開するときは、既知から未知に文をつなぐ。Supporting sentences が4-8文相当になったら、Conclusion sentence を書く。基本ルールに基づくだけだから、パラグラフで書くのは簡単だ。

一方で、パラグラフでロジックを縦横で組むのが難しい。なぜなら、ロジックはルールに従うのではなく、自分で考えて作らねばならないから。典型的なパターンのロジック(本マガジンの「論理展開の8パターン」https://note.com/logicalskill/n/n892a58684ae1?magazine_key=mf8caf790fa2e)で全ての文章が書けるなら、考えることはほぼないので簡単だ。しかし、「論理展開の8パターン」は、大まかな分類に過ぎない。実際には、その場に応じたロジックを考えなければならない。つまり、思考単位であるトピックを、その説明に適したように、横に並べ、縦につなげなければならない。パターンに頼れないので、ロジックを組むのが難しいのだ。

たとえば、単純な横(並列)のロジックでも、論理的な並列は難しい。並列しようとしているットピックは本当に並列か?MECEになっているか?なぜ、他の要素はリストアップしないのか?こういったことを根拠を持って説明できなけければならい。こういうことを考えない並列は、ただ思いついた情報を並べただけだ。そんな並列では論理性は出ない。並列のロジックを組むだけでも簡単なことではない。

まして、ロジックを縦につなぐには、相当な訓練が必要だ。なぜなら、人は情報の非対称性に騙されて、頭の中だけで情報をつなぐからだ。書き手はつながっているつもりかもしれないが、読み手には理解できない。いやそもそも、情報をつなぐ意識すらない人も多い。情報を並べるだけで説明した気になっている人は多い。ロジックを縦につなぐのはかなり難しい。

ロジックがつながっていない、つながっているように読めない例を紹介しよう。下記の例は、「仕事文の書き方」(高橋昭男,岩波書籍)において、「じつによくできている. 仕事文の模範といえる」と評された文章である。しかし、ロジックのつながりが分からない。たとえば、文章中に「いい品物をじっくり選んで, お求めになる“賢明な消費者" が増えていく」とある。この主張は、どの情報で指示されているのか?他にもツッコミどころは満載である。

宝飾サロンからのお願い
 当百貨店のお客様層は,他店にくらべご年配の方のご来店が多く,接客数と購買顧客数の比率も他店に比較して,高いというデータが統計的に確認されております.
 バブル期にくらべ,お客様の購買力は,たしかに落ちております.これは,日本経済新間などでも報道されているとおりでございます.
 しかし,子育てを終えた熟年層は,ほんとうにほしい品で,価格が合えば購入したい,そんなおしゃれ心を潜在的におもちのようです.
 また,4 月からの消費税率の改訂前に,お求めになりたい旨を,お口に出されるお客様も,時折お見えになられます.
 このような時期ですので,いい品物をじっくり選んで,お求めになる “賢明な消費者" が増えていくことを視野に入れた販売を第一義にしたいと考えています.別紙にあげた製品でしたら,このようなきびしいニーズにも対処しうると思います.
 1995 年6月に,はじめて御社製品を店頭に並べたときのお客様の強烈な反応が,いまでも思い出されます.私どもでも,初心に返り,あのときのお客様の喜ぶ顔を脳裏に描いて,店頭を飾らせていただ ぎます.
 なお,ネックレスにつきましては,お客様より貴重なご意見を賜っておりますので,その情報もあわせてご通知申し上げます.
 以上の件につきまして,お手数ですが,当社担当の高橋までご連絡ください.ファクシミリで結構でございます.

「仕事文の書き方」(高橋昭男,岩波書籍)

ロジックを、パラグラフで展開することは比較的簡単だ。一方、ロジックを組むことはかなり難しい。トピックを正しく横に並べ、明確に縦につなげるには、相当な訓練が必要だ。

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