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文学的な文章と論理的な文章(4)

再掲載:
文学的な文章と論理的な文章の相違点と類似点を分析する第四回目(最終回)。この考察は、2012年に講談社の「本」という雑誌への寄稿である(今回、一部改編)。この記事は、大同大と京都学園大で、受験問題としても使われた。なお、ここで言う文学的な文章とは、小説やエッセイ、作文を指す。一方、論理的な文章とは、ビジネス文章や小論文、論説文と考えてもらいたい。

今回のポイント:
論理的な文章は明確に書くが、文学的な文章は曖昧でもかまわない。相違点ばかりではなく、具体的に書くという点は、どちらの文章も共通だ。

論理的な文章は、誤解を招かない明確な表現を使う。10人いたら10人が同じ理解になるように表現する。10人のうち、1人でも誤解する、あるいは理解できない可能性があるなら、その内容は丁寧に説明する。したがって、多少くどくなることもある。論理的な文章では、明確であることが求められる。

一方、文学的な文章は、読み手によって意味が多少変わってもかまわない。読み手の心情や経験によって、感じ方が変わるのが文学的な味わいである。したがって、あえてすべては書かない。書いていない部分を読み手が膨らませるので味わいが出る。文学的な文章では、曖昧さも求められる。

ここまで読むと、文学的な文章と論理的な文章は相違点ばかりのように思える。そこで、最後に類似点について指摘しておこう。どちらの文章も、具体的な説明が説得力を生む。

論理的な文章では、根拠を具体的に述べる。つまり、具体例やデータを使う。たとえば、「社内公用語を英語にすべきである」と主張するなら、なぜそうすべきかを具体的に述べる。「グローバル社会では英語が必須」などと、抽象的なことを述べても人を説得することはできない。社内公用語を英語にすると、社員の英語力がどのくらい向上するのか、会社はビジネスのどのくらいを海外に依存しようとしているのか、社員の何パーセントが英語でのビジネスを必要とするのか、その英語力はどの程度必要かなど、具体的な情報が必要だ。こういう情報があると、「社内公用語を英語にすべきである」という主張に説得力が生まれる。論理的な文章では、具体的な説明が求められる。

文学的な文章では、状況を具体的に描写する。たとえば、主人公の悔しさを伝えたいなら、主人公の表情や動作を具体的に描写する。「彼は悔しそうだった」などと、抽象的な描写では悔しさは伝わらない。「彼は帰りの電車の中で一言もしゃべらなかった。正面を向き、一点を見つめていた。時々目を閉じ少し上を向いた。手は、膝の上に置かれていたが、こぶしを強く握りしめていた。時々、小さな声を上げて床を蹴った」のような、具体的な描写が、人に悔しさを伝えるのである。文学的文章でも、具体的な説明が求められる。

論理的な文章と文学的な文章では、具体的に書くかどうかという差がある。一方で、具体的に書くことは、どちらの文章も共通である。

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