見出し画像

推奨図書3「読ませる技術聞かせる技術」

認知心理について、素人でも分かるように書かれた本は少ない。この、「読ませる技術聞かせる技術」(海保博之、ブルーバックス)には、二重貯蔵モデルやメンタルモデルが詳しく説明してある。正直、この本を読まずに「分かりやすさ」は語れない。

認知心理学とライティングを関連づけることは、テクニカル・ライティングの世界ではかなり昔から一般的だ。テクニカル・ライティングを欧米で専門的に学べば、認知心理学の授業は避けて通れない。なぜなら、「分かりやすさ」という感覚では、書き手と読み手の「分かりやすさ」の差を埋められないからだ。そこで、「分かりやすさ」を感覚から理屈に落とす。理屈になれば、その理屈に基づいて書くことで、書き手と読み手の「分かりやすさ」の差を埋められる。ライティングを勉強するには、認知心理学の基本を避けて通れない。

本書では、認知心理学をベースにすることで、類書と差別化を図っている。たとえば、以下のような説明がある。
---引用---
類書はたくさんある。『話し上手』『実践話しことば教室』『発表する技術』『講義の進め方・話しし方』『プレゼンテーションの技術』『文章構成法』『短い文章のコツ』『文章読本』『原稿の書き方』『科学論文をどう書くか』『マニュアルの書き方』『自分の考えを正確に伝え相手を納得させる法』などなど。
 これらと本書はどこが違うか。
 筆者は、人の認知機能、すなわち見たり、覚えたり、考えたりする人間の頭の働きについて研究している。そこでは、「わかる」とはどういう頭の働きかが研究の一つの基本テーマとなっている。そこから得られた知見を最大限に活川してみると、これまでとは一味違った内容の本ができるのではないかとの思いから、本書を書いてみた。

特に大事なのが、二重貯蔵モデルとメンタルモデルだ。本書では、それぞれを、1章ずつ割いて説明している(下記の目次参照)。この2つのモデルは、「分かりやすさ」を理解する上では、とても大事な概念だ。この2つのモデルを、素人でも分かるように書かれている本を、私は見たことがない。
--- 目次から引用 ---
 第1章 わかる技術の基礎~人間の情報処理ソステム
  1節 人間は情報を処理するシステム
   人間ってどんなもの/人間をコンピュータにたとえると
  2節 情報処理システムとしての人間
   短期間に情報を処理する/情報を変換する/情報を長期間蓄える/思い出せない
--- 目次から引用 ---
 第6章 相手の知識の世界に配慮する
  1節 人は誰でも自分なりの世界を持つ
   メンタルモデルーー頭の中に作る自分の世界/メンタルモデルとは
  2節 メンタルモデルがもたらすもの
   情報を処理しやすくする/人を誤らせる
  3節 メンタルモデルに配慮したわかりやすい表現
   相手のメンタルモデルを徹底して考える/相手の知識が少ないとき/相手のメンタルモデルの質に配慮する/たとえを使う/意味を先に/題目語(文)は前に/概要を先に/今、何をしているのかをはっきり

本書の残念な部分は、認知心理的な説明に優れている一方で、ライティングの理解が不十分なところだ。まあ、認知心理学の専門家であって、ライティングの指導者ではないのだから仕方ない。パラグラフに関する記述があるが、間違っている。自らもパラグラフを使えてはいない。ライティングに関わる部分は、読まなくてもかまわない。

実は、この出版には筆者が一枚噛んでいる。この本のベースになっている本、『こうすればわかりやすい表現』(海保博之)がよい本であることを、あるSNSで紹介した。その投稿を、知り合いの講談社ブルーバックスの編集者が目に留め、新装版の発売に結びついたのだ。出版に当たっては寄贈もしていただいた。

認知心理について、素人でも分かるように書かれた「読ませる技術聞かせる技術」(海保博之、ブルーバックス)はお勧めである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?