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愛しのおばあちゃん〜前編〜

父は県外出身で結婚してから母の地元で暮らしていた。
なので、子供の頃の家族旅行といえばお盆とお正月の里帰りだった。

私も弟も小学生までは一緒に行っていたが、中学生からは行かなくなった。
そのため、祖父母のカズオさんとミホコさんとの子どもの頃の思い出はあまりない。

父は弟2人と妹のいる第一子の長男だ。
そんな父が1番に亡くなった。
突然倒れて意識を取り戻さないまま誰にもサヨナラを言わず逝ってしまった。
そして父の両親より早く亡くなった。
父の葬儀で久し振りに会ったカズオさんとミホコさんは記憶の中のおじいちゃんとおばあちゃんより小さくなっていた。
そして10年以上振りに会ったミホコさんの髪は紫色になっていた。

父が亡くなって悲しかった。
キミさんが亡くなった時とは全く違う悲しみだった。
これから私たちどうなっちゃうんだろうという不安もあった。
大人になった弟が本気で泣いているのを初めて見て、これからは姉ちゃんが家族を守らなきゃと思った。

でもどうしてもどうしても聞きたかった。

「おばあちゃん、なんで髪の毛紫にしたん?それがおばあちゃん地方で流行ってるの?」
「私はイヤだったけど美容師さんがこれがいいって言うから。」
「イヤだって言えばよかったのに。」
「近所の美容室だから言いにくくて。」
と、フフフと笑うミホコさん。
案外気に入っていたのかもしれない。

父方家の宗派を知らない母はミホコさんに
「お義母さん、私の実家は臨済宗だけど父方家の宗派は何?」と聞くと
「うちも同じだから。」
とハッキリ答えていた。
安心した母は母方家の菩提寺にお通夜と葬儀をお願いした。
父の葬儀が終わり、遺影とお骨の前でボーっとしていた私と弟とカズオさんとミホコさん。
ふと弟が、
「お父さん、誕生日がきて1ヶ月もしないうちに死んじゃったね。」
と言ったときミホコさんが
「お父さんの誕生日、ホントは◯月△日じゃないよ。」
と言い出した。
えっ⁉
「えっ、じゃあお父さんのホントの誕生日はいつ?なんでホントの誕生日じゃないの?お父さんはそれを知ってたの?」と驚いて聞く私たちにミホコさんは、
「あの時は戦後で色々大変だったから混乱していて間違えた日にちで届けを出してしまった。ホントの誕生日は忘れた。お父さんは知らないよ。だって今思い出したんだから。」と、フフフと笑うミホコさん。
ちょっと父が不憫になり、私と弟は父の遺影から目をそらした。

そして迎えた初盆。
家紋入りのお盆提灯を作る時、母は電話で家紋をミホコさんに聞いていた。
飾られた提灯を見て
「へぇー、これが我が家の家紋か。」
と思ったのだが、違っていた。
母、大激怒。
一回だけしか活躍していないどこかの家の家紋入り提灯は今でも我が家の押入れの奥に眠っている。
もちろんミホコさんに悪気はないし認知症でもない。
我が子を亡くした悲しみと動揺の中にあったのだろう。

本来なら長男である父のお墓は父の田舎に建てるのだが、ミホコさんは
「あなたたち家族がいる所に建ててあげて。」
と言ってくれた。
これには母もとても感謝して提灯のことは水に流したらしい。

ただ、お墓を建てる時の家紋は父の妹である叔母に何度も確認し写メも送って貰っていた。

まぁそうなるよね。

そして約1年後。
カズオさんが静かに逝った。
カズオさんの葬儀の最中、なんだか聞き覚えのない御経だなと思い、
「臨済宗って地域によって御経が違うの?」と聞いた私に
「黙って。」
と母が怖い顔で言った。

カズオさんの葬儀が終わって母は私に
「臨済宗じゃない!父方家は臨済宗じゃなかった。またお義母さん間違えてた!」
と激怒していた。
当然ミホコさんに悪気はないし認知症でももちろんない。
あの時は我が子を亡くした悲しみと動揺の真っ只中にあったのだろう。

でもここまでくれば面白い。
ミホコさんって面白い人だったんだ。
父はちょっと不憫だけど。

続く…







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