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LODGE と io.LEAGUE 〜プロスポーツ興行における新たなテーゼ〜

こんにちは。
オープンコラボレーショハブ「LODGE」の運営責任者を務める徳應(とくお)です。

2023年1月10日(火)から13日(金)の4日間、プロボウリングの新たな取り組み『io.LEAGUE SHOWCASE』が開催されました。
東西2つのボウリング場に6チーム30名のプロボウラーが集まり、リモートで対戦。
LODGEには、同じくリモートで実況解説を行うブースが設営され、公益社団法人日本プロボウリング協会(JPBA)の谷口健会長、渡辺けあきプロ、土方捷プロが解説を務められました(冒頭の写真)。

LODGEがio.LEAGUEに参画する意義

私は会社から外部委員会への派遣という形式で「io.LEAGUE実行委員会」に参画しました。

ボウリングは球技の中では唯一、対戦相手と同じ場所に集合しなくてもリモートで対戦が成立する競技です。
またスコアリングシステムもデジタル化されており、テクノロジーの力で興行をサポートする素地はすでにあるカテゴリ、ともいえます。
コロナ禍がいつまで続くかわからない状況でも、リモート対戦によってプロボウラーの皆さんが試合会場まで長距離移動せず競技可能というボウリングの特長は、プロスポーツ興行の新たなテーゼとして話題になり得ると考えました。
またボウリングは子供からお年寄りまで あらゆる世代の方が親しんでおり、公共性があるレジャーです。

LODGEは「公共公益」「新規性・先進性」を軸に、オープンコラボレーション活動に取り組んでいます。
本件は「公共」「先進性」この両面で、JPBAのプロジェクトを通じて「情報技術の力を用いて社会課題に貢献する」というLODGEのミッションとも結びつくと考えました。

参画までの経緯

私が競技ボウリングの世界に魅了されたのは2018年後半で、初めてマイボールを作りました。
シューズもボールもボウリング場で借りる「レジャーボウリング」と、コンディション(レーン上にひいてあるオイルの設定や量)の異なる条件で性能の異なるマイボールを使い分けて闘う「競技ボウリング」が全く別世界であることは、詳しく知りませんでした。
まだ競技キャリアは4年ほどですが、のめり込み熱中しています。
ボウリング場が主催するリーグ戦に毎週参加、週末には各地のボウリング場へ遠征し、プロチャレンジ(プロボウラーと一緒に3〜4ゲームを競技できるイベント)に繰り返し参加してきました。

2020年、新型コロナウイルス流行の第1波により世の中が隔絶され始めた頃、知り合いとなったプロボウラーのかたを介して新プロリーグに関する計画のご紹介、協力依頼のご相談をいただきました。
2021年の秋、幕張メッセの『Inter BEE 2021』パナソニックブースで出展されたテストケースには、1時間おきのライブに多くのギャラリーが集まり、リモート対戦のアウトラインに期待が寄せられました。
私も幕張の会場を訪ね、パナソニック コネクト社のIT/TPプラットフォーム「KAIROS(ケイロス)」で配信するデモンストレーションを撮影してきた動画資料がありますので、ご覧ください。

やがて2022年の春から、JPBA傘下の新リーグ実行委員会(現io.LEAGUE実行委員会)に参画しました。

ご紹介いただいた計画は、以下のようなものでした。

  • 遠隔地同士のリモート対戦

  • ライブ配信

  • 複数のプロボウラーたちで結成されるチーム戦

  • 従前のスコア方式とは異なる、新たな世界標準となるカレントフレーム・スコアリングシステムの採用

  • 既存の公式戦(個人戦)の開催が比較的少ない上半期に開催、競技カレンダーの充実を図る

これらの要件に新規性・先進性を感じ、これからのプロスポーツ興行の新たな世界観を世の中へ示す機会になると考えました。
また協会内のみで構成されてきた旧委員会では議論や準備に時間がかかってきたとうかがい、外部から第三者が関与することでスピードアップを図れるのであればと参画することにしました。
ほかにもパナソニック映像、JPBAのオフィシャルメディアパートナーであるSITE4Dなど、数社の外部参画者が集いました。

遠隔地同士のリモート対戦をライブ配信

前述の通り、ボウリングは球技の中では唯一 リモート対戦が成立する競技です。

最初にご相談をいただいた2020年初頭は、『KUWATA CUP』などの公式戦(プロが賞金やランキングをかけて戦う試合)がコロナ禍により中止となった時期で、プロ野球やJリーグなどその他のプロスポーツも開幕延期となっていました。
コロナ禍の営業制限や行動自粛要請により残念ながら廃業されるボウリング場も現れた業界の景況において、リモート対戦によって試合会場への移動コストを軽減できることは、競技プロボウラーの経済的負担を抑える点でも有効といえます。
現在の技術水準であればブロードバンド回線を用いて高品質映像の中継配信が可能で、中継車や電源車などの大掛かりな設備調達は必要ありません。
コスト面でも本計画の実現性を後押ししてくれます。

既存の公式戦には、その試合会場となるボウリング場へ足を運び観戦するファンがいますが、コロナ禍初期の中断期を経て再開されてからは安全確保のため無観客開催が続きました。
ボウリング場の観客収容人数には限界があるため、メディアを介して視聴観戦できることは必要でしたが、往年のボウリングブームが去り地上波放映がない現在、テクノロジーの力を借りてライブ配信で試合をお届けすることは、プロとファンをつなぐ手段として重要な役割を担っています。

既存の公式戦でも、ライブ配信はすでに行われています。
ただし予選から決勝まで、最終勝者が決まるまで数日間かけて数十ゲームをプレイするため、非常に長く、初めて観る人にとっては「同じような映像が延々流れている」と感じるかもしれません。
私も、所用で忙しいときはライブ視聴をあきらめ、あとで終盤だけアーカイブ視聴したり、結果だけ確認するということもあります。

試合のどこを切り取っても常にエキサイティングであれば「後で結果を知る」「アーカイブで視聴する」よりも「ライブで観る」ことの価値が高まります。
ビジネス面では、ライブ配信の価値向上、連続視聴時間の伸長は、掲載される広告の価値も高めます。
このためインフラ面だけではなく試合内容も「今までと同じ」ような試合フォーマットではなく、わかりやすさ、ワクワクする試合展開の実現、を盛り込むことが大切でした。

チーム戦と新たな採点方式の採用

去る東京五輪の競技選定において、ボウリングは最終選考まで残りましたが、正式種目として採用されるには至りませんでした。
各国での競技人口から、再チャレンジするとしたら2028年に開催予定のロサンゼルス五輪、となります。
改めて種目採用を目指す上で克服すべき課題のひとつに「わかりづらさ」が挙げられます。

従前のスコア方式は、ストライク(1投で10本全てのピンを倒す)やスペア(2投めで残りピンも全て倒す)の際の得点は、直後の1回〜2回のフレームで倒したピンも加算されますが、ボウリングをやらない人にはわかりづらい、という課題があります。
計算方式が複雑であるという点と、得点がすぐに確定しない、という2つのわかりづらさです。

『io.LEAGUE SHOWCASE』で採用したカレントフレーム・スコアリングシステムは、ストライクは30点、スペアは10点+1投めで倒したピン数(例:1投め9本からのスペアは19点)、となっており、最終の第10フレームも最大2投めまで、ストライクなら1投で終わり、というものです。
従来と比べて「常にそのフレームだけで得点が確定する」わかりやすさがあります。
すでに国際大会で採用されているケースがあり、今後、拡大していく可能性が高い方式です。

さらに個人戦ではなくチーム戦とすることで、全選手の調子が整ったときに初めて高得点が望めるという真剣勝負の緊張感、またチーム内でのコミュニケーションやコーチングによって互いのスキルを補完し合いニューヒーローの出現を促す、という演出効果を期待しました。

順位をつける上での勝点方式は、私が日頃参加しているリーグ戦での勝点方式を参考に、消化試合を生まない競り合いの展開を期待し、配点の重みづけを工夫して提案しました。
パーフェクト(1ゲーム全てストライクの300点)、シリーズ800(3ゲームの合計が800点以上。30回のうち最低21回はストライクを出さないと到達しない高難度)へのボーナスポイントも設け、試合終盤の盛り上がりにつながるシーンが何度も見られました。

  • 3日め チーム埼玉 シリーズ800に挑戦(永野すばるプロ投球)

  • 4日め チーム大阪 シリーズ800に挑戦(久保田彩花プロ投球)

いずれも最終ゲームの第10フレーム、緊迫したシーンでした。
該当のシーンをご用意しました。


早く短く劇的に、Z世代への対応

「レジャー白書」によると、ボウリング人口の推移は、総数が減少傾向である一方、60代以上の占める比率は増加傾向にあります。
マーケットを広げるには、若年層の新規獲得が必要です。
生まれながらのデジタルネイティブ、スマホネイティブである「Z世代」は、長時間かけて結果を追うよりも、短時間ですぐに結果がわかることを好む傾向、といわれています。
ドラマも1.x倍速で観る、試合もポイントポイントへスキップして観る、などの行動観察に現れています。
これらのマーケティングデータをもとに、試合時間の短縮を目指しました。

カレントフレーム・スコアリングシステムは、10投全てストライクでパーフェクト300点(従前のスコア方式だと12投ストライクで300点)も、時間短縮につながります。
第9フレーム(ファンデーション・フレーム)と第10フレーム(最大3投)に重みがある従前のスコア方式に比べ、カレントフレーム・スコアリングシステムでは第9・第10フレームも他と等しくなりますが、裏返せば1フレームめから常にストライクを狙うことが重要です。
またスプリット(離れたピンが残る状態)でスペアを取れず、いったんスコアが停滞しても、次のフレームから改めてストライクを狙えば逆転のチャンスがある、ということも今回の『SHOWCASE』で起きた数々のドラマでプロボウラーの皆さんが証明してくれました。

選手交代の導入も「ボウリングに選手交代?」という新機軸です。
1日目にはチーム千葉の霜出佳奈プロが 3ゲームめ後半に交代出場していきなりストライク、チームに初の勝点をもたらすとともに試合の逆転勝利に貢献するというドラマが生まれました。
こちらも該当のシーンをご紹介します。

これら戦略の転換もエキサイティングで新鮮味があり、ゲームやアニメでの劇的な展開に慣れ親しんでいるZ世代にも十分な刺激になると考えます。

既存の公式戦では、4〜6人のプロが1つのボックス(2つ並びのレーン単位)でゴルフのパーティのように競技し、予選の6〜8ゲーム単位で3時間ほどかけて順位をつけることが多いです。
参加選手が多い大規模な大会ではグループを分けて、これを複数回繰り返します。
じつに長いプログラムです。

これよりも短い時間で勝敗がつくことを狙い、今回の『SHOWCASE』では1試合3ゲーム、1時間弱で設計しています。
協会ゲームディレクターの仕切り、およびパートナーであるパナソニック映像から各拠点へ派遣いただいたディレクターの連携により、東西に分かれていても相手チームの会場の様子をリアルタイムにモニターできて適切なタイミングで自チームの投球に入る、というプロセスを実現して、スピーディーな試合進行の助けとなっています。

新たなテーゼのスタート地点に立った『io.LEAGUE』

『SHOWCASE』はテストケースであるがゆえに十分な事前プロモーションをできませんでしたが、日を追うごとに視聴者は増え認知が拡がり、またその評価にもポジティブな感想、来る本格シーズンへの期待が多く含まれていました。

  • 新しい試みで新鮮

  • わかりやすい

  • 展開が目まぐるしく目が離せない

  • スピーディなのがいい

  • 背番号制が新しい

  • チームの選手が励まし合っているのが個人戦とは違って印象的

  • 『SHOWCASE 2』をやってほしい

狙い通りの感想をたくさんいただきました。
もちろん、やってみて浮かび上がった課題もあり、数多くの改善フィードバックもいただきました。
テストケースであるがゆえに『SHOWCASE』では各チームにコーチ(監督)を配置できず、キャプテンの負荷が高かったことなどです。
これらを総括してブラッシュアップし、2024年以降に計画している本格的な『io.LEAGUE』の立ち上げを目指します。

従前の公式戦は年間の下半期に集中し、上半期には比較的スケジュールに余裕があります。
この時期にチーム戦である『io.LEAGUE』が開催され、公式戦とのそれぞれの特長を活かして認知拡大やファン獲得を補完し合う構造になることを期待します。
その先には、プロボウラーの活躍機会の増加、各ボウリング場のレジャーボウラー増加から競技ボウラーへの転向増加と用具・グッズ購入増加、ジュニア世代の参入増加、と業界全体の市場拡大の夢は続きます。
こうした盛り上がりを足がかりに、国際大会への成長や五輪種目採択を目指します。

現在がスタート地点です。
『SHOWCASE』は「しかけ」で、来年以降の本格的シーズンで持続性のあるリーグの「しくみ」を作っていきます。
特に私の立ち位置では、テクノロジーに裏打ちされた演出の提案、マーケディングデータを視野に入れたクラブ編成やゲームルールの確立などの面から、サービス企業でのPMO経験をもって引き続き支援していきます。
コラボレーターであるLODGEとして、Zホールディングスグループのアセットなど内外のパートナーシップご紹介や、さらなるコネクティングを通じて、プロジェクトの成長を目指します。

編成されたチームは、今大会『io.LEAGUE SHOWCASE』限りであり、大会終了後、解散しました。
2024年以降に計画している『io.LEAGUE』レギュラーシーズンでは、設立された各クラブからJPBAプロボウラーへのスカウトによって、チームが編成されます。

JPBA/『io.LEAGUE』公式サイトより引用

最後に、いちボウリングファンとしての個人的見解を添えます。
今回の30人は「最初の30人」であって、この後に続く『io.LEAGUE』でさまざまなチーム、さまざまなプロボウラー、ボウリング場やメーカーなど業界各企業やサポーターが参画していき、リーグも業界も青天井に盛り上がっていったらよいなと期待します。
前述の「レジャー白書」によれば、ボウリングは子供からご年配まであらゆる世代の人が親しめる、競技人口は球技の中で最大規模を誇るスポーツです。
『io.LEAGUE』をきっかけとして、ボウリングを楽しむ人が再び増えていくことを願っています。