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モンゴル食紀行/食思考 第10回 生命維持の余剰、肉のイデア 太田充胤

Nomad horse campを去る日、ムギさんと奥様がウランバートルのホテルまで車で送ってくれた。

二人もウランバートルの家に帰るのだと言う。ここまで知らずにいたが、どうやらムギさん、平日は別の仕事を持っているらしい。平日は二人で市街に暮らし、キャンプでの仕事が多い休日を中心に、Nomad horse campに滞在しているわけだ。言ってみれば週末遊牧民である。都市と大草原を2時間足らずで往復できるモンゴルならではの生活スタイルだ。

さて、「2時間足らずで往復」と書いたが、それは渋滞がなければの話である。
その日は信じられないくらいひどい渋滞だった。ウランバートル市街に入るエリアで、車は完全に止まってしまった。夕方にキャンプを出たときにはまだ明るかったが、歩くような速さでじりじりと市街を進むうちに辺りは真っ暗になっていた。我々は夜の街を眺めながら、とりとめのない会話を続けた。

思えば連載が始まってから草原の話ばかりしているので、モンゴルは草原ばかりの国だと思われているかもしれないがそうではない。実際のウランバートルは、それなりに「都会」である。空は広いし背の低い建物がほとんどだが、一部にはホテルをはじめとして高い建物も立ち並ぶ。夜になればネオンで輝く…と言えば言い過ぎだが、中心部は夜でも思いのほか明るいし、通りにはオシャレでスタイリッシュな若者が闊歩し、ホテル高層階のラウンジバーで酒を飲んでいたりする、そういう町である。

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