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ロカストコンテンツガイド(映像5)『アメリカン・ユートピア』伏見 瞬


 『アメリカン・ユートピア』を観ていて感じたのは、デヴィッド・バーンは「い~」の歌い手であるということだ。
 デヴィッド・バーンといえば、どこか「知性派」、悪く言えば「頭でっかち」の印象を持たれる音楽家だった。トーキング・ヘッズのフロントマンとして1970年代後半に名を成し、今に至るまで現役で活躍する、無感情な歌声の、神経質そうなひょろ長のニューヨーカー。パンク・ムーブメントの中でもトーキング・ヘッズは熱さや衝動とは無縁のインテリ気質を漂わせるバンドであり、R&Bやアフリカ音楽への愛着も、理知的なアウトプットに溶け込んでいた。バーンの声やルックスも含めたキャラクターが、バンドの「頭でっかち」な印象に大きく寄与していたのは間違いない。
 そんなデヴィッド・バーンも今や70歳手前。体力は衰えているはずの年齢なわけだが、今回の映画『アメリカン・ユートピア』は、彼のキャリア史上最も肉感的な作品だ。

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