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#マイクロダイアリー

夜のシーツお化けの巨視的ルーティーン(河野咲子のマイクロダイアリー8月12日)

朝の時間が東から訪れるのと同様に夜の時間もまた東から訪れるのだというごく当然のことをわたしは大抵覚えていない。 確かめるためにはごく単純な手順をふめばよく、まずはスマートフォンを手に取って顔の前にしばらく掲げ、ロック解除されたらホーム画面を右にスワイプ。整然とならんでいる角丸の正方形のアプリアイコンのうえから4段目のいちばん右、思いのほか親指でタップしやすい箇所の、明るめの藍色に触れて画面をひらく。はじめに気づくのはそこに緑褐色のオーストラリア大陸が描かれていること、そうだ

濡れた草むらの住人たち…(河野咲子のマイクロダイアリー7月16日)

湿った草むらのなかにIさんが手を突っ込み、ざわざわと草をゆらしつつ跳ねてゆくなにかを追っていく。その指の先になにがあるのかわたしの目にはわからないがどうやらとても小さく、おそらくは緑色の生きものであることが見てとれる。「バッタですか?」と聞けば「かえるです」と答えた。 「逃げた」 吊るさないタイプの絵馬があり(立て札のように地面からにょっきりと生えていた。それを絵馬と呼んでよいものかわからない)、油性ペンが添えてあった。コロナが収まりますように、ウクライナに平和がおとずれま

ラムネ瓶について知らなかったいくつかのこと(河野咲子のマイクロダイアリー7月10日)

夜。ばらりとした群れをなして公園通りを下り、なにか飲みものを買おうといってコンビニに入り、まっさきに目に入った瓶を即座につかんでわたしはもうレジで会計をしている。瓶をにぎりしめて外に出たとき、ゆっくり歩いてきた面々がようやくコンビニに入ろうとしていた。 旅に出る直前のロカストの会議は、なにかを熟議するための会議というよりもちょっとした前夜祭のように浮き足立っている。浮き足立ったまま夕飯を食べていたら店が閉まり、全員入れるような次の店を探すのが面倒になって、なぜか学生みたいに

12個の直方体(河野咲子のマイクロダイアリー7月7日)

かぞえてみると12個ある。長さは4cmくらい、太さは1cm四方。全体的に青い粉をうっすらまとっている。 くすんだ白。うすももいろ。灰色。こげちゃ。黄色。土色。あお。あいいろ。くろ。茶色。あか。ふかみどり。 パステルの箱をしめ、裏返し、答え合わせをする。

タクシー譚(抄)(河野咲子のマイクロダイアリー7月1日)

改札を出て、駅の階段を降りてゆくとなめらかすぎるロータリーが目に入る。深夜、ここから中心街のホテルに行くまでの電車もバスも走っていないことを知ったのは新幹線の終電に乗ったあとのことだった。 たった一台のタクシーがロータリーに泊まっていたのでそれを逃すまいと早足で近づいてゆくと、さほど近づいてもいないうちにタクシーの扉がぱかりと開いた。なおも近づいてゆきながらわたしはホテルの名前が思い出せないでいた。首尾よくひらいた扉からまずは車内にすべりこみ、間を持たせるために「ホテルに行

白さのために見分けがつかない(河野咲子のマイクロダイアリー6月30日)

直径3cm程度のまるいもの。たいていそれらは複数でひとまとまりになっている。碁石でもオセロでもないけれど、はんぶんは薄茶色をしてもうはんぶんは白い、と言ってみるとほんとうに白いものだったかにわかに自信がなくなってくる。ほんとうに白い生物などいるものかしら。

とうめいで迂闊な幾何学(河野咲子のマイクロダイアリー6月27日)

頂点の数をかぞえてみると13個あり、もういちどかぞえてみると12個ある。何個までの頂点であれば正n角形の角の数をひとめで見分けることができるのかよくわからない。

矩形のなかのきらきら(河野咲子のマイクロダイアリー6月26日)

角のまるい縦長の矩形、わずかな厚みがあるけれどぜんたいに流線的なフォルムをして、右上に細かなひびが網の目に入り、よく見ると中央あたりにもひとすじのひびが横切っている。

ゆらゆら歩く球体のこと(河野咲子のマイクロダイアリー6月25日)

きょうは目にものの見えぬ日なのだということがはっきりわかる。

熱帯夜のための麦わらぼうし(河野咲子のマイクロダイアリー6月24日)

ものすごく蒸し暑いので理念的な麦わらぼうしを丹念に思い浮かべる。

六月の無毒のいきもの(河野咲子のマイクロダイアリー6月23日)

闇夜のカエルもイヤフォンないしはポリゴン白馬に似て、手のひらにかるがるとおさまる(そうはいっても、カエルを手中におさめたことはこれまで一度もない)。

音が出るかもしれないイヤフォン(河野咲子のマイクロダイアリー6月22日)

イヤフォンもポリゴン白馬に似て、いくぶん白く、手のひらにかるがるとおさまる。

ポリゴン白馬との同居生活(河野咲子のマイクロダイアリー6月21日)

手のひらサイズのポリゴン白馬が窓から飛び込んできた。

怪物ではないスペキュロス(河野咲子のマイクロダイアリー6月20日)

スペキュロスという怪物がいる、わけではない。