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#連載

食思考マラソン(3)1月某日 春菊の天才カレー その2|太田充胤

前回の記事の続きです。 「隔週連載です」とお伝えしていましたが、続きの記事なので、ノリで今週配信することにしました。 そもそもご飯はどんなに忙しくても毎日食べますので、連載のペースが隔週だと私のなかの食思考がいまいち消化できません。あまり自分の首を絞めないようにしようとは思うのですが、今後もノリで臨時配信していきたい所存です。 疲れて帰ったある日のこと。今日はもう疲れたからカレーにしようかと冷蔵庫を開くと、野菜室には玉ねぎと春菊しかありません。 困った──とは別になり

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食思考マラソン(2)1月某日 春菊の天才カレー|太田充胤

この日のメニュー 主菜:春菊の天才カレー 副菜:平目の麹漬 本来、今回は別のネタを配信する予定だったのですが、前回の記事が公開された後で、もう少しカレーの話をしておこうかと思いなおし、この記事をはさむことにしました。 前回ご紹介したとおり、エリックサウスの料理本を土台にして、テキトーなカレーを作ることが多い今日この頃です。今回ご紹介するのは、その中でも出来が良く、何度か繰り返し作ったレシピです。 私はこれを「天才カレー」と呼んでいます。

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食思考マラソン(1)9月某日 カレーを中心としたつまみ飯|太田充胤

この日のメニュー 主菜:茄子と獅子唐のココナッツカレー 副菜:人参のカルダモンラペ、オクラのマスタード和え 主食:なし お酒:喜界島ハイボール いきなりこんないい加減なメニューで良いのでしょうか。 いや、良いのです。これはそういう連載です。気合を入れずに日々の食事のリアルを描出するのです。はじめに断っておきますが私は美食家ではありませんし、本連載は美食批評ではありません。 これを書いている今はまさに年末年始の休暇中。 平常運転のご飯の機会がしばらくなさそうであったため、過

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終わる世界の終わりなき日常――#7 終わりある日常 灰ミちゃん

高いところから飛び降りることを想像することが日に日に増えてきた。でも本当に死にたいわけじゃない、と思う。 メンタルクリニックでもらった薬を飲んでいるおかげでOCDの症状はおさまっているけれど、日々、今までなかった想像が溢れ出ている。薬のせいなのか環境のせいなのかはわからない。 わたしは今は恋人もいないし気軽に会えるような友達もほとんどいない。 なんとか身体を売りつつ音大の大学院に行っているが音楽の方はあまりうまくいっておらず将来どうなるかもわからない。 ちゃんと交友関係を作

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終わる世界の終わりなき日常――#6 強くて優しくてかわいくて最後にはこの世界から愛される人に 灰ミちゃん

わたしは好きになった人の前以外で誰かのとなりで涙を流すことができない。 前の前に好きだった人は、関係の中でわたしにたった一度しか好きだと言ってくれなかった。 彼とは何度も身体を重ねていた。わたしは何度も彼に好きだと伝えていた。運命の人だと思っていると伝えていた。とても魅力的な人だった。わたしがわたしのことを偽物だと言うとそんなことないと言った。彼は自身の考えていることをよく話した。わたしはその話を聞くのが好きだった。彼は自身の感じていることを話さない人だった。わたしは彼のこ

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絵本から経済を考える 第8回 「続・鬼の経済学」 谷 美里

 前回の連載では、現代の発展途上国における貧困問題を扱った代表的な絵本2冊『Beatrice’s Goat』と『Cloud Tea Monkeys』を取り上げ、それらの物語形式が昔話でお馴染みの「長者譚」と「報恩譚」であることを指摘した。そして、他者に親切にすればやがて報われ、貧しさから抜け出せるというストーリーは、貧しき世の人々の願いを反映した昔話ならいざ知らず、現代の英米で制作された途上国を舞台にした絵本としては、致命的に着眼点がズレているということを述べた。私たちが見る

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終わる世界の終わりなき日常――#5 具体的なもの 灰ミちゃん

新宿のゴールデン街にはジャン・ジュネというバーがある。 店名は無論、フランスの作家から取っているのだろう。女装サロンバーのような空間というのがわかりやすい説明だと思うけれど、良心的な価格設定やママである浜野さつきさんの人柄もあってか年齢やジェンダー/セクシャリティを問わず多くの人が出入りしている。 さつきさんは長くゴールデン街や二丁目の文化を知っている方で、おそらく伝え聞いたであろう街の歴史や自身の持ってきた店のこと、ゴールデン街の経営事情などを話してくれる。 これらの語りは

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終わる世界の終わりなき日常――#4 ロカストから遠く離れて 灰ミちゃん

最近恋人ができた。歳は二つ上で、わたしのように大学院に残るわけではなくとある外国の企業で働いている。 少し変わった知人の紹介で知り合ったのだけれど、はじめの頃は違う世界に生きている人だな、と思っていた。出会ったばかりから何度も好意を伝えられていて、なぜわたしにそんなに関心があるのかわからなかったけれど、とても優しい声をしていて嫌な気持ちはしなかった。 わたしが彼を好きになったのにはきっかけがあった。 それなりに仲が深まって、ふたりで会話をする機会も多くなってきたある日、「今

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終わる世界の終わりなき日常――#3 死と境界 灰ミちゃん

静まりかえった新宿で何人かの男の人と寝た。身体を売った。  新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中を襲ってからもうどれくらい経っただろうか。日本においても4月7日より緊急事態宣言が発令され、人同士の接触を控えるため外出の自粛が要請されている。 いつもは賑わっているこの街が静まりかえっていることが可笑しくて、すこしだけ美しいと感じた。 飲食店や百貨店は全てシャッターを下ろし、ショーウィンドウ越しにファストファッションを身に纏ったマネキンが静かにポーズを取っていた

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絵本から経済を考える 第4回 「子どもが経済を学ぶ上で一番大事なのは、『溝』を意識すること」 谷 美里

 連載の初回にも書いたことだが、日本ではお金に関する話を子どもにするのは教育上よろしくないと考える風潮があるのか、経済をテーマに扱った絵本が非常に少ない。 経済学者の佐和隆光氏も言っている。 古来、この国では、「お金は汚いもの」、「お金のことを口にするのは卑しいこと」といった通念が、あまねくゆきわたっていました。そのためもあって、子どもに経済学を教えることなど、筋違いもはなはだしいと考える人が少なくありません。[1]  佐和氏自身はこのような状況を好ましいものとは思ってお

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終わる世界の終わりなき日常――#2おもかげ  灰ミちゃん

はじめて好きになった人の影を追い続けるなんていかにも思春期を引きずった男の子にありがちで、目の前のひとりの人を見つめることのできない身勝手な振る舞いだと思うけれど、そんな人たちのことを嫌いになれないのはわたしがそうだからなのか。 わたしが最初に好きになったのは男の子ではなく女の子だった。中学生の頃。憧れていただけだったのかもしれない。というか、そうだ。それ以来、女の子を好きになったことは一度もない。 わたしは彼女の真似ばかりしていた。 彼女が吹奏楽部にいたから音楽を始めた。

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終わる世界の終わりなき日常——#1あきらめ 灰ミちゃん

あきらめを「あき」「きら」「らめ」に分解し光らしきものから埋めてゆく  ——NHK「ジセダイタンカ」掲載連作「SAND PLAY」より わたしたちはさまざまなあきらめに住う。生とはあきらめの仮名だ。 先日、わたしがバイトをしているミックスバーの先輩が仕事を辞めた。理由はわからない。けれど、この店に入ってさして時が経っていないわたしにもわかる程度に、彼女は一種の苛めを受けていた。 始まりは推測するしかないが、何か他のキャストとの喧嘩があったという話も耳にするし、空気感がすこ

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モンゴル食紀行/食思考 第7回 夏の御馳走と未然の欲望 太田充胤

モンゴル人の二つ目の好物は、ちょうどマンズシル寺院からNomad horse campに戻る途中に現れた。 相変わらずだだっぴろい草原の中を突っ切っていく道路の途中で、突然、車が左折する。当然ながらそこに左折路などない。車は草原に乗り出して、がくんがくんと二度揺れる。数十メートル先には、いくつかのゲルと放牧された牛馬が見えた。牧羊犬と思しき犬が、こちらに駆け寄りながら親しげに吠えている。 あそこに寄って買い物します、とムギさんがゲルのほうを指して言う。 車を降りると、牧

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絵本から経済を考える 第2回  「欲望と消費と満足と『の』の話」  谷 美里

 先日私は、書店でたまたま見つけたjunaidaの『の』という絵本を買った。「わたしの/お気に入りのコートの/ポケットの中のお城の/いちばん上のながめのよい部屋の/王さまのキングサイズのベッドの/シルクのふとんの海の船乗りたちの/ふるさとの島の灯台のてっぺんのサーカス小屋の……」という風に、様々なものや人々、場所や時代が「の」で繋がっていき、読者である私たちは、美しい絵の連なりに乗せられて、思いがけない接続をなす世界の最奥へずんずんと突き進み、「鳩時計の鳩の小部屋の午後のお茶

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