【突撃!隣のプロンプト!】モリカトロン株式会社の森川幸人さんに聞く、ゲームAI研究開発
本記事は、AI人材リモートアシスタント「ロコアシ」による企画記事です。
日本初となるゲームAI専門開発会社『モリカトロン株式会社』の森川幸人様にお話を伺います。
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日本初となるゲームAI専門開発会社『モリカトロン株式会社』
――本日はモリカトロン株式会社様のオフィスにお邪魔しています。この記事の読者さんに、森川さんと御社のご紹介をお願いします。
モリカトロン株式会社代表取締役、モリカトロンAI研究所所長の森川幸人と申します。
日本初となるゲームAI専門開発会社であるモリカトロン株式会社では、ゲームAIの研究開発を中心に、Webメディア「モリカトロンAIラボ」の運営、技術情報の発信といった3つの事業を展開し、ゲームAIにおける最先端の研究と情報発信を行っています。
ゲームAIの研究開発においては、大手ゲームメーカーと組んで、キャラクターAI、ゲームのバランス調整、ステージ生成などのゲーム用AI開発プラントを共同開発しています。
ゲームAIの研究開発においては、大手ゲームメーカーと組んで、キャラクターAI、ゲームのバランス調整、ステージ生成などのゲーム用AI開発プラントを共同開発しています。
AIの活用範囲は広いです。私たちはその中でもゲームを中心として、トイロボット、チャットボット、Vチューバーなどエンターテインメントに特化したAIの応用研究と設計を行っています。
2017年に設立されて6年目。設立の背景には、私自身が30年以上前からAIを使用したゲームを制作していたことがあります。ソニーからリリースされた初代プレイステーション用のゲーム『がんばれ森川君2号』には、ニューラルネットワークというAIを使用していました。
30年前、AIに関する話はあまり受け入れられていませんでしたが、ディープラーニングの登場以降、多くの人々がAIが実用フェーズに入ってきたと認識するようになりました。
ゲーム業界においても、AIに対する関心が高まっていく中で、この会社を設立しました。
ChatGPT登場で一番驚いたのは、世間の大きな反応そのもの
――ChatGPTのファーストインプレッションを教えてください。
実は一番驚いたのは、世間の大きな反応そのものでした。
OpenAI社も言及しているように、今回の言語エンジンであるGPTは、実は2017年頃から存在しています。GPT1からGPT2、GPT3と進化してきて、特にGPT3.5はAI界隈ではその精度の高さから、これからの成長が非常に期待されていましたが、その盛り上がりはAI業界内だけだった印象です。
次のバージョンであるGPT4のリリースが噂される中、突如として対話に特化したインターフェースのChatGPTをOpenAIがリリースしました。
私も対話型のインターフェースの使いやすさに好感を持っていましたが、それが一般の人々にとっても非常に受け入れられるものであるとは思っていませんでした。
そのため、対話型になっただけで、多くの人々が「自分のビジネスに活用できる」と感じることに驚きました。それが私のファーストインプレッションです。
キャラクターが自分で考え、学びながらゲーム空間を旅する『キャラクターAI』とテストプレイでのAI活用
――ゲームAI研究開発事業の誕生までの経緯を教えてください。
30年前にゲームを作る際、キャラクターがもっと生き生きと動くためには、『キャラクターが本当の生き物のように、自発的に考える』仕組みが必要で、その仕組みを実現するのはAIしかないと考えていました。
その思いは今も変わらず、我々の会社では、主に二つの柱で活動しています。一つは、ゲーム内のキャラクターが自分で考え、学びながらゲーム空間を旅する『キャラクターAI』と呼ばれる領域です。
もう一つの新しい柱は、ゲームのテストプレイに関するものです。
ゲームはある程度完成してくると、不具合を探してなくす為に、キャラクターを何度も同じ壁にぶつけて壁に穴がないか調べてみたり、アイテムはちゃんと拾えるか、予定通りにモンスターが出てくるか、たくさんのテストプレイをします。
ゲームの規模が巨大化すると、テストプレイの量も増えていきますし、それに合わせテストプレイのための人手や人件費も増えて、ゲームの制作費の大木は負担になってしまいます。
また、労働人口の減少が叫ばれる中で、単純でしんどい作業を担うテストプレイヤーを探すのは大変です。
そこで、AIです。AIを活用すれば、人に代わってテストプレイができることが分かってきました。我々のデバッグAIは今この瞬間も自動でフィールドを走りまわって、アイテムを集め、24時間稼働しています。
このようなAIの活用は、ゲーム業界でも徐々に認知されてきました。特に2014年以降、多くのゲーム関係者から話を聞かれることが多くなりました。ディープラーニングが2012年に登場して、ゲーム業界にも少し時をおいて、その波が押し寄せたという感じですね。
――今では多くのゲーム企業でAIが活用されているのでしょうか?
まだまだこれからですね。こんな話をすると怒られるかもしれませんが、全ての会社がAIに積極的であるわけではありません。
ゲーム業界はまだ保守的な面があり、懐疑的な目を向けられることもあるので、我々も一つずつ実績を積み重ねて、その成果を示していっています。
ゲームAIが一つのビジネスモデルとして成立するようにしたい
――ゲームAI研究開発事業において、森川さんが特に重視されているポイントは何ですか?
私は結構いい歳なので、次の世代にバトンタッチするために、ゲームエンタメAIの研究開発が一つのビジネスモデルとして成立するようにしたいと考えています。これは個人的なリベンジでもあり、一番強い動機です。
ビジネスが成立すれば、次世代が新しいAIの活用方法を見つけてくれるでしょう。そのためにも、ゲーム業界が保守的であることを考慮し、具体的な実践例を見せる必要があります。この啓蒙活動はメディアや講演で続けています。
生成AIを活用。マーダーミステリー生成ソフト『Red Ram(仮題)』
生成AIを活用したマーダーミステリー生成ソフト『Red Ram(仮題)』は、ゲーム業界の人々にAIのポテンシャルを示す一例です。
生成AIは大きく分けて、テキスト生成と画像生成の二つがありますが、私たちは両方を活用し、テキストだけでなく、キャラクターのプロフィールからキャラクターのデザイン画像も生成しました。
ChatGPTを使って事件の構造や登場人物のプロフィール、犯行現場などを設定し、そのテキストを基にStable Diffusionという画像生成AIがキャラクター、アイテム、背景などの画像を作成しています。
適切な指示をしなければ、生成AIはよいテキストや画像を生成してくれないので、商品レベルのクオリティまでチューニングする必要がありました。いわゆるプロンプトエンジニアリングというものです。
その過程では、技術的な課題も多かったですが、それを解決を目指して作成したのがこのゲームです。インディーゲームの祭典「BitSummit Let’s Go!!」で展示した時は、会期中の3日間でお客様に250件以上の事件が生成されました。
――他人が作ったゲームを遊べるというモードがあるとか。
はい、AIが全て生成するモードの他、プレイヤーが事件の内容を指定できる機能と、他人が作ったシナリオを遊べるモードがあります。
犯人のプロフィール、職業、凶器、殺人の動機などを自分で設定すると、ChatGPTがそれに合わせて事件を仕立て、そのテキスト情報を元にStable Diffusionが適切な画像を生成します。この生成プロセスは約10分で完了します。
作成した事件は友達ともシェアできるので、他人が作成したゲームも遊べる仕組みになっています。
当社のウェブサイトからプレイできるので、試してみてください。
モットーは「正しいAIから楽しいAIに」
私たちは自分たちの仕事を説明するときに「私たちはAIのソムリエだ」と自己紹介することがあります。
ワインのソムリエが、料理に合わせたワインの種類を選び、お客様に提案するように、私たちはお客様のプロジェクトに合ったAIモデルの選定から実際の設計までを請け負っています。
多様なご要望にもお応えできるよう、そのために常に最新のAI技術をチェックし、研究を行っています。
ただ強い、ただ正しいではなく、楽しい、面白い、人間の友だちになれるようなAIを創ることが私たちの夢です。
箇条書き、ですます調に整えるなど多様な文章修正にChatGPTを活用
――ゲームAI研究開発以外に、生成AIを業務で活用されていますか?どのように活用されていますか?
原稿を書く際には、ChatGPTに協力してもらっています。特に学会誌に投稿する場合、堅い表現が求められるので、その点を指示すると、適切に対応してくれます。箇条書きにしたり、ですます調に整えたりと、多様な要望に応えてくれます。
例えば、「威厳を持たせる」といった指示を出すと、それに合わせて論文らしい表現を生成してくれます。
法務の観点から利用できず、実際にプロジェクトが中止になった例も
――生成AI活用における課題や難しさを感じるところがあれば、教えてください。
著作権の問題や公序良俗に反する内容、個人のプライバシーに関わる問題など、ネガティブな側面が存在します。これはゲーム領域に限らず、AIの利用において大きな障壁となっています。
例えば、ChatGPTは最近ガードが強化されてきていますが、悪意を持って操作すると問題が生じる可能性があります。100%対策できているかというと、そうではない。
ゲーム会社でも、プランナーや制作サイドは生成AIに魅力を感じて使おうと試みるのですが、法務の観点からリスクがあるため利用できないことになり、実際にプロジェクトが中止になった例もあります。
ChatGPTの一番のポテンシャルは、プレーヤーに合わせた形で自由な会話を生成することです。しかし、その自由度が時には問題を引き起こし、利用が制限されてしまいます。これはテキストだけでなく、画像にも当てはまります。手足の指の数が増減したり、衣服が取れてしまう可能性がある。また学習対象の著作権の問題もあります。
法務リスクが存在するため、国が指針を出そうとしています。特にヨーロッパでは、学習データの出典について厳しく問われています。
法務リスクが存在するため、国が指針を出そうとしています。特にヨーロッパでは、学習データの出典について厳しく問われています。
個人的には、生成AIはまだ生まれたての技術で、多くの人々が遊んで、成長させようとしていくフェーズなので、あまりに厳しい制約がかかると進歩を妨げてしまうのではと危惧しています。
森川さんが30年前、どっぷりAIにハマってしまった理由
――生成AIを活用して驚いたことや、思わぬ成果が出た事例はありますか?
生成技術、特にChatGPTの進化は目覚ましいです。テキスト生成の精度が高く、人間が書いたものと区別がつかないレベルに達しています。私はAIを「正しいAI」と「楽しいAI」に分けて考えています。
法律や経済、学術系のテキスト生成に関しては、将来はChatGPTに任せて検証するだけで十分になってくるようなポテンシャルを持っています。
一方で、美しい文章や心を打つ言葉を生成する能力はまだ限定的です。例えば、100年残る俳句を作れるようになるのは、まだまだ先のことでしょうが、これもポテンシャルは高いと思っています。
また、AIが「人が思いつかないような創造的な内容』を生成する可能性は、非常に高いです。これは生成AIだけでなく、AI全般のポテンシャルで、私が30年前、どっぷりAIにハマってしまった理由でもあります。
人間には発想の際、既成概念や社会通念などの制約があります。リンゴの絵を描くよう言われた時に紫色のリンゴを描いたりはなかなかしません。AIにはそのような制約がありません。
特に将棋AIや囲碁AIで顕著ですが、AIは恥や恐怖を感じないため、人間が思いつかないような手を打つことがあります。
そういう点から見ても、生成AIはまだ新しい技術なので、過度な規制は開発が遅らせる可能性を懸念しています。技術が進化すれば、自然と問題点も解消されるでしょうが、生成AIのインパクトの大きさからすると、企業や個人で規制について介在できる余地は少ないのかもしれません。国レベルの判断が必要になると思います。
もはやAIが消えることはない。どのように自分の領域で活用するかが重要
――生成AIの将来展望について、聞かせてください。
AI全般の話になりますが、AIの必要性は今後も続くと考えられ、もはやAIが消えることはありません。
AIのブームは現在3回目と言われていますが、過去2回は研究者の間でも実用性に自信が持てるほどではありませんでした。しかし、今回はそのような疑念が払拭され、コンピュータ、インターネットと並ぶ大発明とも言われています。
実用世界からAIが消えることはないということは、今後はどのように自分の領域で活用するかが重要になってきます。「作るAI」から「使うAI」の時代になったと思います。
上司や部下に聞いたり、指示する時と同じ。相手をChatGPTに置き換えてみよう
――この記事を読んでいる方に生成AIをお勧めしていただけますか?
ChatGPTは非常に使いやすいインターフェースを持っているため、一般の人々でも簡単に使用できます。私たちが長らく腐心してきた、AIの使い方を説明する段階はすでに終わっています。
何でも聞けて、何でも答えてくれる使いやすさが、ChatGPTが一般に急速に認知された要因だと考えられます。
どのビジネス領域でも、上司や部下に聞いたり、指示する時は「何を自分でやるべき」で「何を任せるべきか」を考えながら相手に伝えていると思います。
同じことを考えながら、質問や指示の相手をChatGPTに置き換えると、活用のイマジネーションが湧きやすいのではないでしょうか。
かつてのワープロのように、今日のPCのように、ビジネスに必須となるツールだと思います。
ワープロの漢字変換機能もかつてはAIと呼ばれていました。漢字変換などの先読み機能は当時画期的でしたが、ワープロで書いた手書きではない履歴書は「心がこもっていないので不採用にする」といった偏見もありました。
しかし、今はそのような意見は少ないです。生成AIも同様に、カジュアルなツールとして広く受け入れられるでしょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。今後もあなたのお役に立てる記事を投稿していきますので、スキ・フォローなどを頂けますと一同泣いて喜びます。
お話を聞いた方
代表取締役 森川幸人 様
(聞き手:ロコアシ事業部長 あさい 撮影:広報 おかけいじゅん)
ロコアシ:AI活用人材にデスクワークを委託!
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