ラウタヴァーラ2にまつわる事例 2020年2月23日

 探査船ガウルーンはプロキシマ・ケンタウリに向かっていた。探査船の動力は地球と火星の中間あたりで使い切り、その後はプロキシマ・ケンタウリに引っ張ってもらうことになっていた。宇宙船がプロキシマ・ケンタウリに引っ張ってもらうことで生じる問題としては、探査船の乗組員全員がそれまで地球で育ててきた意識、自我、精神、感情、知識、体力などをあらかた維持できなくなるということだった。
 もちろんプロキシマ・ケンタウリに引き寄せられなくても、地球から少しでも離れてしまえば、土着で生きているからこそ成立できる意識、自我、精神、感情、知識、体力などがだんだんと薄弱になっていくのは当たり前で、それでもあえて宇宙旅行を続けると最後に本人を証明するものが何一つ残らないことになる。人間というものを維持する要素が地球にあり、人間は地球の持ち物だったことが判明したのはごく最近のことだった。
 でも、旅の目的地が決まっていて、この目的地と出発地の間に見えない糸がぴんと張られると、人間の形が出発点Aの様態から目的地Bの様態に段階的に変化することで、人間は霧散しなくて済むこともわかった。プロキシマ・ケンタウリに行くことは、地球人がプロキシマ・ケンタウリ人になることだが、少なくとも生命存在としての連続性は保たれた。形はどんどん変形して跡形もとどめないが、かろうじてコアになる意識は存在する。

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