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大変なことを「チャンスだ」と捉えられるかどうか 茨城「Lucky Fes」の裏側 DJ DRAGON×糀屋総一朗対談3

ローカルツーリズム株式会社糀屋総一朗と、さまざまな分野で活躍されている方の対談、今回はクラブDJ、ラジオDJ、クリエイティブディレクター、ミュージシャンなどさまざまな分野で活躍されているDJ DRAGONさんです。対談の最終回は、企画プロデューサーを務める「LuckyFes」の裏話を語ってくれました。

茨城県民の誇りだったロッキンがなくなり……

――ドラゴンさんはご自分の会社(株式会社神南)で、渋谷の、しかも神南という局所的な、ある意味ローカルなエリアで「街角に音楽を」というテーマでも取り組まれてると思うんですが、そもそものドラゴンさんのご出身である茨城って、ご自身にとってどういう位置付けなんでしょうか。

ドラゴン:僕は茨城県南部の土浦市の出身なんですけど、なんだかんだ、常磐線に上野から1時間乗ってれば着いちゃうんで、東京と近いんですよ。良くも悪くも中途半端なところなんです。すごく自然も豊かだし、山も海もあるし、美味しいものもたくさんある。結構いいところなんだけど、県民がそこまで努力しないというか。

糀屋:そうなんですか?

ドラゴン:「誘致しないと絶対に人が来ない」というエリアではないじゃないですか。これは北関東あるあるでもあると思うんですけど、なんとなく「ローカル東京」みたいな感じ。積極性がない……というより、ものすごく消極的な県民性だと思います。

糀屋:なるほど。そして今回、茨城のフェスにも関わっていらっしゃる。

フェスを作る苦労とは?

ドラゴン:「LuckyFM Green Festival(通称LuckyFes)」ですね。これはグロービス大学院の学長である堀義人さんが発起人なんですが、彼は水戸出身なんですよ。

糀屋:あ、そうだったんですね。

ドラゴン:堀さんは今60歳なんですけど、宇宙人みたいな人なんですよ(笑)。京都大学を出て住友商事に行って、そこからハーバードに入ってMBAを取って……それで、「日本でMBAを取れる大学を作るぞ」ってグロービス大学院をスタートした人なんですけど、僕と真逆で物欲が全然ないんですよ。車も興味ないし、時計も服も興味ない。逆に「何かやる」とか、行動に意味を持たせることを重要視している人ですね。

それで東京で大成功して、地元の水戸に戻ってみたら、やっぱり東京に比べて人も少ないし、お店もどんどん閉店しちゃったりして、「盛り上がってる」って感じじゃないんですよね。水戸だけじゃなく土浦とか、常磐線沿線の街は全体的にそういう、駅前がちょっと沈んだ感じになってしまっているのは事実です。そういうのをみて堀さんは「これはどうなんだ」って思ったらしく、「俺はこれから水戸を、茨城を盛り上げていくんだ」って使命感を持って、自分の私財を投下してるんですよ。

糀屋:意外でした。そういうタイプの方だったんですね。

ドラゴン:そうなんですよ。それで茨城放送も買い取って、茨城ロボッツ(バスケ・Bリーグのチーム)も買い取って、他にもいろんな水戸の街のこととかやってて。そういうのは僕も知ってたんですけど、もともとそこまで交流はなかったんです。「同郷の先輩」ぐらいの認識。なんですけど、去年ロッキンオンジャパンの主催を茨城放送がやる予定になってて。でも茨城医師会の提言もあって中止になっちゃって、その結果だったのか、まあいろいろ事情はあると思いますが、ロッキンは20年続いたひたちなかから移動して、今年から千葉の方で開催することになったんです。

糀屋:ありましたね。中止になったのもかなり直前でしたよね。

ドラゴン:そうなんです。それで今年の夏はひたちなかで何もない、みたいなことになっちゃって。堀さん的には「茨城を盛り上げるのにロッキン最高! 人もいっぱい来るし、経済効果も上がるしいいことしかない!」って、経営者的にプラスに捉えてたわけですよね。

糀屋:それがなくなっちゃうと。

ドラゴン:そう。「ええ! なくなるの!?」ってけっこう堀さんは強く思ったみたい。でも僕は、とはいえ、茨城からロッキンが移るっていっても別にいいんじゃないの? みたいな感じだったんですよ。そんなに地元の人って意識してたのかな? みたいな。それが実家に帰ったら、僕より年上の兄弟4人が「ロッキンなくなっちゃうんだよね、さみしいよね」って話してるんですよ。体育教師してて、あんまり音楽関係ない僕の兄弟でさえそんなこと言う。

思った以上にフェスは茨城に浸透してたんです

さっきも言ったように茨城の人って周りにそんなにアピールしないし、地味だし、なんてったって47都道府県魅力度ランキングワースト1位なわけですから。でもそんな中で全国的にも有名なロッキンってフェスがあるっていうのはうれしかったという感じみたいなんです。それがなくなるのはやっぱりショックだ、ってみんな口を揃えて言ってました。

糀屋:普段あんまり出さないけど、実はみんないろいろ思ってたんですね。

2月、「この3人でやろう」

ドラゴン:そうみたい。それで今年の1月1日に「ロッキンが千葉に移転します」って発表したその日に、堀さんが「茨城で新しいフェスを立ち上げます」って言ったの(笑)。世間も、音楽業界全員も「何を言ってんだ!」って話になるわけですよ。でも一応ロッキンさんには「茨城で独自のフェスをやっていいですか」って断りは入れて了解はもらってたようですけど、まさか発表が同時になるとは、ですよ。

糀屋:その時はドラゴンさんは何か担当されてたんですか?

ドラゴン:いや、まったくです。僕は2017年と18年にお台場で1万人規模のフェス(ODAIBA DANCE MUSIC FESTIVAL SANCTUARY)を企画・主催したんですけど、やっぱりとにかく金銭的にも、スタッフを回したりするのも大変すぎて、「生きて帰れるのかな」みたいな経験でした(笑)。なので堀さんには参考になるかなと思って当時の企画書を渡して、社交辞令的に「なんか手伝うことあったら言ってくださいねー」って言って。そしたら堀さんも「DJのブッキングとかよろしくね!」みたいな感じでその時は話が終わってたんですね。

それが急に2月に入って堀さんから、「ドラゴンどんな感じ? フェスってどんな人と一緒にやってたの?」って言われて、矢澤英樹さんっていう仲間がいますよって言ったら、「じゃあ今度会おうよ」って言われまして。それで2月の10日か11日かな? 矢澤さんと一緒に堀さんに会いに言っていろいろ話してたら、堀さんが「よし」と。「この3人でやろう」って。えっ、何のこと言ってんだろ? って……。

糀屋:(爆笑)! 去年じゃなくて今年の2月ですよね? そこから半年以内でアーティストを全部アサインされたっていうことですか?

堀さんの無茶振りにびっくり(笑)

ドラゴン:はい、64組ですね。300アーティストとか、もっとそれ以上に声かけて、断られて、やっと受けてくれたって感じです。

糀屋:いや、相川七瀬さんや石井竜也さん、それからCreepy Nutsにゴールデンボンバー、水曜日のカンパネラ……誰でも知ってるアーティストもいるし、その他の方もそうそうたるラインナップですよね。そもそもなんで急に「3人でやろう」に?

ドラゴン:堀さんが元旦にフェスをやるって発表して、大手のイベンターさんとか、地方でやってる会社さんとかレコード会社さんとかにいろいろ連絡したんですが、結局全部断られたようなんですよ。当たり前なんですよ、音楽業界に人脈もないし。それで堀さんがけっこう落ち込んでて。それで僕らと会ったタイミングで「やるぞー!」って(笑)。

もう、乗りかかった船というか腹くくってやるしかなくて。僕、本名が橋本なんですけど、「ドラゴンです」っていうとややこしくなるから「橋本です」って各所に連絡して。でも僕はプレイヤーであってイベンターじゃないから、みんな知らなくて「誰だ誰だ?」「最近橋本ってやつが連絡してきてるぞ」ってなったらしいです(笑)。それでもなんとか話を聞いてもらって、形になった感じですね。

いいものを作っても、人が集まらなければ意味がない

糀屋:それをさっきの、シャンプーのお話と同時並行でやっていたわけですよね。

ドラゴン:そうです(苦笑)。いやあもうこれは、本当に疲れました。

糀屋:先ほどのヘアケアのお話もこのフェスのお話もそうですけど、ドラゴンさんはご自分で全部連絡されているのがすごいですよね。人に指示してやってもらおうと思えばできる立場だと思うんですけど、それでもご自分でされるというのが、本当に見習うべきところだと思います。

ドラゴン:まあ、「なにやってんだろ俺」って思うこと多いですよ(笑)。

糀屋:でもご自分で連絡されるからこそ、人を巻き込んでいけるところもあるんじゃないかなと。動いている時に考えていることとかってあるんでしょうか?

ドラゴン:やっぱり相手がどんな人であろうと、緊張しない、恐縮しない、ですね。同じ人間なので。もちろん基本的な礼儀はありますけど、物を作っていく上で遠慮したり、緊張したりしているとスピードも遅れるし、無駄に遠回りしてしまいますよね。だったらズバズバ言って、それでダメだったら「なるほどそういう人だったか」と思って辞めればいいし。

その点、堀さんはけっこう言ってもOKな人だったので、どんどん言いましたね。まあでもやっぱり堀さんは音楽の人じゃないんで、僕の常識が伝わらなかったりするんです。そのギャップに「伝わらねーなー」って落ち込んだ時も何回もありますよ。でもその繰り返しですよね。

糀屋:僕も事業をやっていてまだつかめていないんですけど、クリエイティブとビジネスを繋げていく秘訣ってなにかありますか? けっこう悩んでる部分でもあって。

ドラゴン:もちろんいいものを作るのは大前提なんですけど、やっぱり最終的にはそれが売れていかないと無理だと思います。「かっこいいフェス作りました、以上」で、人が集まらなくては意味がない。「かっこいいものをつくる」だったら誰でもできることかなと思います。それよりも「それで売れる」ことをしっかり考えていく方が重要ですね。それこそそうじゃないと持続しないよ、というやつなんです。

「いいものを作れば続く」という考え方ももちろんあるんだけど、僕はやっぱり両方だと思ってるんで。いいものであり売れていくものだと考えていかないと、最終的には成立しないと思います。この両立に関しては僕もいまだに、「自分って素人だな」とか「経験値足りないな」って思いますよ。めっちゃ落ち込みますけど、日々勉強ですよね。

糀屋:やっぱり今日お話聞いてて確信持ったのは、日本にはもっとドラゴンさんみたいな人が必要だなってことですね。破壊ではなく、クリエイティブな意味での「前衛」をできる人を地域にどんどん増やしたくて投資しているんですけど、もう地方にドラゴンさんに一緒に行ってもらって、一人ひとりに「こんな人がいるんだ」っていうのを見せて回りたいです。やっぱりこういう人がいるってことを僕は知らせたいって改めて思いました。

美意識と情熱に今日、すごく感激させられました。だっていないじゃないですか、1からヘアケアブランド作って、たった半年でフェスも形にしちゃう人なんて。

フェスのアーティストをアサインしながら、ヘアケアも作るとは!

ドラゴン:もうヘロヘロになりますけどね。でもやっぱり「生きてる」って実感は得られますよね。みんな辛いことから逃げたいと思うし、僕もどっちかというとそう思う人間なんだけど、結局辛かった時の方が達成感があるし、シンプルに面白いんですよね。「苦労は買ってでもしろ」って言葉、「ふざけんな!」と思う反面、「あー、そういうことか」とも常々実感してます(笑)。

大変なことが来た時に、チャンスだと思えるか

――ドラゴンさんは挑戦する姿勢が本当に素晴らしいと思うんですけど、「やめたいな」と思うことってあるんでしょうか。

ドラゴン:いやもう山ほどありますよ。「もう今日世界終わったらいいな」とか思うこと、何度もあります(笑)。でもやっぱり、チャンスってそうないじゃないですか。何か来た時にそれをチャンスと思えるか、ただの辛いこととか嫌がらせだと思うかは自分次第だと思うんですよね。

堀さんが「フェスやる」って言った時も、茨城放送の人は全員引いてたと思うんですよ。でも僕は「すごくチャンスじゃないですか!」って言ったんです。もしできたら、こんな小さな放送局が全国規模のフェスを成功させたって話題になるし、知名度も上がるし、有名フェスの後釜だし、こんなチャンスそうそうないぞって。やっぱり、チャンスと思えるか思えないか、ここがポイントだと思います。

チャンスだって思えない人の方が多いんですよ。「めんどくさそう」とか「大変そう」とか思っちゃって。でもチャンスだと思ってガッツリいくと、けっこう面白いことが待ってると思うんですよね。

糀屋:いや、まさにそうですよね。今回はめちゃくちゃ刺激いただきました。本当にありがとうございました!

(聞き手・高橋ひでつう 執筆・撮影 藤井みさ)

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