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【ここは天下り天国】クリーンウッド法改正案

こんにちは。地方自立ラボ(@LocaLabo)です。

私たちの住んでいる国は、国家としてとらえることも大切なのですが、本来は私たちの住んでいる「この町」「この地域」の集まりである、ということがもっと大事だということです。私たちが幸せに暮らすらために、国が住みよい場所になるためには、住民として住んでいる「地方」こそが住みよく豊かな町であってほしい、そんな願いを込めて書いています。

本日は、この度国会で審議されることになった「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案」、いわゆるクリーンウッド法改正案について考えてみたいと思います。
(本稿で対象とするものは2023年第211通常国会で提出されたものです)

クリーンウッド法ってなに?

クリーンウッド・ナビ
合法伐採木材等に関する情報提供ホームページ「クリーンウッド・ナビ」

クリーンウッドとは、原産国の法令に従い伐採された樹木であることが確認できる木材(丸太や製材等)を指します。木材生産は、その原産国で樹木伐採の基準が法律で決められてます。近年、盗伐や違法伐採された安価な木材の流通量が増加しており、森林が荒廃し減少することで温暖化が進み、地球環境を脅かすと言われるようになりました。違法伐採の定義と、世界各国の違法伐採の状況が下表にまとめられています。

世界各国の違法伐採の状況
G8サミットにおける違法伐採対策に関する議論と日本国政府の取り組みについて(愛媛大学)

世界各国で違法伐採木材を規制するための法整備が進んでおり、持続可能性やSDGs、労働問題の観点からも木材の合法性への関心は高まっています。日本における合法伐採の論議は、2005年のG8サミットにおいて日本政府が「気候変動イニシアティブ」の中で違法伐採について述べたのが始まりとされていますが、東京オリンピックを控え、2016年のG7伊勢志摩サミットで首脳宣言に違法伐採対策の内容を盛り込むべく、直前に超党派による議員立法でクリーンウッド法を成立させました。

現行のクリーンウッド法の基本として「第五条 事業者は、木材等を利用するにあたっては、合法伐採木材等を利用するよう努めなければならない」があります。つまり努力義務であり、罰則はありません。また、合法伐採木材等を使用していることを取引先や消費者にアピールするための【木材関連事業者】の登録制度があります。しかしこの【木材関連事業者】への登録は任意。罰則もなければ違法伐採を取り締まる法ではないこともあり、クリーンウッド法はザル法だとも言われてきました。

この法律は施行後5年を目途に関連省庁内で施行状況を検討し、必要な措置を講じることとされています。今国会での法改正は現行の努力義務をやめ、罰則を設ける方向性、つまり規制強化となっています。法改正案の概要にも「G7関連会合やAPEC林業担当大臣会合等で違法伐採の根絶に向けた取組が課題として取り上げられるなど、更なる取組の強化が必要」と書かれており、岸田総理が、5月に開かれるG7広島サミットでのアピールポイントにする思惑が伺えます。

クリーンウッド法の改正案

ではここからは、改正法案の具体的な内容について見ていきましょう。
まず知識的な前提として、樹木の伐採から木製品が消費者へ渡るまでの流れを説明しておいた方が今回の法改正の内容がわかりやすいかと思います。
下の図をご覧ください。

木材関連事業者の範囲
クリーンウッド法施行5年後見直しについて

こちらは現行法においての【木材関連事業者】の説明です。
左端グレーの部分「素材生産販売事業者」とは、国内の森林所有者から許可を得て木材を伐採し、市場や製材所へ木材を納める業者をいいます。「海外事業者」はその海外版で、輸入事業者に卸します。

オレンジの部分はその「素材生産販売事業者」と「海外事業者」から木材を購入する「原木市場」「製材工場」等です。クリーンウッド法で「第一種木材関連事業者」とカテゴライズしています。
今回の法改正案では「川上・水際の木材関連事業者」とも呼びます。

ブルーの部分はオレンジの業者から購入した木材を使った製品の加工を行う事業者(家具工場や製紙工場など)、または建設事業者(工務店など)を指します。それを「第二種木材関連事業者」と呼称します。

そして今回の法改正案の概要を見ていきます。

合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律 の一部を改正する法律案の概要

(1)川上・水際の木材関連事業者による合法性の確認等の義務付け
こちらは、先ほど説明したオレンジの部分の事業者が、グレーの業者から木材を買う時に①合法伐採木材の情報提供を行うこと、②それを保存すること、③お客さんにその情報を渡すこと、が努力義務だったものを義務化する。という規制です。
(2)素材生産販売事業者による情報提供の義務付け
こちらは、最初のグレーの業者がオレンジの業者に情報提供を行うことを義務化したものです。
(3)小売事業者の木材関連事業者への追加
これはブルーの業者に最後の小売業者(最初の図では右端のグレー部分)も登録できるようになりましたよ(だから登録しろよ)という事です。
(4)その他の措置
これは、(1)(2)を義務化したので破ったら罰則がつきますよ、という事です。

要はこれまでの努力義務が義務になり、「違反すると罰則を適用するぞ」という規制強化の法改正です。

【木材関連事業者】という中途半端な許認可業

この法律は【木材関連事業者】に登録した業者に義務付けているということがポイントです。この【木材関連事業者】はあくまでも任意登録制度である点は現行のクリーンウッド法とは変わっていません。違法伐採自体を取り締まっていないため、【木材関連事業者】にならなければ、安い違法伐採木材を買うこと自体は規制されていないことになります。
それだと【木材関連事業者】は義務ばかりを背負うような気がします。
大企業などは【木材関連事業者】に登録しているでしょうから、大手や官公庁と取引する場合は必要でしょうが、違法伐採の流通を減らすのがこの法律の目的なのだから、(2)素材生産販売事業者と輸入業者による情報提供の義務付けだけをやればいいような気がします。なぜ【木材関連事業者】という任意制度の中だけで規制を強化するのか、いまいち理解できません。わざわざ費用と時間をかけて【木材関連事業者】になるのに、義務と罰則まで増えるのならメリットがないように思います。

【木材関連事業者】のメリット

では農林水産省の言う【木材関連事業者】への登録のメリットとは何でしょうか。先ほど述べた大手企業や官公庁の仕事を請け負う場合は必須でしょう。ですがBtoCの業務の場合は少ない気がします。下図の林野庁が挙げるメリットは、無登録業者との差別化や、SDGsやCSR活動をやってますアピールというレベルです。

合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律の概要と意義について(林野庁)

さて、実際の【木材関連事業者】に登録した業者への、登録のメリットに関するアンケート結果を見てみましょう。

クリーンウッド法に基づく(登録木材関連事業者へ)建築・建設関連のアンケート調査結果
令和2年3月公益財団法人日本住宅・木材技術センター

【木材関連事業者】登録前は、先ほど林野庁が挙げていたようなメリットを期待していた業者が多数いたが、登録後にメリットがあったと答える業者は少なく「実際には、登録後にその様なメリットが得られていないことが明らかとなった。」と締めくくっています。笑

登録にかかる費用を見てみましょう。こちらは農林水産省及び国土交通省、経済産業省の認めた登録実施機関である公益財団法人日本合板検査会の予備登録申請における新規登録手数料です。

クリーンウッド法について(公益財団法人 日本合板検査会)

事業所数によって金額が変わるようですが、30000円〜68000円、これに登録免許税が15000円かかるとのことです。提出する書類のリストもこのリンク先に載っていますがそれはもう気が遠くなるような量です。これでは今回の法改正から第二種木材関連事業者登録の追加業種となる小規模な小売店などには登録するハードルが高すぎるように思います。

先ほどのアンケートにもあるように、登録するメリットがあまりない上に、登録に費用と労力がかかりすぎれば【木材関連事業者】の増えは伸び悩むでしょう。おまけに今度の法改正では規制強化と罰則付きです。
なので農水省はこの【木材関連事業者】を利用した消費者向けにこんな補助金まで作りました。

家の周りの塀をクリーンウッド木塀やウッドデッキに施工した場合の助成額です。結構おトクだと思いませんか?「お客さんが呼べるから工務店はみんな木材関連事業者に登録しよう!」というわけです。もちろん源資は私たちの税金なのですが。

【木材関連事業者】ゴリ押しのワケ

このように木材を扱う企業を【木材関連事業者】に登録させるために四苦八苦する農水省の姿が目に浮かぶようです。
なぜここまで任意である【木材関連事業者】の登録をゴリ押ししてくるのか。
ここで【木材関連事業者】の認定登録機関(農水省、国交省、経産省により認定)の一覧を見てみましょう。

【登録木材関連事業者 登録機関】
公益財団法人 日本合板検査会
理事長 渕上 和之  元農林水産省官僚
公益財団法人 日本住宅・木材技術センター
理事長 古久保 英嗣 元農林水産省 北海道森林管理局長官
専務理事 金子 弘 元国土交通省 国土交通省大臣官房付
一般社団法人 建材試験センター
理事長  渡辺 宏 元経済産業技官
理事 寺家 克昌 元経済産業省 経済産業省大臣官房付
一般社団法人 日本ガス機器検査協会
理事長 中西英夫 元経済産業省
一般社団法人 日本森林技術協会
理事業 福田 隆政 元農林水産省 林野庁国有林野部長
一般社団法人 北海道林産物検査会
理事 能勢 淳彦 北海道庁 北海道建設部建築指導課

見事にクリーンウッド法に関連する3省の天下り天国になっています。
また、この法改正に携わった「合法伐採木材等の流通及び利用に係る検討会」の委員がどこの法人から来ているかを見てみましょう。

【合法伐採木材等の流通及び利用に係る検討会委員の企業】
 国立研究開発法人 森林研究・整備機構
  浅野透 農林水産省
 公益財団法人 国際緑化推進センター
  技術顧問 高橋正通 農林水産省
  全国森林組合連合会
  飛山 龍一  農林水産省
 一般社団法人 全国木材組合連合会
  本郷 浩二 林野庁長官
 一般社団法人 住宅生産団体連合会
  平松 幹朗 国土交通省 国土交通省大臣官房付
 一般社団法人 日本建材・住宅設備産業協会
  寺家 克昌 経済産業省 経済産業省大臣官房付
  渡邊 宏 経済産業技官
 日本木材輸入協会
  岡田 清隆 日本学術会議会員

こちらも全てが官僚の天下り先と御用法人でした。要するにクリーンウッド法というのは、農水省関連の天下り先を作るため、そしてその天下り公益法人が儲かるための仕組み作りの法律であることがよくわかります。
しかも法改正のプロセスまで省庁関連団体の意思だけでコントロールされている状態です。これでは法制度の公平性が保たれないと言われても仕方ないのではないでしょうか。日本はやはり、官主導の社会主義的統制のもとに企業活動がコントロールされているのだなぁと思いたくなります。

まとめ

クリーンウッド法の制定意図は「違法伐採による社会的不平等の解消とそれによって起こる環境破壊への対策強化」であるとされています。しかしこんな大袈裟な最もらしい理由をつけていることの実態を見てみると、新たな制度を作って官僚達が甘い汁を吸おうとしているだけのような気がしてきました。

合法木材の認定をめぐる様々な規制強化、そこには各種届出をつかさどる各種団体の存在がありました。そこは手数料という見えない税金を企業に課していきます。そしてその手数料収入から莫大な報酬を得る団体の役員達。天下りの構図は今でもなくなっていません。しかもより規制を強化すること、補助金を用意することによって新たな手数料収入の増加を実現しようとしているのです。アメとムチで懐柔する手法そのものです。

我が国の役人が入庁以来、先輩から叩き込まれること。それは「何を見てもそこからどんな税金が取れるかを考える」ことだそうです。そのために役人達は事業を考え、少しずつほんの少しずつちょっと見では分からないような小さな金額の税金を取り立てる仕組みを構築するのです。一度税金を徴収する仕組みを作ってしまえばあとは自動的に集まってきます。そして新しい制度を大雑把に作っておいて、後から細かく規制を増やしてさらに税金を取る範囲を広げていく。そういった役人達の錬金術をこの法改正からもよく理解できるのではないでしょうか。

ぜんっぜん「クリーン」じゃないですね。海外からクリーンウッドを輸入しても日本に入れば、あれ?おじさん、ダークウッドになってるよ!どうしてかなぁ?

番外編:浜田参議院議員に質問してほしい!

減税と規制緩和に賛成で、国会でも政府に鋭い質問をしてくださる政治家女子48党の浜田議員に、ぜひとも国会で質問して欲しいな〜と思うことを番外編として掲載します。(^_^)

【質問1】合法伐採を追うだけですと「合法ブランド」は作られるかもしれませんが、違法伐採の流通はなくならないのではないかと思います。法の目的が「違法伐採による社会的不平等の解消とそれによって起こる環境破壊への対策強化」の対策とするならば「違法伐採の流通の禁止」をした方が早いのではないかと思うのですが、政府のお考えをお聞かせください。

【質問2】わざわざ費用と手間をかけて登録するマジメな【木材関連事業者】だけを規制するのはなぜでしょうか?「マジメ→マジメ→マジメ」ルートでは違法伐採木材を扱うと罰則が適用するのに対し、「ワル→ワル→ワル」のルートはこの法律では取り締まれない、いわゆるザル法だと言えないでしょうか?政府のお考えをお聞かせください。

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