【交通税は論外】やってはいけない赤字路線の延命
本日は、この度国会で審議される「地域公共交通の活性化および再生に関する法律等の一部を改正する法律」について考えてみたいと思います。
(本稿の対象は2023年第211通常国会で提出された法案です)
この記事では、法改正の見解ではなく、法そのものの必要性自体を考え直してほしいという点から意見を述べていきたいと思います。
法改正のポイント
改正の大きな方針は、改正案のその最後に「理由」として記載されています。
この法案提出に際して作成された「概要」です。
上記の「概要」から「理由」を読み解くと、以下の3つのポイントが考えられます。
これまで運賃については、原価計算などをもとにした計算方法での申請に対し、国交省が許可するという形式でした。しかし、地域の関係者の協議を踏まえた交通事業を行う際、協議の上決定された届出による運賃設定が可能になる制度を創設。協議会での合意があれば、運行事業者が認可された運賃とは異なる運賃での営業が認められます。
本改正法案について、2月10日の閣議決定後に斉藤鉄夫国土交通大臣は定例会見において次のように述べています。
昨年夏、JR東がいわゆる「赤字路線」の廃止をにおわせる発表を行ったことにより、地方のローカル線利用者などを中心として反対活動が活発になったことは、記憶に新しいことかと思います。
そのため、本改正においては、JRなどが「経営上採算の取れないローカル線を廃止したい」と言うような一方的な方針は認めず、必ず地域の協議会において十分な議論をすることとされました。
これはJRも一方的に廃止できるとは考えていないと思われます。つまり、発表の本音としては「経営状況は厳しい、しかし廃線はできない。国の支援を求む」ということだと思います。
鉄道の例から具体的に本改正のポイントを考えてみましょう。改正案文を見ますと、次のようになっています(第二十三条)。
(鉄道事業再構築事業を実施するための)
鉄道事業再構築実施計画には、次に掲げる事項について定めるものとする。
(略)
六 利用者の利便の確保に関する事項 (新設)
この部分は、改正前は次のようになっていました。
細かいことですが「二」はなくなり、「六」として「利用者の利便の確保に関する事項」が新設されました。この1文が入ったことで、路線の廃止は簡単なことではなくなりました。つまり、鉄道事業を再構築する際には「利用者の利便の確保」を考えなくてはならないのです。鉄道事業者がその路線を存続させる法的根拠として加えられたとも捉えることもできます。そして、その上で料金については協議の上での増額が認められるということになっているようにも考えられます。
上記に述べたように、公共交通の事業者に対し、地方公共団体と協議を十分に行う制度が創設されました。そして、事業者に対し地方公共団体は、予算面で支援するという対価を支払うことになります。これには「社会資本整備総合交付金等」が充当される予定です。また当然、予算面の処置だけではなく、「再構築協議会の設置」やそれに関する様々な事務事業が地方公共団体には課せられることになるでしょう。
このように新しい制度が作られると、それだけ地方自治体の仕事は増えます。そのために全国の自治体で予算がさらに増え続けていきます。今回の制度は、国から地方への交付金を前提としていますから、主導している国土交通省の予算も増えていきます。こうしてせっかく民営化されたJR各社も半官半民となり、やがて再国営化される道筋ができたとも言えます。
滋賀県の交通税導入
「誰もが行きたいときに行きたいところへ移動ができる」という欺瞞
さて、ヨーロッパを中心とする脱炭素の動きもある中で、公共交通政策は重要な課題とされています。国土交通省の政策協議の場においても、公共交通の財政負担を先進的に進めているフランスの事例が紹介されています。
フランスでは、交通法典により、交通権が明文化され、すべての人のモビリティ(移動性、流動性、可動性などと訳される)確保を目指すことは、重要な政策課題であるとされています。そして、地域公共交通については独立採算制放棄が明文化されていることが特徴とのことです。
このことから、日本においても税負担の割合が高い事業となることが予想されます。
実際に、近年では滋賀県が交通税の導入に積極的です。こちらのニュース記事を引用してみましょう。
「誰もが行きたいときに行きたいところへ移動ができる」とは、フランスの交通権の思想と同じことを言っているようです。しかし、社会的コストをどのように負担するかとなった時に、全く合理性を感じられないと思うのは、私だけではないはずです。
例えば、山の中腹に昔から住んでいるからとそこに住み続け、近隣のスーパーに買い物に行くことができないから「コミュニティバスが必要だ」という要望をする人が実際いるのでしょうか?
権利としての交通権は重要かと思います。しかし、みずから主張してその権利を獲得することと、行政が誰からの要望もない、あるいはごく少ない要望に対応するために、おせっかいに制度を準備し、その権利を享受する人が増えるのを待つことは同義なのでしょうか?
滋賀県が想定している費用をここに挙げてみましょう。
「目指すべきサービス水準を達成するために必要な費用(路線バスのみでの試算、1年間)」
1年間でかかる費用として、
・現状維持:数億円
・最低限:50億円
・理想的:62億円
・理想的(コミュニティバス等含む):89億円
だそうです。
滋賀県の人口140万人で割った場合、かかる費用が少なく考えて10億円として計算しても、一人当たり700円の増税となります。当然、50億円かかる場合の負担は5倍の3500円です。4人家族なら14000円。家族でちょっとした遠出もできる金額です。
滋賀県の都市部に住んでいる人は主に京都、大阪で仕事をし、JR西日本、京阪電車の路線を使っている人が多いと思います。ローカル路線バスなどほとんど使わないのに、そのために毎年所得から数千円もの負担をし、鉄道がなくなる地域の人の交通権を守らないといけない。
またこれは他人事ではなく、全国で起こりうる事態なのです。
交通税、やがて全国へ
なぜかというと、今回の法改正の前に行われた審議会の議事録を見てもわかります。国土交通省交通政策審議会、交通体系分科会、地域公共交通部会の審議により、今回の法改正は行われているのですが、令和2年1月に提示された部会の資料で「地域公共交通計画」を政策目標として、自治体が設定しなくてはならなくなっているのです。その目標数、1200件。つまり、1200の自治体が地域公共交通計画を作成し、それらの財政的支援をする準備があるということです。
冒頭に紹介した自民党の岸田首相へ申し入れた内容を考えますと、この法律の目的は、地方公共交通を存続させるためです。公共交通を使わない人もみんなで支えていこう。という考え方であり、また地方の多くの自治体も同じ気持ちでいることでしょう。
また、このような公共交通制度を作り上げるにあたり、全国民で負担するということになると、それはもはや、健康保険制度のように「みんなが必要だから、みんなで負担して当たり前」という制度になることは目に見えています。数十円、数百円の負担だから大したことない。中にはまるで保険のセールスのように「1日たった数~数十円で、あなたの「おでかけ」をがっちり保障!」などと言い出す自治体も現れるかもしれません。
滋賀県の交通税はまさにこの「みんなが必要だから、みんなで負担して当たり前」という視点から考えられています。そのために数十億という予算が必要であるという試算を出しています。それをまかなうために増税をするという、とんでもない政策です。しかも滋賀県民は、この公約を掲げた三日月氏を県知事として当選させてしまいました。この三日月氏は元JR連合の出身ですから、JRとの政治的な繋がりがあった上での増税ではないかと勘繰りたくなります。
鉄道・バス廃止はいけないことなのか
ほかの選択肢について考える
「鉄道がなくなると町がさびれてしまう」としばしば言われます。交通手段がなくなることが経済的なダメージを受ける理由として想定する考えからだと思います。しかし現実は、
地域が衰退する→ 鉄道の利用客が極端に減少→ 廃止論議が起こる
という順番ではないのかな、と思います。
公共交通機関を利用するのは高齢者と高校生だけなのが実情ではないでしょうか。
岡山県では、高校生による鉄道の存続運動が起こりました。JR姫新線存続問題です。ある高校では生徒の約半数、別の高校では約2割が姫新線を通学で利用しています。姫新線が廃止されれば学校生活に多大な影響が出るとして、路線の存続と利便性の向上に取り組むよう市と市議会に求めました。
果たして、高校生には鉄道しか通学手段はないのでしょうか。
ほとんどの高校で、バイク通学は禁止されています。
しかしその校則は、果たして本当に必要でなのでしょうか?
例えば山梨県は、原付免許取得者日本一として有名で、県立高校生における調査では1万6290人中、1642人が原付通学。約10%もの生徒がバイクで通学しているそうです。
これは、TVアニメ『スーパーカブ』の背景となっています。
『バイクのニュース』から引用してみましょう。
鉄道が不便なため、原付通学が認められている。
「バイク通学禁止」という校則規制が緩和されているからこそ、電車やバス以外の交通手段が生まれ不便を乗り越えているわけです。山梨県の高校生ができることがなぜ他県の高校生だとダメなのか。昔からダメだから今もダメという思考停止では、国土交通省大臣の言う「リ・デザイン」の街づくりなど果たして出来るのでしょうか?
他にも、鉄道に代わる交通のアイディアは民間の中にたくさんあるのです。「減税新聞」のこちらの記事をご覧ください。
近年はテクノロジーの進化にともない、以前では考えられなかった、さまざまな交通手段が登場しています。
世界規模で見れば、フランスの交通権にもある全ての人のモビリティ確保とは、旧来の交通手段の維持だけではなくなっているのです。
政府が古い規制を廃止し、新たな手段の参入を認めることは、次世代の経済発展にとっても大変重要です。鉄道が大きなインフラの一つであることは間違いありませんが、災害の多い日本ではその一つに頼り切ることの方が大きなリスクです。人口減少社会においては莫大なインフラよりも、小さな選択肢が複数あること、そしてそれらを自由に選択できることが私たちの生活をより便利で豊かなものにするのです。
ですから、まずやるべきなのはこれまで私たちを縛ってきた規制を廃止し、民間の自由な経済活動により、新たな移動手段が発達できる仕組みを整えることです。
社会主義政策の末路
既得権である鉄道というインフラの存続には多大なコストが必要で、当然、国や自治体からの補助金など、租税負担による存続対策となることは必至です。
公共交通の再編とか「リ・デザイン」とかかっこいい言葉を使い、税金による移動手段を作り上げるために、政府は私たちの資産をどんどん奪いにきています。少子高齢化が加速する日本社会において、国家主導で、鉄道が無くて可哀そうな地域の人をみんなで支えるという社会主義的な政策は、やがて破綻するでしょう。健康保険制度や国民皆保険制度が良い例ではないでしょうか。これ以上破綻する仕組みを増やす余裕など、この国にはないのです。
そして破綻するのは国が先か、私たちの生活なのか。
当然、弱いのは私たち国民です。
すべての増税に反対します。私たちの自由と豊かさを守るために。
番外編:浜田参議院議員に質問してほしい!
減税と規制緩和に賛成で、国会でも政府に鋭い質問をしてくださる政治家女子48党の浜田議員に、ぜひとも国会で質問して欲しいな〜と思うことを番外編として掲載します。(^_^)