【資格と罰でもう安心?!】海上運送法等の一部を改正する法律案
こんにちは。地方自立ラボ(@LocaLabo)です。
私たちの住んでいる国は、国家としてとらえることも大切なのですが、本来は私たちの住んでいる「この町」「この地域」の集まりである、ということがもっと大事だということです。私たちが幸せに暮らすらために、国が住みよい場所になるためには、住民として住んでいる「地方」こそが住みよく豊かな町であってほしい、そんな願いを込めて書いています。
今回は、この度国会で審議されることになった「海上運送法等の一部を改正する法律案」について考えてみたいと思います(本稿で対象とするものは2023年第211通常国会で法案が提出されたものです)。
今回の法改正は北海道で起きた遊覧船の事故を踏まえた安全対策に関する規制強化と、経済安全保障の観点から我が国の海上輸送の拡大に資する措置に関わる改正となっています。これは我が国の海事産業の国際競争力を図る改正(安定的な国際海上輸送の確保に向けて、対外船舶貸渡業者など(仮称)が作成する「外航船舶確保等計画」(仮称)の認定制度の創設などに係る内容)となります。本稿では海難事故から生じた規制に関する改正部分を取り上げ、考察してみたいと思います。
さて、船といえば、最も大切なのは「船長」。漫画『ONE PIECE』の主人公ルフィも麦わら一味の船長。ルフィは「一見すると船長らしくありませんが、大事な局面での鋭い言動や決断力など船長としての風格を見せ、仲間のためなら世界政府や大物海賊にも喧嘩を売るなど船長として頼りになる存在です。」
当然、海賊ですから法規制なんてくそくらえだと思いますが、みんなの理想の船長ではないでしょうか。今回は船乗りに関する法律の話です。船の運行や船長の役割などを規定する法律に関する改正案を以下に解説していきます。
改正法案の概要~船頭多くして舟山に上る~
一般論として、事故はいつ、どのようなことでも起こり得るものであり、いついかなる状況で発生するかも分かりません。しかも未然に防げた場合「何を防げた」のかということはわかりません。何も問題なく進んでいき、何事もなくゴールに到達したことをもって事故が防げたということが言えるということになります。そのため、例えば年間を通しての事故率や被害状況などを統計的に表すことで、事故が減ったとか、ある施策を行ったことにより明らかに効果があったというような評価をしています。
しかし現代において事故に関する管理はより科学的、客観的に検証可能なものとなっています。例えば船舶で言えば次の3種類に係わるリスクについて検討し、頻度、重要性に応じて数値的処理が可能です。
これらの項目を数値化し、計算式に当てはめることでリスク回避が可能か、不足かが分かるという考え方です。
今回の海上運送法等の一部を改正する法律案では、令和4年4月23日に北海道知床で発生した遊覧船「カズワン」の事故を踏まえて「徹底的な安全対策を講じていく」ために改正されます。この法改正に向けて事故対策検討委員会が開催されました。
しかし知床遊覧船事故の対策検討委員会での議論を確認した結果、驚くべきことに、上記のようなリスク分析に基づいた検討が全く行われていませんでした。検討委員会の検討事項は会ごとに官僚側から示されたテーマに基づいて議論をしていくことになりました。このテーマは主に海上運送法、海上運送法施行規則の条項に基づくもので、特に「第十条の三 安全管理規定等」の部分に関するものが中心となっています。つまり、既存の枠組みの中で安全管理規定を変更するということです。これらは主に「安全統括管理者」「運行管理者」の規定に関するものであり、あくまでも書類上の運輸安全マネジメントに関する規定となっています。既存のレールの上で考えるだけでは当然「屋上屋を架す」規制になるしかありません。
この検討会は事故が4月23日に事故が起きてから1か月も経たず立ち上げられ、第1回の事故対策検討委員会は5月11日に開催されています。それから半年以上、10回の検討委員会が開かれ、12月22日に終了しました。最終回に『旅客船の総合的な安全・安心対策』として委員会の取りまとめが発表されています。
ここでは「旅客船の総合的な安全・安心対策を迅速に講ずることが必要」として次の7つが掲げられています。
これらの内容を盛り込んだ形で改正法案がまとまり、事故を起こさない体制を築き上げるということです。この場合、結果として見えてくる法律の効果は一般論としての安全対策、つまり「事故の減少」や「重大な事故がなかった」などの観点からの考察になります。その法律の効果はどのように考えらているのでしょうか。こちらもすでに事前評価書が作成されていますので、その文書を見ていくことにしましょう。本改正の中心は新しい規制を設けるということですので、改正によりどのような効果を期待するか、あらかじめ官僚側が自己(正当化)評価しているものです。
頭でっかちの「シーマンシップ」
『規制の事前評価書:海上運送法等の一部を改正する法律案 評価実施時期:令和5年3月2日』という文書があります。そこに「規制を実施しない場合の将来予測」というものが記載されています。改正法の内容も含まれてきますので、まず該当の部分からご紹介します。
また、その後に上記1〜3における「規制以外の政策手段の内容」というものも記載されています。つまり「規制ではなく推奨にした場合」という意味です。
そして、評価書の最後に「効果の把握」という項目があります。どの程度の効果が認められるのか確認してみましょう。
以上のことを要約すると、新たな規制として次の3点となります。
資格制度にして勉強したからといって事故はなくなりません。シーマンシップという精神論的発言もあった事故検討委員会の答申をうけた対策は自己責任論という、国民に罪をなすりつける役人根性丸出しとしか思えません。こんな対策でよく「徹底した安全対策」と大きな顔できるなと。お勉強好きな官僚はいつも「勉強しないやつが悪いんだ」と思っているんでしょうか。答えの決まった問題を解くだけで人の上に立ってきた官僚に欠けているものは何でしょうか。次の項目でもう少し掘り下げて考えてみたいと思います。
客観的なリスク低減の方策がない
国交省の検討会で作成された「徹底した安全対策」に関する規制の結果として想定しているのは次の二つになるといいます。
法律案『概要』では「旅客船の船舶海難(人為的要因によるもの)について、死者・行方不明者数を継続的にゼロにする」という目標・効果が示されていますが、小学校の学級会レベルの目標のように感じます。
本規制の効果としては「個々の事業者における状況が異なるため、定量的に把握することは困難」だそうです。効果の計れない制度は結果として精神論による安全指導となってしまいます。リスクの低下とは「事故になる危険性が減る」ということだと思いますが、どのようなリスクを具体的にどの程度低くするかという客観的な効果を目標にする方策が大切だと思います。
リスク低減は教育だけに頼るものではなく、本稿の最初の方でも述べましたが、リスクの分析をしてレベル分けをする、そしてレベルに応じた対処方法を決めるという手順が必要です。実際、船乗りだけに限らず、昔から職人の仕事とされてきた仕事が素晴らしいのは、言葉にはなっていないが、意外と現代の目から見ても合理的な基準で判断しているな、ということが多いものです。昔の物だからと言って精神論だけで成り立っているはずはありません。誰の目から見ても客観的に良いモノだけが後世に引き継がれているはずです。
上記評価書で読み取れるのは、教育と資格取得を義務とすることでリスクを下げると言っているのですが、「船員教育を通じてシーマンシップに基づき安全意識を高める」「事業者の責任を重くすることで事故を起こる可能性の抑止力とする」などでリスクが回避できるとは到底思えません。「とにかく頑張ろう!」「できなかったやつはペナルティ」に終始する規制なんて、くだらない…。
例えば、厚生労働省の労働災害に関するリスクアセスメントの考え方を見てみましょう。
リスクアセスメントの手法による労働災害の防止の一つとして、「リスク低減措置」というものがあります。これは次の1~5の段階があるとされています。
ここで近年重要視されているものは2~3です。危険な作業そのものを廃止するか、他の方法を考える。そして「工学的対策」というのはそもそも危険な状態に対し機器的な措置で危険を回避すること。それらがあってマニュアルの整備や、危険防止手袋などの保護具の着用が意味をなすのです。
危険な作業の廃止例として最近の造園業からの事例をご紹介するとわかりやすいと思いますので、ご紹介します。
造園業でのリスク低減の考え方として「高木を植えない」ということがあります。高い木を植えると木の管理として枝の伐採作業などが必要となりますが、そもそも高い木を植えなければ高いところに上る必要がなくなるということです。そのため、最近の造園業の人の造園提案書には高木の植え込みは入っていないことが多いそうです。
工学的対策としては、もし木の枝を切る作業が必要であっても、人が木に登るのではなく、人の落下を防ぐ高所作業車などを使って高いところに接近するという方法です。その他ロックを外さないと機器を使用できないようにするということもあります。それらがあってマニュアル通りに作業をし、さらに機械で手を傷つけないような手袋をすれば安全が確保できるということです。
今回の改正法案では客観的な規制の効果検証に不備があります。海の事故における危険回避、低減の考え方としてリスク分析の手法が取り入れられていません。リスクを分析して、それぞれのリスクに応じた効果的な対応策が示されていないのです。結果として船員や事業者、検査者、消費者に求める精神論に終始する内容となっています。そう言った意味で今回の法改正案には反対の立場をとります。大幅な再考をお願いしたい。
リスク分析の考え方は数え上げたリスクの数だけ規制を作れ、ということではありません。規制を最小限度に抑えて、レベルに応じたリスク回避の方法を考える。重大な危険に対しては最大限の努力を払うことが必要ですが、小さなリスクにまでそれに相応しくない努力をする必要はないという考え方です。今回の法改正では「中小零細企業が多い」遊覧船などの業界に応じたリスク分析と低減策を考えればいいだけではないでしょうか。
なのに国交省ときたらとにかく事業者に対し、安全人材確保計画の提出義務、許可の更新制、管理者資格試験の創設、届出制から登録制へ、という厳しい規制を課すばかり。違反すれば罰金と懲役刑というムチ。しかしそれでは優良事業者の負担が大きいからと、ちゃっかりアメも用意しています。
結局今回の法改正も「安心と安全」をうたった安定の規制強化と補助金の新設です。役所の権限強化と予算獲得。増税の足音しか聞こえません。
観光船業界はコロナに加えて知床事件により、ただでさえ業績不振に喘いでいます。
こんな状態の事業者から、さらに時間と経費を無駄に奪う規制強化をすれば、地方の観光業はますます衰退してしまいます。だいたい今回の事故は、国交省の天下り先である日本小型船舶検査機構(JCI)が超絶いい加減な検査で通したのも要因の一つと言ってもいいと思います。なのにJCIは「人手不足で検査がちゃんとできない」と、国の責任にしています。ですがそれは「自分たちは悪くない」という責任逃れじゃないでしょうか?
JCIは検査だけじゃ儲からないからと、国に補助金も要求しています。また各地の運輸局にて、今回の法改正に盛り込まれている管理者試験や講習を行い、事業者から講習料や更新手数料などを取るわけです。それでは全国の真面目な旅客船事業者にこれら講習や資格試験、増員、安全設備増設などの負担を強いるだけではないでしょうか。こちらの動画でも他の事業者が、あの状況で船を出すこと自体があり得ないと言っています。
こうやって数少ない地方の収入源が規制強化で奪われていきます。
「官栄えて国滅ぶ」とはまさにこのことですね。ブラック規制だらけでは、ルフィのような、自由で楽しくて元気な船長も船も消えてしまうでしょう。
私たちはすべての増税と規制に反対します。
番外編:浜田参議院議員に質問してほしい!
減税と規制緩和に賛成で、国会でも政府に鋭い質問をしてくださる政治家女子48党の浜田議員に、ぜひとも国会で質問して欲しいな〜と思うことを番外編として掲載します。(^_^)
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