見出し画像

【サボりは許さん?】「地方自治法の一部を改正する法律」について

こんにちは。地方自立ラボ(@LocaLabo)です。

私たちの住んでいる国は、国家としてとらえることも大切なのですが、本来は私たちの住んでいる「この町」「この地域」の集まりである、ということがもっと大事だということです。私たちが幸せに暮らすらために、国が住みよい場所になるためには、住民として住んでいる「地方」こそが住みよく豊かな町であってほしい、そんな願いを込めて書いています。

本日は、この度国会で審議されることになった「地方自治法の一部を改正する法律」について考えてみたいと思います。
(本稿の対象は2023年第211通常国会で提出された法案です)

今回の法改正の内容は、ザックリ言うと次の4点です。
1. 地方議員の仕事内容を明確にする
2. 請願の提出などのオンライン化
3. 非正規雇用職員への勤勉手当の支給
4. 自治体のキャッシュレス化の推進

このうち1についてをメインに、内閣府の諮問機関であり総務省の活動の中心的位置にある「地方制度調査会」での議事も参考にしながら解説をしていきたいと思います。

無投票当選って、住民のせいなの?

今年は統一地方選挙の年ですね。地方公共団体の議会、市長などは4年ごとに多くの団体で任期満了を迎えることになります。これらの選挙がバラバラの期日で行われると、選挙に関する事務作業や、選挙運動をする候補者、有権者も混乱します。また、期日を統一することで関心を高めることにもつながります。そうして、特例法により期日を統一した地方選挙が行われるようになりました。今回も全国1,794の地方公共団体のうち、13.94%に当たる250団体で首長選挙が、43.87%に当たる787団体で議員選挙が実施される予定です。

さて、実際の選挙で問題になるのは、その立候補者ではないでしょうか。私たちに一番身近な代弁者を選挙で選ぶわけですが、実際は無投票当選で決まってしまうことが結構あるのです。無投票当選とは、定数以上に立候補者がいないということです。総務省の資料(資料1)によると、都道府県26.9%、指定都市3.4%、市2.7%、町村23.3%の割合で、無投票当選となっているとのことです。つまり、数字でみると、定数に対して立候補者が少ない、という自治体が増えているということですね。

地方議会について

また、投票者の意識はどうでしょうか。前回の統一地方選挙後に行われた全国意識調査の結果で「非常に関心があった」とされるのは、市区町村長選挙の24.6%、次に知事選挙の23.2%と出ています。先ほどみた、無投票当選で決まる都道府県議会議員選挙は26.9%あるわけですが、知事選への「非常に関心があった」という数値は23.2%となっており、なんとなく違和感があります。一方、市長選への関心は24.6%あったのですが、とくに指定都市3.4%、市2.7%と、無投票当選で決まる自治体は少ないです。この数値からは市長選への関心は非常にあって、選挙戦も活発に行われている様子がうかがえるのではないでしょうか。

第19回統一地方選挙全国意識調査 調査結果の概要

無投票当選の問題は「立候補する人が少ない」です。意識調査では「非常に関心があったという割合が少ない」という点が問題として挙げられるかと思います。しかし現在の地方制度調査会では「立候補する人が少ない」ことが問題の中心となっています。

多様な人材が参画し住民に開かれた地方議会の実現に向けた対応方策に関する答申(案)の概要

議員の仕事内容がない?!

では総務省の官僚たちからの視点で、住民から地方議員に立候補する人が少ないのはどのような理由があると考えられていか、見ていきたいと思います。総務省自治行政局行政課の研究会の審議内容から見てみましょう。
令和2年の「地方議会・議員のあり方に関する研究会」の報告書では「議会の現状と課題」として次の3つの問題点が指摘されています。

【議会の現状と課題】
(1)住民の関心の低下と無投票当選の増加
  ・投票率の低下、無投票当選の増加の傾向
(2)議員の構成
  ・性別や年齢構成の面で多様性が不足
(3)人口減少社会における議会の役割
  ・住民ニーズや地域課題が多様化・複雑化

地方議会・議員のあり方に関する研究会報告書概要

地方議会におけるこれらの問題に対し、
・住民と議会との意思疎通の重要性
・女性の参加、旧姓の使用
・議員の位置づけ、職務の明確化を整備
・立候補環境の改善
・議会の本会議、委員会をオンラインで行えるようにする

など、さまざまな議会改革を提言しています。

では、今回の地方自治法の改正にいたるまでの条文の変遷を通じて、官僚の考えている議員の役割を考えてみたいと思います。「旧条文」「案条文」「新条文」と並べています。「案条文」とは、平成2年に官僚が示していた条文の案で、「新条文」が今国会に提出された改正案の条文です。

地方議会・議員のあり方に関する研究会(第5回)参考資料集
地方自治法の一部を改正する法律案新旧対照条文』より抜粋

第八九条は現在「普通地方公共団体に議会を置く」の一文しかありません。そして、地方自治法の内部を読めばわかるのですが、驚いたことに現在の法律では「議員の仕事とは何か」ということは一切書かれていないのです
(実は国会議員も同じです(国会法参照))。
「議会制民主主義における意思決定機関」「事務の方針を決定、その管理及び執行を監視」「議会の審議に参加しなければならない」「全力を挙げてその職務を行う」など案条文の方は、お上が大上段に構えて「地方議員はしっかり仕事せーや」と言っているように私には感じます。新条文の方はすこしトーンが落ちているように感じますが。

まるで「地方のアホな議員がしっかり仕事せーへんから、だれも選挙に立候補せーへんねん」そんな官僚たちの感情が文章に表れているように感じます。要するに、議員のなり手がいないのは地方議員(住民)のせいというわけです。エリート官僚からすれば、自分たちの作った制度に問題があるとは考えないのでしょう。先輩の作った制度を否定できないなども考えられそうですが、常に住民(議員)のやる気がないから、という視点で語られているように感じます。

ガーシーはなぜ懲罰を受けなくてはならなかったのか

この3月、参議院議員のガーシー議員が懲罰委員会にかけられて「国会でみんなに謝る」(ことが決議された)という珍事が起きました。国会で懲罰委員会が開かれること自体が前代未聞の出来事です。なぜ、謝らねばならなかったのでしょうか。『国会法』では「第四章 議員」として述べられていますが、国会議員の立場については記載されていても、仕事内容については記載されていません。国会議員は、国会という会議の中でその会議、委員会に与えられている権能の範囲の議事を進める投票員としての役割ぐらいしか読み取れません。ちなみに第十五章に「懲罰、倫理」の規定が設けられています。

ガーシー議員が懲罰動議に付された理由は第百二十四条にあります。「議員が正当な理由がなくて招集日から七日以内に召集に応じない」点をもって議長により懲罰委員会に付された。このあたりが法律から逆読みした場合の議員の役割になるのかな、という感じです。正当な理由がない限り、議会に来ないヤツはサイテー議員なのです。つまり、議会に出席することが最も大切である、ということなのでしょう。

地方の議会においても同じことで「議会をサボる、寝る、パワハラ、セクハラ、ネコババする議員」がいるとわかり、総務省の官僚からすると全国の議会それが常態化しているという認識なのでしょう。実際地方議員の醜態は、マスコミに幾度となくさらされています。

「そんな体たらくでは誰も議員を信頼しないし、誰も議員になりたくならないでしょ」という優等生的な考えで、議員の職務を明確にした上で、ビシッと仕事をさせる規制を作ろうという考えに至ったようです。

このことは、総務省の資料にもしっかり書かれています。

近年、地方議会議員選挙においては 投票率の低下や無投票当選の増加の 傾向が強まっており、住民の議会に対する関心の低下を指摘せざるを得ないと しております。とりわけ女性議員が少ない議会や議員の平均年齢が高い議会において無投票当選となる 割合が高い傾向にあり、 議会が性別や年齢構成の面で多様性を欠いていることは、繰り返される一部の議員の不適切な行為と相まって、住民の議会に対する関心を低下させ、住民から見た議会の魅力を失わせていると考えられるとしておりまして、 この結果、 意欲のある住民が立候補を思いとどまるようになるなど、議員のなり手不足の原因の一つになっている面がある(田中行政課長)

第33次地方制度調査会第3回総会 議事録より

「繰り返される一部の議員の不適切な行為と相まって~~住民から見た議会の魅力を失わせている」ひいては「意欲のある住民が立候補を思いとどまるようになるなど、議員のなり手不足の原因」とまで言われています。
あ、でもそれって、まんま国会にも当てはまりますね。それはさておき。

原因はそこじゃない!

しかし、果たして地方議員のなり手がいないのは、本当にそれだけが原因でしょうか?
選挙戦が始まって嫌なことは、みなさん、どんなことでしょう?わたしは個人的に「選挙カーでの名前連呼」「あちこちに立つ選挙看板」「投票所、日時が指定される」がイヤです。選挙は名簿で決まる、とよく言います。立候補した時点で支持者名簿が一定数集まっていれば、投票日を迎える前にほぼ当確なわけです。支持者名簿のない人がいくら選挙活動しても当選は難しいとされています。激戦が考えられても自分で読んだ票数が当選ラインを超えていれば、選挙戦は終了なわけです。ですので「選挙カーでの名前連呼」は無駄の極みでしょう。

わたしは、立候補者が少ないのは、公職選挙法による規制だらけの選挙制度が原因だと断言します。「選挙カーでの名前連呼」は、はっきり言ってそれしかできないからどの候補もそうするしかない。あとポスター看板。これは看板業者が儲かるだけ。今の時代、候補者ポスターはインターネットを利用した選挙をすれば全く必要ないと思うんです。印刷する業者と、掲示板を作って設置する業者だけが儲かるだけの仕事。ポスターは税金が使われていますので、私たちの税金が無駄に垂れ流されてるだけです。広告(印刷)業者からしてみたら、地方自治体って仕事の宝庫なんですよね。こちら選挙の看板屋さんです。(笑)

また、高額な供託金の問題もあります。日本は先進国の中でも選挙へ立候補するときに預ける供託金が突出して高額だという指摘は以前からありました。

ウィキペディア供託金より抜粋

国会議員の300万円はさておき、地方議員の立候補でも、自治体の規模により15万円〜60万円ほどの供託金が必要になります。それに加え、下図のような規制だらけの日本の選挙運動の中で立候補しようと思うと、どうしても先程挙げたような「選挙カーでの名前連呼」のような不毛な運動をするしかありません。住民はこれまでそれを幾度となく目にしていますから、議員への立候補はお金も労力もかかるし割に合わない、というのが一般的なイメージではないでしょうか。

しんぶん赤旗「これでいいのか選挙制度」より抜粋

デジタルインフラが整備された令和の時代に、総務省がこのような昭和の古い選挙制度を放置し、立候補者に対し不毛な労力と金銭的負担を強いたままで、「議員の立候補者がいないのは今いる議員のせいだ!」といくら叫んでみても、説得力に欠けますし、何よりこの法改正によって地方議員の立候補者が増えるとはとても思えません。ですが、数年たち結果が出なかったとしても、総務省は自らの責任には一切触れず、今後も「立候補者がいないのは議員と住民のやる気がないせいだ!なんとかしなければ!」と言い続け、法改正を重ねるのは目に見えています。

今国会に提出された法案の柱

ここまでつらつらと議員の仕事について書いてきたのですが、今回の改正法案の概要を改めて見てみましょう。

1. 多様な層の住民の地方議会への参画を促進する観点から、地方議会の役割や議員の職務等について法律上の明確化
2. 地方議会に対する住民からの請願書の提出や国会に対する地方議会からの意見書の提出など、地方議会に係る手続きのオンライン化
3. 会計年度任用職員に対する勤勉手当の支給
4. 地方公共団体の公金事務の私人への委託に関する制度において、長の判断で私人への委託を可能とする
5. 適正な公金取り扱いを確保するため、受託者に対する監督、再委託の場合のルール等に係る規定の整備

地方自治法の一部を改正する法律案の概要

今回のブログでは、主に1.の関係のことについて述べてきました。
2.3.などについては規制追加などが行われるわけではないようです。逆に2.はオンライン化がどのように行われるかという点について、各自治体ごとに行われることに対して違和感があります。むしろ、私企業に解放して新規事業開拓のために利用できるのではないか、という点だけ触れておきます。
3. は、会計年度任用職員(非正規雇用)にも期末手当(令和2年度〜)に加え、さらに勤勉手当を支給するというものです。

格差是正とありますが、自治体の人件費負担が重くなるため、総務省が支援するとのこと。ここでもまた増税の匂いがしますね。人件費に関しては国が支援するのではなく、自治体内で行政改革やデジタル化をし、無駄をなくして捻出する努力をするべきではないでしょうか。民間企業は皆そうしているのですから。お役所にありがちなアナログ業務の人海戦術を続けるために住民の負担が増えるなど、もってのほかです。賃上げ政策と言いながら公務員の給与を上げるために国民の手取りを減らしていては本末転倒です。

4.5.についてはわかりにくいかと思いますので、補足しますと、自治体の公金支払いのキャッシュレス化の推進です。市長などの権限において(つまり事務レベルで)キャッシュレス事業者に委託可能だということです。最近、官公庁においてデジタルプラットフォームの利用が盛んになってきていますが、やはり気になるのは「事業評価書の作成」です。こういった各地方自治体で行わなければならない事務作業について、予算執行が適正に行われているかを監視することこそ、議員の役割です。

5.の条文としては「規定を施行するため必要があると認めるときは、その必要な限度で、その職員に、指定公金事務取扱者の事務所に立ち入り、指定公金事務取扱者の帳簿書類その他必要な物件を検査させ、又は関係者に質問させることができる」として、受託者に対する監督権限が与えられています。こういったことも、議員が別途調査を行うなど、客観的な監督が行われるように期待します。「規定の整備」があるところに事務事業あり。ここにもどのように税金が使われていくか、しっかり見ていきたいですね。

最後に、こちらの法改正、自治体の仕事が増えます。
地方自治体は、事務事業評価書をちゃんと作成してください!

すべての増税と規制強化に反対します。

番外編:浜田参議院議員に質問してほしい!

減税と規制緩和に賛成で、国会でも政府に鋭い質問をしてくださる政治家女子48党の浜田議員に、ぜひとも国会で質問して欲しいな〜と思うことを番外編として掲載します。(^_^)

【質問1】地方議員のなり手がいないという問題について、議会が性別や年齢構成の面で多様性を欠いている点や、現職議員の職務怠慢も原因もその一つかと思われますが、私は、最大の原因は公職選挙法の規制の多さにあると思っております。インフラのデジタル化が進んだ現代社会において、現在の公職選挙法は昭和の選挙制度をそのままに、立候補者に多大な苦労と金銭的負担を負わせ、立候補に対する参入障壁となっていると思われます。その点について政府の見解をお聞かせ願います。

【質問2】非正規雇用職員の勤勉手当に関してですが、単に手当だけを増額するのであれば、自治体の人件費負担が増えるだけと予想します。それを国からの支援で補うだけでは、単に国民に負担を押し付けるだけになるのではないかと危惧します。岸田内閣が賃上げ政策に取り組む中、手取りを減らす増税をしていては元も子もありません。地方自治体の約4割は行政評価に取り組んでいないというデータが総務省の調査※1で出ております。まず地方自治体における事務事業評価の取り組みの徹底や業務のデジタル化を先にすべきと思われますが、政府の見解をお聞かせ願います。

※1『地方公共団体における行政評価の取組状況等に関する調査結果』の概要(総務省HPより)

最後までお読みくださり、どうもありがとうございます。 頂いたサポートは地方自立ラボの活動費としてありがたく使わせていただきます。