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【お花畑】法改正でオランダを夢見る農水省

■はじめに

世界で「農業大国」と言ったら、みなさんはどの国を思い浮かべるでしょうか?アメリカ?オーストラリア?
アメリカは当然1位なのですが、実は第2位は「オランダ」です。オランダの農産物、食料品の輸出額はアメリカに次いで世界第2位。日本の17倍の輸出額となっています。しかし農地面積は日本の4分の1しかありません。これは一体、何を物語っているのでしょうか?

本noteではこの度国会で審議されることになった「食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案」(農業法改正案:以下「本法案」)について考えてみたいと思います。対象とするものは2024年第213通常国会で法案が提出される『農業法(平成十一年法律第百六号)改正法案』です。

オランダが高い生産性と競争力を実現している3つのポイントは上記記事で次のことが挙げられています。

1.機械化、自動化による生産性の最大化
2.大量生産が可能な高収益作物への特化
3.流通における立地の優位性

BASF 実らす、農業のミライ「オランダ農業はなぜ強い?生産性を上げる最新技術と経営戦略の特徴」(2021.7.28)

オランダでは日本のような農家への補助金制度はなく、自由競争の中に勝ち残らなければなりません。そのため高度な制御システムを持つ施設栽培を中心に、経営、労務管理の先進化、事業計画の立案と投資という事業として農業を行う姿勢が明確になっています。

参考までに日本の農業補助金の一覧を載せておきます。自立した農家の育成などは考えていないことがよくわかります。


下の記事を提供しているBASFはドイツにある世界的化学品メーカーです。このような企業もオランダ、EUの農業を下支えしています。また、BASFは同サイトの記事で日本の農業に対して次の危機感を表しています。

「日本農業が抱える3つの問題|農家ができる未来へ向けた解決策とは?」
1.高齢化等による担い手の減少
2.耕作放棄地の増加
3.TPPによる価格競争での劣位

これらの解決策として

1.スマート農業の導入
2.農地や経営を大規模化する
3.集落営農へ取り組む

政府もこのことを理解しており、2013年から研究を行ってきました。しかし、オランダが成功した方法をそのままなぞっても、日本が農業で成功することはできないでしょう。その理由は先に挙げたオランダ農業を成功に導いた事業など、日本人の縁故資本主義的ムラ社会の構造と、それに強く根差した国民性や農家の現状、各地の農協や農業委員会など、既存の農業の仕組みにきっと阻まれてしまいます。10年以上取り組んで一体どのような結果ができたのか、しっかり検証してほしいと思います。

「攻めの農林水産業」の実現に向けた新たな政策の概要〔第2版〕(2014年度の資料)

今回の改正にあたり、農業基本法はオランダの成功に憧れた役人の考えた理想的な農政になっています。まるで「理想郷にあこがれた小学生が学級会で話し合った未来の日本の農業」です。日本の農業のパラダイムを変えるほどのインパクトはありません。したがって私は本法案に対し「反対」です。

■農業法とは

前身の「農業基本法」はWikipediaにて次のように記載されています。

農業生産性の引き上げと農家所得の増大を謳った法であり、高度経済成長とともに広がった農工間の所得格差の是正が最大の目的であった。この法律によって農業の構造改善政策や大型農機具の投入による日本農業の近代化を進めた。結果として生産性を飛躍的に伸ばすことと農家の所得を伸ばすことには成功したが、大部分の農家が兼業化したことや、農業の近代化政策による労働力の大幅削減で農村の労働力が東京、大阪などの都市部へ流失し、農業の担い手不足問題の引き金となったり、食料自給率低下の要因を作ってしまった。

Wikipedia「農業基本法」

そして1999年の「食料・農業・農村基本法」により次のような法律に変わりました。

農政の基本理念や政策の方向性を示すものです。
(1)食料の安定供給の確保
(2)農業の有する多面的機能の発揮
(3)農業の持続的な発展
(4)その基盤としての農村の振興
を理念として掲げ、もって国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展を図る

農林水産省/基本政策「食料・農業・農村基本法

そして今回、次のような理由により大きく変更されることになりました。

近年における世界の食料需給の変動、地球温暖化の進行、我が国における人口の減少その他の食料、農業及び農村をめぐる諸情勢の変化に対応し、食料安全保障の確保、環境と調和のとれた食料システムの確立、農業の持続的な発展のための生産性の向上、農村における地域社会の維持等を図るため、基本理念を見直すとともに、関連する基本的施策等を定める

農林水産省/法令、告示・通知等 国会提出法律案/第213回国会(令和6年 常会)提出法律案『食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案 理由

■法改正の経緯

今回の改正にあたり「食料安全保障の確保」を基本理念の例示に追加することとなりました。

農林水産省/法令、告示・通知等 国会提出法律案/第213回国会(令和6年 常会)提出法律案「食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案 法律案要綱

2022年9月29日に農林水産大臣が食料・農業・農村政策審議会に対し「食料、農業及び農村に係る基本的な政策の検証及び評価並びにこれらの政策の必要な見直しに関する基本的事項に関することについて、貴審議会の意見を求める。」との諮問を行いました。農林水産省ではこれを受け、同日、基本法検証部会を設置し、同部会の下で検証・見直しを行ってきました。

当初、見直しの基本方針として次の4つが掲げられていました。

1.皆さんに食料を届ける力の強化
2.次世代へつなぐ、環境にやさしい農業・食品産業への転換
3.新たな技術も活用した、生産性の高い農業経営
4.農村・農業に関わる人を増やし、農村や農業インフラを維持

「食料・農業・農村基本法」の見直しを行っています

検証部会では2023年5月29日に中間とりまとめを公表し、全国を12のブロックに分け地域ごとに説明会を開きました。各地で開かれた説明会において以下の問題について説明されています。

(1)国際的な食料安全保障に関する考え方
(2)食料の輸入リスク
(3)備蓄
(4)食料品アクセス
(5)国内市場の将来展望
(6)輸出、知的財産

食料・農業・農村政策審議会基本法検証部会 地方意見交換会 配布資料【北海道ブロック(帯広)】資料『【資料3】食料・農業・農村基本法の検証・見直しの検討状況』(帯広地区での地方意見交換会は2023年8月8日)

最終的に『答申』が公表され、本法案の下地となっています。

〇食料・農業・農村政策審議会 第42回(令和5年9月11日)配布資料『答申

■改正内容について

改正にあたり増加した項目は数多くあります。本法律は42条の簡素な文からなる法律でしたが、53条に拡大。本法案において「新設」された項目が26、削除された項目が4と、単純に考えて1.5倍以上のボリュームとなっています。

その内「国は」として国の施策として取り組むべき事柄が22もあります。下図の赤枠で示した部分が該当します。

農林水産省/法令、告示・通知等 国会提出法律案/第213回国会(令和6年 常会)提出法律案『食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案 概要

これは「一部を改正する法律」どころではない事態。大幅改正です。どのような「日本の農業の未来」を描いているのか、大変興味を持って内容を見ていきました。しかし、改正のほとんどは従来の政策の言い換えばかり

例えば、わが国の農家がどのような考えで農業を行っていけば良いのか、国が農家に対してどのような思いでいるのかについては新たな方針は何も示されていません。先にオランダの農業を取り上げました。オランダの人口は1750万人程です。農地は日本の4分の1。それでも農産物、食品の輸出額は17倍もあります。

一方わが国は輸入に頼っているからと食料供給について大きな不安を持っています。本法案の作成にあたり、農業の発展も大事だが「食料安全保障」の観点から「輸入」「内製」による安定供給が必要だという議論が中心となっています。そこで出されたのが、わが国の国内農地面積に関する議論です。

検証部会の議論の一つで印象的だったのが耕作面積に関するものです。田241万ha(下記資料に記載の数値、農水省の2022年「耕地面積」では235万ha)、畑201万ha(同197万ha)という耕作面積を輸入農作物換算と比較する議論にすり替えています。農産物輸入量を農地面積に換算した場合、913万ha分として、国内農地面積の2.1倍となっていることから、余っている「水田を畑地に転換してくことが必要」との意見が採用されています。それは机上の空論でしょう。これが我が国の「生産性を高める」ということなのでしょうか?

食料・農業・農村政策審議会基本法検証部会 地方意見交換会 配布資料【北海道ブロック(帯広)『【資料3】食料・農業・農村基本法の検証・見直しの検討状況(参考資料)

1971年から始まり50年後の2018年に廃止された減反政策の結果、耕作放棄、離農現象により余っている水田が増えました。2023年の「作物統計」では水稲作付面積が134万haとなっていることから、95万haが水稲耕作に利用されていないと考えられます。これを畑地にしたいという農政側の思惑を反映する根拠として耕作転換を支援する議論になっています(この発言をした柚木茂夫氏は各地の農業委員会をまとめる全国農業会議所の専務理事)。

「はじめに」に書きましたが、本法案は「役人の考えた理想的な農政」です。しかも、岸田首相が取り組んでいる「食料安全保障」になんでも結び付けられています。どれぐらい「安全保障」という言葉が使われているか、皆さんもぜひ本法案の『新旧対照条文』を読んでみてください。

本法案は農業については内向きで、農業の未来を見出そうと必死にもがいている国内の問題は置き去り。安定供給だけを念頭に置いています。つまり本法案では「食料安全保障」の項目だけを華々しく追加することに力点がおかれ、従来の農業政策は大きな変革を考えていないのです。オランダの4倍の農地があるはずのわが国。豊かな農業国家になる日はいつになるのでしょうか?

浜田参議院議員に質問してほしい!

減税と規制緩和に賛成で、国会でも政府に鋭い質問をしてくださる参議院議員NHK党の浜田議員に、ぜひとも国会で質問して欲しいな〜と思うことを番外編として掲載しています。(^_^)

【質問1】
我が国の田畑農地は442万haあります。国土の11%程度と考えられます。一方オランダは国土の44%が農地です。オランダの農産物、食料品の輸出金額は日本の17倍という農業大国です。カロリーベース(65%)でも生産額ベース(181%)でもわが国よりはるかに豊かな農業経営が行われていると考えられます。わが国でも農業、農家が今よりいっそう強く豊かになることを希望したいのですが、我が国の農業政策の方向性はどのようなことを目指しているのかお聞かせください。

【質問2】
オランダの農業には国からの補助金がありません。しかし世界的な農産品輸出大国となっています。オランダ国内においては農家も自由競争。経営努力や資本投下により効率的な農業が営まれているそうです。一方我が国の農家の方の声を聴きますと「適正な価格形成がなされていない」「相手の言い値で資材を仕入れ、生産物が買われる仕組みの中で若手がやってやろうという気持ちになれるのか疑問
(『地方意見交換会及び国民意見集計結果概要』2ページ)
という声もあります。わが国の農業にも自由競争の枠組みが必要なのではないかと思いますが、農林水産省の見解を伺います。

【質問3】
農業の担い手に関する問題についてお伺いします。農業委員会の指導や農協による集荷といった規制が農家のやる気を阻んでいると考えています。自分の作った農作物をもっと自由に販売したい。価値の高い農産物を自由に作りたいという思いがある方が農業への進出を参入しやすいよう、農業の担い手にもっと会社組織が入り込めるような規制の緩和について現在より積極的に行う考えはあるのかお聞かせください。

最後までお読みくださり、どうもありがとうございます。 頂いたサポートは地方自立ラボの活動費としてありがたく使わせていただきます。