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【改革は法に縛られてはできるわけがない】商工組合中央金庫法・中小企業信用保険法改正案

こんにちは。地方自立ラボ(@LocaLabo)です。

今回は、この度国会で審議されることになった「中小企業信用保険法及び株式会社商工組合中央金庫法の一部を改正する法律」について調査しましたのでご紹介いたします。
(本稿で対象とするものは2023年第211通常国会で提出されたものです)

株式会社商工組合中央金庫は「商工中金」の呼び方の方が分かりやすいですね。現在は岸田総理の高校の同級生である関根正裕さんが社長をしています。首相動静を見ていますと、昨年2回会食をしていますし、今年に入ってまた1回会っていることが分かります。

余談ですが、この首相動静サイトの題名「茶色の朝を迎えないために」っていったいどういう意味?と検索したら「茶色の朝」はフランスのベストセラーだそうです。下の哲学者の方の記事の冒頭文を引用してみましたが、まさに私たちが危惧していることが書かれているようですね!

「ごく普通の」国家が、日々の生活に知らぬ間に忍び込み、人々の行動や考え方をだんだんと支配するようになる。


今回はなぜ法案に反対するのか、どのように資料を使っていくのかの説明もしながら法案について一緒に見ていっていただければいいかなーと思います。なお、商工中金の不祥事については省略します。関根社長にとって良いことが書いてありますので、こちらでご紹介しますので、興味がある方はご参照ください。

完全民営化への疑問

まず始めに今回の改正案の中心となる「完全民営化」といういかにも一般受けしそうなテーマですね。多くの人が「民営化、イイネ」と思いたくなりますよ。でもね、まじめに暮らしている多くの国民はこれまでこれで騙されてきたんですよ。「クニガキチント」やってくれる、しかも民営化なら税金を投入しなくなるんでしょ、と。

ここにこの法案を作成した我が国のエリートたる官僚たちが善良な国民を騙すテクニックがあります。はっきり言いましょう。民営化して良くなったことはありません。商工中金の存在自体が昭和の遺物の温存であり、これを継続させることが日本の政治を腐らせる菌床たるに十分な存在なのです。

「民営化後はどの会社もうまくいってるじゃないか」と多くの人は言われることでしょう。しかし「変わらない世の中を維持」するためにどれだけ日本の発展が妨げられてきたでしょうか。道路公団のようにどれだけ無駄金を使い続けてきたでしょうか。

私は大手銀行を中心とした金融システムを否定するわけではありません。否定しても現在では国が発行する通貨管理の中でしか金融は回りませんので。しかし、こと地域金融は地域限定の役割を果たすことができます。今後は地域商工業のために地域信用金庫が身近な金融機関として有用性がますます高まっていくと思われます。そうは言っても現在の法規制の中では活動範囲が限定されているため、地域の店舗網を活かしたきめ細かな支援をするにとどまっているのが現状です。

商工中金なんかブッ潰せ!

現在、商工中金の株主は約半分が国、あと半分が中小企業組合他、となっており、今回の法案によりあと2年ほどで国保有分の株式を売却する計画となっています(改正法案『概要』)。

数多くの中小零細企業が借り手となり「中小企業による中小企業のための銀行」とうたって資金を運用している金融機関です。2017年の大規模不正融資事件のイメージを払拭しようと、若手社員を起用しさかんに「私たちが変化してこそ、日本は変化する」と叫んでいます。

また昭和の商工中金と言えば「ワリショー」「リッショーワイド」。テレビやラジオでも沢口靖子を起用したCMが有名でした。時報と共に流れる沢口さんの可憐なアナウンスはおじさんのハートを鷲掴みしたことでしょう^^。


実は2006年の時点で民営化は決まっていましたが、今回の法改正でいよいよ民営化を実現するということです。20年近くも棚ざらしとなり税金が無駄に投入されてきました。

商工中金はさかのぼること昭和11年に「中小企業からの熱望により」(この表現は注意です。具体的に誰かはわかりませんが、なんとなく納得感がありますよね)政府と組合の共同出資によって設立したそうです。時は二・二六事件後の廣田内閣での制定です。社会が大変混乱していた時代ですね。

今回の改正法案の基になる検討会は中小企業庁事業環境部金融課「新たなビジネスモデルを踏まえた商工中金の在り方検討会」(令和4年12月16日~令和5年2月17日)です。この検討会は中小企業のためにどのような政策的課題があるのかということではなく「中小企業専門の金融機関として商工中金に期待する役割」つまり商工中金をいかに存続させるかを前提とした検討会となっています。
●商工中金の在り方検討会「本検討会の位置づけ等について」https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/businessmodel_syokoutyukin/001/003.pdf

改正法案について

改正法案を確認するために概要書が作成されている場合は『概要』をみますが、必ず見るのは『新旧対照表』です。『概要』で見るべきところは資料の小文字の部分です。概要書の枠の中の上の部分、タイトル的な部分には口当たりの良い、いかにもやってます感がある文章が並んでいます。しかし、大切なのは下の行、あるいは小文字で付け足しのように書いてある行です。
では以下に、本改正案の概要(の小見出し)を見ていきましょう。主に次の4点です。

中小企業信用保険法及び株式会社商工組合中央金庫法の一部を改正する法律案の概要(赤部分は筆者追加)

(1)コロナ危機時の資金繰り支援の更なる円滑化
法案概要書には「コロナのような危機時の資金繰り支援の更なる円滑化を図る」と書かれています。商工中金の2022年の財務諸表によると、資本の部に「危機対応準備金」が計上されており、1295億円もの融資時拠出枠を準備しています。これは経産省の中小企業へのコロナ関連支援の原資ともなっています。この部分は商工中金がやらなければならないことではないでしょう。日本にはその他中小企業支援対策が山ほどありますから。
※下記の表にはありませんが「株式会社地域経済活性化支援機構」というものもあります。
参考:●経済産業省「中小企業向け資金繰り支援内容一覧表(2022年4月1日時点)」https://www.meti.go.jp/covid-19/index.html

この部分を本改正案の新旧対照でみると次にようになっています。

第二十二条の三 (新設)
商工組合中央金庫は、その目的を達成するため株式会社日本政策金融公庫法(平成十九年法律第五十七号)第二条第四号に規定する特定資金を必要とする者に対し円滑に資金が供給されるよう、同条第五号に規定する危機対応業務(以下「危機対応業務」という。)を行う責務を有する。

新旧対照条文

政策金融公庫法を念のため確認します。

(第二条)
(一~三省略)
四 特定資金 内外の金融秩序の混乱又は大規模な災害、テロリズム若しくは感染症等による被害に対処するために必要な資金であって政令で定めるものをいう。
五 危機対応業務 特定資金の貸付け、特定資金に係る手形の割引、債務の保証若しくは手形の引受け、特定資金の調達のために発行される社債の応募その他の方法による取得又は特定資金に係る貸付債権の全部若しくは一部の譲受け(以下「特定資金の貸付け等」という。)のうち、公庫からの信用の供与を受けて行うものをいう。

株式会社日本政策金融公庫法

これは政策金融公庫の業務範囲である次の「危機対応業務を行うことが必要である旨を認定する」にあたる部分が商工中金に課せられた責務であるという関係になっています。

第十一条 
主務大臣が、一般の金融機関が通常の条件により特定資金の貸付け等を行うことが困難であり、かつ、主務大臣が指定する者(以下「指定金融機関」という。)が危機対応業務を行うことが必要である旨を認定する場合に、次に掲げる業務を行うものとする。
一 指定金融機関に対し、特定資金の貸付け等に必要な資金の貸付けを行うこと。

改正に改正を重ね、複雑化した金融関係法は銀行業を含む金融関係業者全体の業務を圧迫しています。官僚も至る所に点在する法文のかけらを集め、関連性を考慮して改正分作成作業をしなくてはならないパズルのような作業に明け暮れる毎日だと思われます。

百歩譲ってこの業務は継続してもOK。でも、いずれこの部分を民間が担えるような金融行政を希望します。金融の自由化を推し進めて銀行法等の改正を行い、商工中金法なんてものも廃止して「銀行業務基本法」にまとめていただくことを希望します。

(2)無担保保険等において経営者保証を求めない(法人から代表者への貸付等がないこと、財務諸表を提出していること等が要件)

この部分は「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」の一部改正に該当する部分です。事業承継の問題として、融資の際の経営者保証問題が金融機関側の「安全保障」によりネックとなっています。なぜ金融機関が経営者保証を求めるか。銀行側のもつ保守的な経営方針でしょう。その大本には銀行の規制自体がありすぎて経営者保証を求める必然性がある。慣行となっているということだと思います。
この点、政府がいくら広報してもいきわたっていないのはそういうことでしょう。
参考:●中小企業庁「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策」
https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/hosyoukaijo/index.htm
●政府広報オンライン「中小企業や小規模事業者の方へ ご存じですか?「経営者保証」なしで融資を受けられる可能性があります」
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201503/4.html

中小企業の承継の円滑化に関しては相続税も数年の課税延長などが認められる措置となっていますが(従来より)、中小企業の承継に関しては相続税の廃止が最も有効な方法ではないかと思います。現在の法人版事業承継制度において申告制で贈与税、相続税は特例措置と一般措置により納税額が異なってきます。個人の所得税については生涯所得の把握ができていないことによる未払(と勝手に決めつけられている)税額を仮の相続税率を設定して徴収されていますが、企業における留保資産は適正に納税処理を行っている限り、国税庁が未把握の所得があるはずがありません。しかし、特別の申請をしなければ納税猶予、免除の特例措置が適用されません。本来納税する必要がないことですので、あえて申請させる必要が無いと思います。事業承継は何も手続きなく免税することで相当ハードルが下がり、事業承継がより活発になるに違いありません。

(3)投資専門子会社経由の再生企業出資の対象に第三者関与の再生計画策定企業を追加
これは先に改正を積み上げてきた「銀行法」に関連する件を商工中金にも適用する改正ですので省略します。この項目以外の改正点がありますが、基本的に銀行業法に規定する業務範囲を商工中金にも適用する項目の追加(新設となる)となっています。ただし、この銀行法改正を「規制緩和」政策だと政府は言っていますが、自由化ではなく、規制要件の対象者を広げてお茶を濁しているだけの政策です。

(4)民業圧迫回避規定は存置
これは検討会で提出された全国信用金庫協会からのお願いに配慮した事項です。
その他、この法改正の概要の一番下に小さな字で「罰則の構成要件に該当する行為を行った時期を明確にする趣旨の商工中金法の規定の改正その他の所要の規定の整備を行う」とありますが、銀行法等に準ずる項目の追加、変更となっています。

お友達政権と言われないためには?

商工中金と言えば関根正裕社長。岸田首相と同じ開成高校からの早稲田組としてのお友達ということで週刊誌にはやり玉に挙げられています。当然お友達だから悪、ということは決してありませんが、存在感を明確に示せないと社長自身が潰れていってしまう危険性を有しています。昨年から勇退説も流れているぐらいですから、ぜひ、商工中金の完全民営化を決着させ、満塁ホームランで有終の美を飾っていただきたいと思います。

さて、関根社長の人となりですが、経営改革が好きなんでしょうね。こういう人は実務家(実業家ではない)であり政治家には向いてなさそうです。さて、これまで形成された商工中金の資本は税金と中小企業組合からの出資金です。国民の血と汗の結晶ともいうべき税金や組合費。これらを活用して会社改革を進めています。それがうまくいっているので、今のうちに完全に民営化しちゃおうよ、といった感じで今回の法改正は行われるようです。しかしどの程度、会社改革が進んでいるでしょうか。よく言う2:8の法則(2:6:2の法則、パレートの法則とも言う)が当てはまるようでは関根社長の手腕は大したことないと言えます。

商工中金は全国に1000人のアナリストを有しています。これらの人を良く活用して2:8が8:2になるように社員を育てていってほしいと思います。もし関根社長がこのアナリストたちを優秀な社員に育てられなかったら、税金をドブに捨てたことになってしまいます。商工中金に使った税金を民間に返していたら今頃何ができていたでしょう?
社長自ら先頭に立ち、商工中金を改革してほしいと思います。もしできなければ、若い世代の人を起用してください。

商工中金の改革をして完全民営化が完了すれば、関根さんは評価されると思います。退職金も相当な額が支払われるのだと思います。しかし、これはあなたがすごいプレーヤーだったからではないのですよ、と言いたい。民間にいるときからあなたは法律に守られてきたことをやってきただけのことなのです。勝手なことを言わせていただきますが、どうぞこれからはあなたご自身の人生を歩んでください「もう十分稼いだでしょうから、引退してください」

「民営化」の嘘。価値ある商工中金の形とは?

先に「銀行業務基本法」と書きましたが、これは架空の法律です。日本には「基本法」と呼ばれる法律が整備されていません。例えば食品安全に関する法律で事例をご紹介します。食品衛生法という衛生基準を中心とした法律があります。個別問題が発生して新しい対策が必要になると、仔細を変更する必要があるのです。それをあらかじめ考えられる個別具体に関する対応は「施行規則」を法律と同時に作成したり、その後の運用で例外規定、解釈の範囲などを加える場合は「局長通知」などを出して全国に号令をかけるということを今でも行っています。場合によっては新しい法律を作成することもあります。

これに対して「食品安全基本法」というものを作り、食品安全に関する全体に目配りをした各分野の「憲法」のような法律を作る方法もあります。各個別法が基本法に向かうように作られるような法体系の考え方です。こういった法体系を考慮すればすっきりとした法体系ができるのですが。

現在のように問題各論に対する法律が雨後の筍のように作られてしまっているのはこのような背景があります。
ましてや銀行業などのような金融関係の法律はとても一人で理解できるような体系になっていません。数十もの法律が錯綜して存在し、規制を形作っています。当然その周辺に存在する施行規則や通達、ガイドライン等、何百という決まり事を覚えておく必要があります。それらを規制を簡素化し束ねて金融業に関する基本法を制定する必要があるのではないでしょうか。
これまでと同じこと(前例主義)を続けていては、行政も実業も複雑な決まりに縛られてとても自由な経済活動などできるわけありません。商工中金をただ「民営化」するだけでは規則や規制に縛られた官製金融機関の性質が薄まることは考えられません。

その上で経済活動の自由化を進めていってほしいと考えています。例えば商工中金法において最も大切だと考えるのは「護送船団に組み込まれない」ことではないでしょうか。もし今後商工中金を活かしたいのであれば、金融機関の海賊船となってほしいと思います。既存の金融機関のやり方、考え方を廃止して独自の金融サービスを展開する特別会社としての存在を認めてあげたら、晴れて新しい時代の起業家たちも安心して融資を受けたり、コンサルを受けられるのではないでしょうか。そこで働く社員が自由でのびのびした環境で思う存分力量を発揮してほしいのです。

ひとまず商工中金が発展的解消をするまでは中小企業の統括的金融機関(ホールディングス)として存続すべきかと思います。2年間でなるべく早く政府保有分の株式を売却してもらいましょう。昔から続く負の遺産は解消し、真の新資本主義国家に向かうことを希望します。「変わらない使命のために変わり続ける」と商工中金はかつて広告を展開していました。否!時代は変わります。使命も変わります。
新しい時代は新しい人に任せましょう。

税金下げろ、規制をなくせ!

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