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昔ながらの鍛冶屋が、技術の伝承とEC活用で 世界も見据える地域産業に成長中

全国どこにでもあった鍛冶屋が、現在では経営者の高齢化などにより衰退の一途をたどっています。そんな中で、親から子への事業継承を行った能登町にある鍛冶屋では、ECを活用した事業に全国から注文が集まり、経営を軌道に乗せました。未来への展望を開いたその手腕とは、情報発信と地域や専門家を巻き込んで次々に手段を繰り出す情熱でした。一問一答で紹介します。

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■開催:2021年9月30日(木)19:30~21:30 オンライン開催
■対談テーマ:能登ローカルシフトアカデミー第3講座「地域で必要なビジネス戦略」
■ゲスト講師:干場健太朗 氏(鍛冶職人・ふくべ鍛冶4代目)
■モデレーター:稲田佑太朗(能登ローカルシフトアカデミープロデューサー)

ゲスト紹介

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1980年生まれ。能登町出身。大学で経営学を学ぶ。能登町役場に入庁し、特産品の売り込みや伝統文化の継承支援などの業務に携わる。34歳の時、母の病死を受け家業で創業100年以上の「ふくべ鍛冶」を継ぐ。ストーリーのある商品づくりでイカ割き包丁、能登マキリ、サザエ開けなどヒットを連発。中でもEC事業として始めた「ポチスパ(包丁研ぎ宅配サービス)」は、全国から注文が殺到している。DXにも余念がなく、地域の「困った」を「良かった」に変えたいと日々邁進している。ビジコン「JAPAN CHALLENGER AWARD in 輪島」グランプリ受賞、「いざ鎌倉!JAPAN CHALLENGER AWARD2020」ファイナリスト。NHK「世界はほしいモノにあふれてる」「にっぽん紀行」などメディア出演多数。

干場 こんにちは。「ふくべ鍛冶」は能登町にある鍛冶屋です。鍛冶屋には大きく3つあって、刀鍛冶、専門鍛治、野鍛治。うちは野鍛治になります。修理など何でも屋で、集落に1件ずつあったものです。野鍛冶は全国に100社ぐらいあって、どこも高齢化が進んでいます。
技術的には金属を熱して叩いて自由自在に変形させる「鍛造技術」、また「鍛接」という性質の異なる金属を接着させる技術、熱処理、溶接、研ぎなどの技術があります。うちの看板商品は「イカ割き包丁」で、いま2年待ち、3500本ほど注文が入っています。
移動販売・修理など地域に密着しながら、全国的な販路を開拓していて、特に「ポチスパ」の注文は年々増加しています。社員はパートを含め10名です。先代からの借金も多く、昨年ようやく黒字に転換しました。今年11月には法人化の予定です。

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質問1:メディアにはどんな方法で取り上げてもらったんですか?

役場時代に商工観光課で観光情報を出していた経験から、情報リリースをマメにしました。新聞社、テレビ局は結構取材に来てくれますし、記者の視点で商品のいいところを引き出してくれて、人口減少に負けない事業づくりや、事業承継も話題になり、取材が次の取材につながりました。ストーリー性のある情報をどんどんリリースするといいです。

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質問2:ポチスパの誕生秘話は? 専用ボックスなども自身で作られたのですか?

ポチスパは「ネットでポチッとしたら、スパッとした包丁が返ってくるサービス」のことで、包丁研ぎの注文をネットで受けて、専用ボックスを送付。それに包丁を入れてポストに入れると、1週間後に研ぎ上がるというシステムです。包丁を研ぎに出したくても、出すところがわからない人はたくさんいます。包丁研ぎの新しい常識を作ろうと思いました。
箱は包丁を入れる内部構造を施し、表には「かじやの窓口」というロゴを入れました。安定して送れる形になっていて、デザインはプロに頼みました。やっぱりプロはプロです。

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質問3:技術の継承をしながら、経営を黒字に転換するためにしたことは?

15年かかるといわれる鍛治の仕事ですが、私は鍛冶の技術を分解して、研ぎならあなた、鍛造ならあなたというふうに、束になって父の技術を吸い取りました。一方で、接客や経理、インターネットなど父が苦手な部分を私がサポートしました。
勉強や情報収集は、人の2倍も3倍もをやりました。補助金など活用できる制度がたくさんあり、少ない資金で大きな事業に挑戦する、ということを粘り強くやっています。

質問4:「地域の“困った”を“良かった”に変えたい」とは?

地域の生活で何が困っているのかというのを探し出して、いかに喜んでもらえるかを誰よりも早く誰よりも深く誰よりも広げるというところだと思います。実際、能登で立ち上げた事業モデルは日本の他の地方でも通じます。
私には守りたい事業と伸ばしたい事業があります。守りたいのは漁業など地場産業で、そのためには修理を通じて経営を安定させ、必要な事業を進めていきたいと思います。

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質問5:EC事業をきっかけに全国の商圏を拾っていくというのも選択肢にありますか?

鍛冶屋は衰退産業ですが、鍛冶屋がなくて困っている地域も山ほどあります。そうした地域課題を解決する観点からも、ネット販売で商圏を拡大するのはマストです。将来的には全国の鍛冶屋さんのネットワークを作ってプラットホームにしたいと考えています。
そうした将来を見越して、補助事業や、投資機関、ファンドなどを活用して、民間の企業と組んで自動化の機械を作ったり受注管理システムを入れたり、専門家や副業人材によるDXにも取り組んでいます。日本でこれがうまくいけば、世界にもこのモデルを増やしていきたいと思っています。

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●世界も視野に入れる干場さんからのメッセージ

「これからは都会より地方ビジネスが有利だと思います。地域の課題を解決するところに商機があります」と干場さん。しかし、自分一人では時間も限られているので、いかにわくわくすることに人を巻き込んで、いろんな機関をフルに使うかが、どの事業でも重要。「打ち続けて手数を出せば成果も上がって、効率も上がってきます」と地域に根を張り、やり続けることの意義も伝えてもらいました。

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