『成瀬は天下を取りにいく』をご当地小説の視点で語ってみる
2024年度の本屋が先日発表されましたが、順当に『成瀬は天下を取りにいく』が他のノミネート作品を押し退けて受賞する結果となりました。実にめでたいことです。
多くの出版関係者の方々は、この『成瀬は天下を取りにいく』、およびその続編である『成瀬は信じた道をいく』が、一体これからどれだけの部数売れて、どれだけ新たなファンを獲得するかに関心を寄せていることだろうと思います。本屋大賞受賞前ですでに発行部数は16万部(シリーズ累計は25万部前後)。今回の受賞を受けて『成瀬は天下を取りに行く』の25万部増刷の発表もありました。出版社の期待の高さは相当なものでしょう。
しかし私は「ご当地小説・エッセイ」の投稿サイトを運営している身ですので、気になるのはそちらではなく、『成瀬は天下を取りにいく』の受賞を受けて、その舞台となった滋賀県大津市にある膳所や琵琶湖観光(主にミシガン)にどのような恩恵をもたらすかという点です。
まず、膳所。
ここは、主人公の成瀬あかりとその成瀬の親友である島崎みゆきの地元として描かれています。少なくとも私は、出身が関西であるにもかかわらず本作を読むまで膳所の存在を知りませんでした。仮に地名は知っていても、その初見殺しとも言うべき「読み方」までは知らなかったことでしょう。しかし本作のおかげでその地名と読み方は、大きなインパクトを持って私の脳に刻まれたわけです。おそらくそういった読者の方は、私以外にも沢山いるのではないかと思います。
また地元の人からしても、「よくぞ我がホームグラウンドを選んでくれた!」との気持ちが大きいのではないでしょうか。
そう思って調べてみたところ、予想以上に地元では注目されていることがわかりました。
例えば、膳所で成瀬(島崎は別の高校に進学)が通う高校のHPにてPRをしていて、作者の宮島さんを迎えて講演会まで開いていたようです。
本作を読んだ人なら分かる通り、この高校、進学先として普通に東大や京大が出てきます。気になって調べたところ滋賀県の高校の中ではトップでした。ちなみに作者の宮島さんの出身校は膳所高校ではなく静岡県立富士高校です。大津市には、結婚を機に引っ越したとのこと。
膳所のある大津市も負けていません。すでに本屋大賞ノミネートを受けて膳所駅構内には大看板が設置されていて、さらに作中に出てくる場所のことごとくが聖地巡礼スタンプラリーの場所に指定されているようでした。
アニメではこういった聖地巡礼スタンプラリーが盛んに行われていますが、小説を題材にしたケースは珍しいのではないでしょうか。私が知る限りでは福井を舞台にしたラノベ『千歳くんはラムネ瓶のなか』ぐらいです。
しかも大津市の公式HPには、下記のような特設ページまで用意されているわけですから、地元の成瀬シリーズに対する期待の高さは推して知るべしといったところではないでしょうか。
また、『成瀬は天下を取りにいく』と『成瀬は信じた道をいく』の両作品において、琵琶湖に浮かぶクルーズ船ミシガンが登場するのですが、こちらも成瀬とのコラボを発表しています。
しかも「キャンペーン第2弾」と謳われている通り、すでに2023年にも同企画は1度実施されています。そう考えると1度目はそれなりに効果があったということかもしれません。
私も実は、この作品を読んで俄然ミシガンに興味を持ち、しかもキャンペーン中に作品を持参した時の特典が作者のサイン入り「オリジナルステッカー(2枚組)」と知って「太っ腹か!?」と興奮したものです。
また、これら自治体の積極的な取り組みは、全国区のメディアにも取り上げられており、例えば先日NHKでは以下のように地元の熱狂を伝えています。「作品の舞台となった大津市では、すでに大きな盛り上がりをみせています」とか「中には県外から訪れた人のメッセージも多くありました。」といった話も出ていることから、すでに成瀬シリーズの地元への成果が形となって現れつつあると言って良いかもしれません。
一方産経新聞では、地元書店を取材し「ハリポタ以来の売れ行き」との声を報道していました。
以上が現時点で表に出てきている「ご当地小説」に関係する動きです。
さて、今後本作はコミカライズが決定しており、さらにシリーズ3作目の執筆も作者自ら宣言しています。そこで一旦お休みを入れるそうですが、当分快進撃は続くことが期待できそうです。コミカライズの出来次第ではシリーズ累計発行部数100万部にも届くはず。この上、映像化しようものならさらに数倍の発行部数になってもおかしくありません。特に今回は自治体が目をつけているわけですから、映像化の話が出れば非常に前のめりに進むことでしょう。実現する見込みは十分あると私は考えています。
ここまでの成功を見せつけられれば、当然2匹目、3匹目のドジョウを狙うのが世の常です。そしてその成功要因に「ご当地」が含まれるかどうか。
もし含まれると出版社が判断したならば、間違いなく「ご当地小説」のジャンルに追い風が吹くはずです。今までいくつか局所的な追い風が断続的に吹いていたとは思いますが、今回はその比ではないでしょう。
そしてその風が巻き起こったとき、私が運営しているご当地小説・エッセイ投稿サイト『ロケブン』もその風に乗れるよう今のアルファ版から先に進めておかねばならないと思うのでした。
ちなみに、なぜアルファ版から先に進まず停滞しているのかといえば、単純にご当地をテーマにした小説が思うように集まらなかったこと、なぜかご当地と全く関係のない小説を投稿される方が数名いらっしゃることが理由です。
前者についてはご当地小説そのものが思ったより一般に浸透していないのでそこをどう拡げるか、後者については無碍にもできないのでどう着地させるかといったところが悩みの種となっております。
何か良いアイデアがある方がいらっしゃいましたら、お気軽にお声がけください。
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