サイコで最高に悪い子

朽ちたビル群が墓碑の様に立つ埃っぽい廃墟の街の一角。殆ど建物として機能していないコンクリートの欠けた、部屋だったであろう無機質な場所に二つ影が見える。
一つは大柄な男の影。もう一つは小さな影。鍛えぬかれた腹部に股がる小さな影は男の口に何かを突っ込んでいるようだ。
「そんな顔してもダメだよ。僕はお兄さんを殺さなきゃいけないの。僕と初めて会った時は大口開けて大きな声で笑ってくれたじゃない。ね?笑って?怖くないよ。脳天を一発で撃ち抜けば痛くないの。だから、安心してよ。見せたでしょ?他のお兄さん達を一発で殺した僕の腕。あっという間過ぎて『これは悪夢だ』なんて言って褒めてくれたじゃない。ほら僕も笑って上げるから笑おうよ。」
大男は鼻水と涙と唾液で顔面をぐちゃぐちゃにし、恐怖で歯をガタガタ震わせ口に突っ込まれた大口径のハンドガンをカタカタ言わせている。小さな影は茶髪でプルシアンブルーの瞳をしたモスグリーンの首輪を付けたYシャツにサスペンダーで黒の短パンの白のソックスをソックスガーターで止めている。小学生かそれよりもっと幼く見える少年だ。目を細め、ニコニコとどこか冷たさを感じる微笑みで両手で構えていた拳銃から左手を離し、大男をあやす様に顎を撫でる。
「ヒャスケテ…ヒャスケテフヘ…!」
心底怯えきった震えて聞き取りづらい情けない命乞いをするが少年はゆっくりと口端を上げて憐れむ様に笑うだけだ。
「助けないよ。僕は悪い子だから。笑ってくれないならもう良いよ。バイバイ。お兄さん。」
瞼を完全に閉じ、ニッコリと笑うと容赦なく引き金を引く。鋭い銃声が静寂の廃墟を貫いて木霊する。
「フフッ、怯える大人ってどうしてこうも面白いんだろう。素敵な顔で死んでる。この顔を見るとつくづく僕は悪い子だって認識できるね。ウフフっ。」
銃を口から引き抜き胸ポケットからハンカチを取り出し、唾液を拭いて腰のホルスターにしまう。上体を動かない大男の胸板にくっ付け、恐怖で固まった脳漿と鮮血濡れの無惨な顔を両手で挟んで顔を近付け愛でる。
「キスしてあげたいけれどダメ。僕の唇は家族のものだから。ウフフっ。さてと、本当にバイバイの時間だよ。僕はいーっぱいやる事あるからね。さよなら。」
唇に人差し指と中指をつけ、その手でキス代わりにと額に触れる。そして、大男の顔付近の地面に両手を付け、腕の力だけで軽やかに飛び退く。
大きく満足げに伸びをして歌を歌いながら元気良く歩き出す。
「今度の人間はーどんな顔をしてくれるのかなー?フフフン♪この僕ー悪い子と書いてー殺戮者と読むーフゥのー素敵で!とっても!とっても!えらーい目的をー満たしてくれるかなー?『裏社会で穢れた家族達よりも悪事を働いてその罪を鮮血で上塗りする。そして、戦う為だけに育てられて笑顔を忘れてしまった家族の分まで笑う。』出来てるかなー。出来てるよねー。褒められなくてもいいのー。僕が家族の為にー最良だとー思ったー罪の償い方ー。人間は比べる対象がいれば比べてくれるー。僕がー畏怖の対象になればー家族のー気持ちはー晴れ晴れするのー!『あ、なんだ。我々より、悪い奴がいる!この程度の罪で苦しまなくて良いのか!フゥ君!ありがとう!』ウフフン♪素敵なーショター!素敵なー男の子ー!素敵なー弟ー!理想的ではないけれどー。唯一無二のー弟だよー!」
これは裏社会で一部が語る子供の皮を被った実在する化け物のお話。

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