贔屓が退団するらしい

ついに、この日が来てしまった。


早く知りたい気持ちと、知りたくない気持ちがせめぎ合い、休憩時間あと10分のところで耐えきれずに公式サイトにアクセスした。
そして、我が目を疑った。

現役で、1番好きなタカラジェンヌの名前がそこに並んでいたからだ。

信じられなかった。
心拍数が一気に上がっていく。
一度画面を閉じ、再びアクセス。
当然、何度見ても結果は同じだった。

愛してやまない贔屓が、退団する。

理解が追いついた瞬間、涙が込み上げてきた。そのまま職場を飛び出し、非常階段で声を殺して号泣した。


元々涙もろくて、あまりよく知らない人でも退団や組替えで泣いていたくらいなので、本気の贔屓が退団する時にはどうなることかと少々怯えていたが、さすがにまだもう少し先だろうと高を括っていた。

何せ贔屓は今年新人公演を卒業したばかりの研8。男役10年と言われる宝塚の世界で、さあこれからどんなふうに熟していくのかと期待される時期だ。しかも先の全国ツアー公演で、歴代の路線男役が選ばれてきた、主役の従僕を見事に演じ、その絶妙なチャラさと危険な魅力を存分に見せつけたばかり。ショーでも実質4番手の立ち位置とかなりの躍進ぶりで、人柄を紹介するオリジナル番組にも出演しており、ようやく注目される時代が来たかとわくわくしていた矢先の発表だった。

いつか来るとは思っていたが、まだまだこれからだから大丈夫だろうと完全に油断していたところに、ウルトラスーパーエクストラ特大メガストレートパンチがクリティカルヒットである。

その後1週間ほど、思い出しただけでものすごい喪失感に襲われて涙が止まらず、毎日のように入り浸っていたSNSを開けなくなった。いつでも見られるようにと、スマホのホーム画面にピン止めしていたプロフィール写真のページさえ、その可愛い笑顔に元気をもらっていたはずが、寂しくなるのがつらくて削除してしまった。

正直、これほどつらいとは思っていなかった。
そして、こんなにショックを受けるほど、贔屓のことを好いていた自覚がなかった。
しばらく縁がないし、大変おこがましいので大きな声では言えないが、落ち込み方が失恋した時のそれなのだ。こんなことなら、もっと好きだと言えばよかったと。


記憶がある限り15年ほどのオタク生活史上、最も落ち込んだと言っても過言ではないこの1週間、いろんな考えが浮かんでは消えていった。

もっと早くに出会えていればよかった。
悩んでいないで、さっさとファンクラブに入ればよかった。
もっと見に行けばよかった。
もっとグッズを買えばよかった。
これからいろんなスチール写真が見られるのを楽しみにしていたのに。
まだこれからという時なのに早すぎるのでは。
新人公演に主演できていたら違ったかもしれない。
あんなに魅力的な人をなぜ売ってくれなかったのか。
退団後の進路はどうなるのか。

中でも特につらかったのは、残る下級生に複雑な感情を抱いてしまうことだった。
この人がいなければもしかしたら、という思いがどうしても出てきてしまい、そのたびに、応援しているはずの人にそんな醜い気持ちを向けてしまう自分が、ものすごく嫌になった。
組全体を箱推ししているつもりだったが、結局は贔屓がいたから好きになれた人ばかりだったようだ。


散々泣いて、落ち込んで、1人では抱えきれず、SNSで出会った先輩ファンにたくさん話を聞いてもらい、ようやく少しだけ心の整理がついてこのnoteを書けるようになった頃には、既に発表から10日近くが経過していた。


どれだけ嘆こうが泣こうが騒ごうが、贔屓が卒業する事実は絶対に変わらない。
ならばいつまでも落ち込んでいないで、最後まで1ファンとして応援する方が、後悔しないのではないか。

気が狂うほど病みまくった結果、シンプルな答えに落ち着いた。


考えれば、有限で儚い男役人生、たった1年でも好きになって応援できたことは奇跡に近い。在団中に間に合わず、もう一生男役として生で拝むことができない人を何人も知っているから、間に合っているだけで超ラッキーなのだ。

それに、寂しい、悲しい、受け入れられない、もっと見たかったのにまだ早い、そんなものは全部オタクの傲慢で、本来知りえなかった彼女の人生を、宝塚の舞台という形で特別に見せてもらっていただけの話。むしろ8年も続けてきてくれてありがとうという気持ちである。これは社会人になってからより強く感じるようになった。
彼女の人生は彼女が決めるものだ。私は彼女が好きだからこそ、彼女の選択を尊重したいし、彼女が決めた道ならば、無関係の我々ファンが口を出せることではないので、ただ幸せを願うことに徹するしかない。

どんな選択であろうと、よほどそれが外道でない限り私は彼女の味方であり続けたいし、胸を張って応援できるファンでありたい。
そして、自信を持って、応援している人ですと胸を張れる方でいてくれる彼女を誇らしく思う。


透き通っていて、伸びやかで、芯のある歌声。
大きく、しなやかなキレのあるダンス。
周りから一拍遅れて見えるほど滞空時間が長い、美しいジャンプ。
綺麗な瞳に、愛くるしいクシャ笑顔、振り回されてあたふたする困り顔、キス直前の色気満載の笑み。
長くて細い手足。
演じる役柄や、相手役に対する姿勢。

好きなところを挙げればキリがないくらい、全部可愛いしかっこいいし、尊敬できるし、一挙手一投足が愛おしくて仕方ない。
たった1年だけれど、夢中になって応援して、卒業が惜しくてたまらないと思えるまでに素敵な人に出会えた私は、とても幸せだ。


聖海由侑さんへ。
生まれてきてくれて、タカラジェンヌになってくれてありがとう。
大好きな貴方の男役人生、最後までついていきます。



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