おこさまランチの思い出

私は身長が高い方です。特に幼少期は群を抜いて大きく、体格も立派だったため、実年齢より5歳くらい上に見られることもしばしば(幼稚園児だったのに小学校高学年だと思われたり)。そんな大柄な幼稚園時代、その後の人生で今も忘れられない出来事が起こります。

家族でファミリーレストランへ出かけた時のこと。当時の私は、おこさま用のメニューを見るのが好きでした。通常メニューより軽くて小ぶりで、絵本のような装丁。なにより目当ては「おこさまランチ」。大人ぶってメニューをめくってみたところで、頼むものは決まっているのに。だけどその、一連の動作が好きでした。

席へと案内され、私はいつも通りあのワクワクするメニューを待っていました。そして店員さんが有無を言わさず手渡してきたのは、通常メニューでした。ん?一瞬、何が起こったかわからないけれど、すぐに理解します。今日もおこさまメニューを見せてもらえると信じて疑わなかったのに、何も聞かれず通常メニューを私は渡された。

そうなると幼稚園児の自意識過剰は重い。「私は幼稚園児です!おこさまメニューが見たいのです!」という気持ちなのに、そんなことは言えない。親にも言えない、なんか恥ずかしい。何より目の前には、おこさまメニューを渡されている屈託のない弟(今でこそ180cmクラスの大の大人ですが、当時は当然おこさまらしいおこさまでした)がいる。お姉ちゃんはもう、おこさまメニューを渡してもらえないのにワガママ言うの?みたいに思われるのではないか…(幼稚園児なんだから素直に幼稚園児ぶればいいのに)。

その日から、私はおこさまメニューを渡されない幼稚園児になりました。確かに、園服を着ていない限りは小学校高学年にも見えたので、仕方ないことです。ただ幼心には「なんで店員さんは、私がおこさまメニュー見ないだろうって決めつけてきたんだろう?」という、客観的な視点を欠いた、極めて幼児の自己中心的悲しみも抱きました。自分はいたいけのない幼稚園児という自我のため、幼稚園児がおこさまメニューを問答無用で渡してもらえなかった、という現実にパニックになったのです……すごい大袈裟ですけど。

今でもおこさまランチを見ると、この出来事を思い出します。おこさまメニューに想いを残してしまったまま、自分から離れたわけではない……「今、大人も注文可能なおこさまランチを頼んでその想いを成仏させれば良いのでは?」というのとは、違う。これはもう、タイムリープしたりやり直しの時のカケラを繋いだりして解決するようなものではなく、過去の一点で私の心に生まれて消えることのない記憶であり事実。そしてもし、この出来事と寄り添いながら良い未来を紡ぐならば……とずっと考えてきたのは、自分にもし子供が生まれたら「おこさまメニューを卒業したい時はちゃんと確認するから教えてね」ということでした。