爆音でかかり続けるよヒット曲#13『アルバム再現ライブが流行った理由』(ハシノイチロウ)

LL教室のハシノです。
90年代が始まったのがもう30年前っていう事実をまだ受け入れきれていません。しかし、世の中的には90年代が回顧の対象となって久しいわけで、自分が10代の頃にリアルタイムで見聞きしたものが、どんどん一周して再評価されてくるのは、なんだか不思議な気持ち。自分も年をとったなって思い知らされます。再評価といえば、数年前から「アルバム再現ライブ」というものが行われるようになってるのをご存じでしょうか。今日は「アルバム再現ライブ」が流行った背景について考えてみようと思ってます。

通常、バンドのライブって、代表曲と新曲と盛り上げ曲なんかを
バランスよく配分したライブ用のセットリストを組んで行うものでしょう。
 ところが「アルバム再現ライブ」はそうではなく、そのバンドが過去にリリースしたある特定のアルバムを曲順通りに演奏していくというもの。
たとえばビーチボーイズのブライアン・ウィルソンが、名盤「ペット・サウンズ」の再現ライブをやったり、井上陽水が70年代の「氷の世界」の再現ライブをやったり、そこまでの大御所じゃなくてもくるりやクラムボンといった人たちもアルバム再現ライブをやっている。
たしかにアルバム再現ライブっていうのは、ファンにとってはうれしいもの。
 
歴史に残る大名盤って、曲順も含めてファンにとっては思い入れがあるわけで。「前の曲が終わった余韻を突き破るように次の曲のリフが鳴り響く!鳥肌!」みたいな気持ちは、ロックファンの多くが味わったことがあるでしょう。その曲順通りにやってくれるという特別感。

それに、普段のライブではまずやってくれないような通好みの曲も披露することになる。曲によっては、アルバム再現ライブではじめてライブ演奏したっていうケースもあるだろう。
 
バンドの側にとっても、ライブとアルバムは別物っていう頭があるから、アルバムを曲順通りに演奏するっていうのは案外不安なもので、だからこそ新しいチャレンジになりうると思う。ちょっとライブ活動がマンネリ気味になっていたとしたら、いいスパイスになるだろう。
 
と、まあ、アルバム再現ライブっていうのはファンにもバンドにもいいことずくめのポジティブな企画なんだと思われる。しかし、ちょっと意地悪な見方をすると、ここまでブームになったのはもっと他の理由があるんじゃないかとにらんでいます。
 
そもそもアルバム再現ライブをやるようなバンドって、だいたい活動歴が20年やそれ以上といったベテランたち。そして正直、売上やクリエイティビティやシーンへの影響力については、再現ライブの対象になる過去のアルバムの時点がピークっていうパターンが多い。
 
ファンは正直あの頃のすごかった姿をいまも求めてくる。しかしバンドの側はそれ以降も新譜をリリースし続けていて、常に新しい曲を聴いてほしいと思っている。ニューアルバムをひっさげてのツアーとなると、セットリストは当然新曲が中心で、ファンが求める往年の曲は多くて数曲とか。
 
そりゃあバンドの側もファンが何を求めているかは当然わかっているんだけど、ビジネスモデルとしては新譜を売りたいので、そっちのアピールに力を入れるのは仕方がない。心あるファンもそこは酌むので、「新曲とかいらないし昔のあれやってくれ」なんてホンネはファン同士でしか吐かないし、新曲中心のライブにもちゃんと通ってくれる。
 
この構図。大好きなバンドを持続可能なビジネスモデルたらしめるための、美しきお約束。今もこの世界中いたるところで、この構図でベテランバンドと年季の入ったファンたちがステージの上と下で向かい合ってる。
 
アルバム再現ライブというのは、そのお約束を合法的に破っていいという魔法なんだよね。ファンは堂々と一番好きだった頃の曲にひたることができるし、バンドの側だって、常に新曲でアップデートし続けなければならないというプレッシャーから束の間だけ開放される。
 
ほら、人間って大義名分を与えられたら何でもやれちゃう生き物じゃないですか。後ろ向きな姿勢に見えるけど、正直そういう面は絶対あるとにらんでます。そんなふうに思っているので、いろんなバンドがアルバム再現ライブをやるって言い出してる現状はちょっと複雑な気分。
 
とか偉そうなこと言ってますが、大好きなバンドが大好きなアルバムを再現するよってニュースが飛び込んできたらおそらく普通に大はしゃぎすると思います。ユニコーンが「ケダモノの嵐」を!とか、ストーンローゼズが1stを!とか、レッチリが「ブラッド・シュガー~」を!とか発表されたら正気でいられる自信がないっす。

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