BACKGROUND IMAGE of BGM:杉山至×三浦直之
2015年に上演された『ハンサムな大悟』から今回の『BGM』に至るまで、ロロが近年つくってきた作品の美術はどれも舞台美術家の杉山至が手がけている。さまざまな劇団の美術を手がけている杉山の目に、ロロはどう映っているのだろうか? 三浦と杉山の対談から少しずつ見えてきた、歩くこと、美術のこと、ロロのこと。※一部、『BGM』の内容に触れる部分がございます。ご注意ください。(写真:三上ナツコ/構成:もてスリム)
歩くことから立ち上がるもの
三浦:今年の8月に城崎アートセンターで至さんと一緒にワークショップをした「セノグラフィーフォーラム」でもそうでしたけど、至さんって色々な場所の土地を歩いて色々なものを受け取ってくるじゃないですか。それはいつ頃からなんですか?
杉山:元々考古学が大好きで。小学生の頃、マチュ・ピチュを発見したハイラム・ビンガムの本とかトロイアの遺跡を発見したハインリヒ・シュリーマンの本がすごく好きだったんですよ。遺跡はいまだに好きだし、城マニアってほどじゃないけど城も好きだし。
三浦:昔から色々なところ行くのが好きだったんですか?
杉山:どうだろうね。でも、子どもの頃の遊びが色々歩き回ることだったから。今回、ロロの稽古中に自分の原風景を書いて物語にするっていうワークショップをしてたけど、それも面白かったよね。(島田)桃子ちゃんの場合は海に流されたサンダルだったり、三浦くんのは峠を越えるナイトドライブだったり。僕もいまだに覚えてる風景があって。僕の場合は子どもの頃がちょうど1960年代の高度経済成長期で、山が削られて宅地造成が進んでいくんだけど、まだ家が建ってない空き地が遺跡みたいだなと。そこで遊ぶのが大好きで、誰も住んでないけどちょっと古びてて埃っぽくて、そこに忍び込んだりして。そういう考古学的なものが好きだったってこともあって、今でも歩くのは好きですね。
三浦:至さんと歩くと面白いんですよね。
杉山:建築も好きだから、ヨーロッパ行くと歩き回るんですよ。たまに「杉山と歩くヨーロッパ建築ツアー」みたいなのを青年団でやったりするんですけど。外国に行くと歩き回るようにしていて、道って線なんだけど、歩いてるうちに何回も何回も歩くとやっと面になってくるって感じがある。そうすると迷子にならない。
三浦:城崎でも、尺貫法に基づいて歩きながら体で空間のスケールを測るっていう丸山欣也さんのワークショップがありましたね。身体感覚でスケールを測るっていうのはすごい面白いですよね。
『ハンサムな大悟』(2015年)
ロロの美術のつくり方
三浦:最初に至さんに美術をお願いしたのは『ロミオとジュリエットのこどもたち』(以下『ロミジュリ』)でしたね。ずっと至さんの舞台美術が好きでいつかお願いしたいと思ってたんですけど、なかなか予算的にお願いできなくて。このときは予算に余裕があったから声をかけられたんです。
杉山:それまでロロを観たことなかったんだよね。名前は知ってたんですけど。『ロミジュリ』のときはボックスのユニットを積み上げていって、それで色々空間をつくりたいという話になって。そういう、細かいパーツを組み合わせていくようなアイデアはいまのロロにも繋がってる気がする。今回のイメージもそこに繋がってるところがすごくあるかもね。
三浦:『ロミジュリ』の頃の印象とかって覚えてますか?
杉山:覚えてますよ。今回もそうだけど(笑)、台本ができてなくて口立てでつくってたこととか。でも、非常に面白いのはストーリーの展開が読めないところかな。毎回「どうなっちゃうんだろう?」って。そこが面白いですよね。ストーリーの発想はどこから出てくるの?
三浦:最近の公演ではトータルで物語を立ち上げたいっていう意識があるんです。まず空間があって、空間が動くとこういうふうに見える、するとこういうシーンが生まれる、するとこういう言葉が出てくるみたいな。だから至さんと話して空間が決まってくるとどんどん物語が見えてくるんですよ。『ハンサムな大悟』のときもこういう話にしたいって伝えるとこういう美術はどう?って至さんが言ってくれて、俺がそれで遊ぶ感じでつくっていくようになりましたね。至さんは美術を考えるときってどう進めてるんですか? アイデアのストックがあってそれを組み合わせたりするんですか?
杉山:いや、考えても忘れちゃうんだよね。だから常に新しく発明してるって自分では思ってる(笑)。それに作家によってつくり方も千差万別で、人によってつくり方も変わるからね。
『あなたがいなかった頃の物語と、いなくなってからの物語』(2016年)
ロロには「場」がない
三浦:そもそも至さんの美術を最初に知ったのはサンプルだったんです。サンプルの作品は俳優とか空間が境目なくグチャグチャ混ざって動いてて、全体が生物みたいに感じられるのがすごい好きでした。その美術を至さんがつくっていることを知って、元々空間と物語をもっと混ぜてつくりたいなって思ってたから、それで至さんに美術をお願いして。
杉山:サンプルが面白かったのは、松井(周)くんが青年団から出てきているから現代口語演劇的な会話劇なのかと思ったらちょっと変態チックだったことで。しかも変態チックなだけかと思ったらそういうことでもないってことがわかってきた。あるとき空間をつくってみたら作品と合わなくて、構造をなくした方がいいねって話になった。松井くんの作品は骨格がない軟体動物みたいで、空間を構築していくんじゃなくて溶け合うことを意識すると作品の世界と合うというのが面白かった。
三浦:ロロはどうですか?
杉山:僕はまだロロは実験中だから、すごく面白いんだよね。最近思ったのは、三浦くんの世界には「場」がないということ。だから逆に言うとすごく遠くまで飛べる。連想ゲームみたいに物語が進んでいくんだけど、空間もそれに伴って変容していくから。場がないんだけど、場を設定するとフニャッと溶けちゃう。それと三浦くんはモノが来てから考え方が変わるっていうのが面白い。
三浦:至さんってどんな話題を投げても面白がって打ち返してくれますよね。至さんと打ち合わせするときはなるべくこんな面白いことがあったんですってものをたくさん持っていくようにしていて。そうすると至さんが返してくれるから(笑)。それが楽しい。だから作品の構想の前段階から話して色々打ち返してもらってますよね。
杉山:ダンスの人だとたまにモノがないと動きがつくれないって人はいるけどね。演劇の場合ストーリーがあって場所が設定されているから。モノがあるとどんどん発想が広がっていくっていうのはダンスっぽいよね。
三浦:ダンスっぽいというのは他の人からも言われたことがあって。この前KAATで『不思議の国のアリス』をやったときも、つくり方がダンスに近い気がするからダンサーと一緒にやってみない?って声をかけてくれたんです。
『BGM』(2017年)
『BGM』の美術は「ロロ」でもある
三浦:今回は二転三転しましたけど、「コーネルの箱」みたいな額縁みたいな棚が背景、というか、BGMになっていきましたね。ストリングスカーテンも、歩くって行為が線とか記憶を意味してるとしたらそれが重なっていって面になるっていうのが今回のモチーフと繋がってるかなと。それもカーテンが入ってから気づいたんですけど。
杉山:箱ばっか置いてあるボックス舞台って空間をつくるのは便利なんだけど、それだとあまり見えてくるものがない。だから避けてはいるやり方なんだけど、ボックス自体もデザインによっては見え方が変わるはずだから、今回はそれを逆手にとったというか。額縁も棚も一緒といえば一緒で、大きい額縁をもっと引きで見れば棚になってくるよね。今回ワークショップでチャールズ・イームズの『Powers of Ten』をみんなで観たけど、あれも倍率がどんどん変わっていくじゃない? 最近思ったんだけど、それって「ロロ」だなと。四角だし、口(くち)がふたつでもロロってなってるし。
三浦:ロロは名前を見たとき記号的に人の頭の中に入るのがいいから、四角ふたつにしようというのがあって。だからカタカナで「ロロ」にしようってなったんですよね。
杉山:やっぱ「ロロ」の面白さっていうのは大きく捉えればフレームになるし、小さく捉えれば棚にもなるっていうところで。そういうのは三浦くんの中にも連なってる感じがあるんだよね。
三浦:シームレスに繋がっていく感じは確かにあるかもしれないですね。
杉山:この間品川に行ったとき思ったんだけど、品川って口が3つで品なんですよね。スリーボックス、スリーライン。だから、ロロと今度品川でなんかできたらいいよね(笑)
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