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【泣くロミオと怒るジュリエット】オールメールで強調された、笑いあり涙ありの人情「悲劇」

2月9日(日)にシアターコクーンにて「泣くロミオと怒るジュリエット」を観劇。私としたことが、今回チラシなり何なりの事前告知を完全に見落としていて、先行も一般も全部終わってから「やばい、これ見たい!」となり調べたところ立ち見席が空いており、ぼっち観劇だし全然OKと即購入。行ってきた。

結論から言うと、最高に面白い(恋愛悲劇なのに)。そして、最高に感動した(恋愛悲劇なので)。演劇好きの方、これは観に行くべし、と思う。検討中の方、参考にしてくださいませ。


【シアターコクーン】立ち見席って見えるの? その疑問、お答えします。**

渋谷の東急Bunkamuraの裏(別館的な?)にあるシアターコクーンは、私の好きな劇場の1つ。劇場としては中〜大くらいの大きさなのだと思う。席は、一階、中二階(サイドのみ)、二階(正面とサイド)とある。

私が今回観劇した立ち見席は、中二階のサイド席の後ろにある中二階立ち見席(定価3,500円前後)。結論から言うと、立ってるのさえ辛くなければ、舞台はかなり良く見える。シアターコクーンは、客席の通路を使った演出も多い印象だが、客席を横から見る形になるので、この演出もすごく良く見える。二階の正面席も座った事があるが、もしかしたら客席を走るキャストの様子は二階の正面席より中二階のサイドの方が良く見えるかもしれない。

ちなみに、中二階のもう1つ上の二回席にもサイド席と立ち見席があって、ここに入った事もあるのだが(こちらは定価2,500円前後とさらにお手頃)、二階席の立ち見席は中二階と比べて舞台が遠いし、袖側が隠れてしまってかなり見にくい。何が言いたいって、どうしてもちょっと見てみたい劇がある、でも今そんなに投資できない・・・という方、立ってても良いなら中二階の立ち見席は結構おすすめ。


一度観てみたかった鄭義信の舞台

演出の鄭義信氏は、2018年に映画「焼肉ドラゴン」を見てから、ずっと気になっていた。コメディだけど登場人物の人柄や関係が出る軽妙なセリフの掛け合いや骨太な人情劇としてのストーリーは映画にしても健在で、「焼肉ドラゴン」も元々は舞台だった事、鄭義信がそもそも演劇の演出家だと知り、ずっと観に行きたいと頭の片隅にあったのだ。

しかし、ちょうど映画がやっていた時期に上演していた「密やかな結晶」は、タイミングが合わずで観れず。(WOWOWでも見逃してしまって結局まだ映像も観れていない。)遅ればせながらようやく観られたのが、今回の「泣くロミオと怒るジュリエット」だった。

有名なシェイクスピア悲劇のロミジュリの2家の対立を、戦後の大阪の愚連隊の対立にするという、世界的名作を自分の土俵に引き込んでしまう大胆な構想は、聞いただけで「絶対おもろいやん!(悲劇だけど)」と思わせる引きがあった。今「おもしろそう!(悲劇だけど)」と思ったあなた。前売りの立見券や当日券はまだ全然買えるはず!宜しければトライしてみてください。


オールメール(全員男性)演出の妙

さて、ようやく肝心の中身について。今回の肝は、オールメール&関西弁演出だという事。オールメール(全員男性)演出にした理由を鄭氏は「蜷川幸雄氏に敬意を表して」と述べているが、そのキャスティングが柄本時生ジュリエットというところが鄭流。(蜷川氏のオールメールのシェイクスピアは女形は基本的に「美形の女形」が多い。※トキオくんの悪口ではありません。あくまで一般論です。)今回のキャスティングと前述の設定(戦後の大阪の湊町)を見ただけで、「これは見るしかないやつや」と思った鄭ファンは多いのではないだろうか。

私自身は蜷川演出も観たことがなかったので、初めてのオールメールシェイクスピア。設定が変えられている上に男性を女性が演じたら、要素が増えて見るのが大変なのでは、一体どうなるのだろうと思ったのだが、逆だった。オールメールにすることで、男性が完全に女性になることはできない分、登場人物の心情表現に力が入っていて、ダイレクトに伝わってくる気がした。戦後の湊町という混沌とした場所で、今ロミオが何を感じているか、ジュリエットがどう思っているか、他の登場人物の心情まで全て、つまびらかにされていた。


役者陣の健闘:歌ありダンスあり大阪のおばちゃんあり

今回の上演、言うまでもなく一癖も二癖もある役者陣の健闘も見所。
まず設定として、舞台が大阪の湊町に変わるにあたって、原作と違う人物設定がされている。桐山ロミオは吃音を持っている少し内気で情けないところのある若者に、一方で時生ジュリエットは気は強いが悪い男に何度も騙されてきた過去がある娘に。ジュリエットの兄のティボルト(高橋努)は戦争帰りで片足が義足だし、ローレンス(段田安則)は神父ではなく、元軍医らしき漢方薬屋だ。

全編を通して、ネガティブな桐山ロミオと怒りっぽい時生ジュリエットはコメディタッチでシュールだけど真剣な愛を語り続けるし、もう一人の女形の八嶋智人は新喜劇を見すぎている大阪のおばちゃんにしか見えない。ロミオと友人のマキューシオ(元木聖也)とベンヴォーリオ(橋本淳)の3人は息の合った歌とダンスを披露するなど、少しシリアスなシーンはあっても、明るい演出が続いて、一幕は決闘のシーンの手前まで、ほとんどクスクス笑いが客席から聞こえ続ける。二幕になっても役者陣全員で全力で笑かしにかかってくるのだが、真剣なシーンになると急に客席からすすり泣きが聞こえるほどの感動的な熱演になる。

主役二人と八嶋さん始めとするベテラン陣はもちろんだが、ロミオとの友情を背負ったマキューシオとベンヴォーリオを演じる元木聖也と橋本淳の熱演にもやられた。特に橋本淳の演じるベンヴォーリオとロミオの終盤のシーンは、生で観るしかない鬼気迫るやりとりになっていて、一秒たりとも見逃したくない聞き逃したくないと食い入るように見つめてしまった。宮本亜門やケラリーノ・サンドロヴィッチの舞台にも呼ばれていると知り、さらに彼の出演舞台を観に行きたくなった。


最後は悲劇だけど笑って泣ける人情劇にしてしまう鄭演出

今回、主演がジャニーズWESTの桐山照史という事もあってか、客席はかなり若い女性が多く(※私もジャニオタですが、もっともっと若い高校生の女の子もチラホラいたのです)桐山くん目当てなのかな、と思う方も多かったが、関西弁でそこかしこに散りばめられた笑いのエッセンスと分かりやすいストーリー運びに、最初から最後まで客席からは笑い声とすすり泣く声が聞こえ続けていた。
(一点、途中のロベルトとその手下が出てくるシーンで吉本新喜劇のネタが使われていたのだが、東京の観客に伝わっていなかった・・・。鄭さん、知ってる人は知っていますので、やめないでください。)
世界的に有名な恋愛悲劇を、戦後の混沌とした社会に置き換える事で、人々の希望と鬱憤を取り込み、悲劇というより人情劇にしてしまっているあたり、まさに鄭流だと感じた。

最後に、ラストの演出について。
今回のストーリー、設定が大きく変わっている事以外は、ほぼロミオとジュリエットなのだが、ラストの演出だけ、ロミジュリともウエストサイドとも違っていた。調べたところ、蜷川幸雄演出のロミオとジュリエット(2014)のラストに少し似ているのだろうか(恐らく全く同じではないし、蜷川演出を観られた方の記事を読む限り、鄭演出の方が救いがある気がする)。賛否両論あるかもしれないが、私はあのラストについて、美しい演出も含めて原作より近現代らしくて好きだった。降ってきた紙吹雪が祝福にも凶行にも取れるところに、破裂音が、ある国では花火やクラッカーのような祝砲に聞こえ、別の国では発砲音に聞こえるような、ちぐはぐな世界の真理を表している気がした。
そこまで言っておいて・・・という感じではあるが、まだ上演期間中で、ネタバレにもなってしまうので詳細気になる人はぜひ劇場で観ていただければと思う。

「泣くロミオと怒るジュリエット」は、2月8日〜3月4日まで渋谷のシアターコクーンで上演中。笑って泣ける人情劇のロミジュリ、ぜひ一人でも多くの人に観て欲しい。そして語りましょう。


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