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フェニックス都市圏がイノベーションと成長の拠点になった経緯

case | 事例

米アリゾナ州フェニックス都市圏西部の諸都市(ウエストバレー都市)は、フェニックス市内の3つのグリーンフィールドに650億ドル(約10兆円)以上を投資し工場を建設するTSMCをはじめ、大手企業から多額の投資を集めている。TSMC以外では、フェニックス西北部のピオリアではAmkor Technologyの20億ドルの先端パッケージング・テスト工場、フェニックス西部のバックアイではKORE Powerの8億5,000万ドルのバッテリーセル製造工場、同じく西部近郊のエル・ミラージュにはマイクロソフトの2億5,800万ドルのデータセンター用地取得などが挙げられる。これらの投資によって地域全体で数千人の雇用が創出され、この地域がイノベーションと経済発展の拠点へと変貌している。

ウェストバレー都市の変革は、地元のリーダーやコミュニティの協力によるところが大きい。従来は地域全体が農業エリアだったりリタイアメント先、退職者や低所得・低スキルの労働者が恩恵を受ける地域と認識されていたが、各市長やビジネス経営者たちは自らを改革し、様々な文化、開発、オープンスペース、ビジネスチャンスをバランスよく提供する能力を備える環境を育んできたウエストバレーの15のコミュニティからなる官民パートナーシップWESTMARCが地域戦略の推進役となり「ウエストバレー・パイプライン」という労働力開発戦略や、インキュベーターAZ TechCeleratorCanyon Ventures(グランドキャニオン大)、Peoria Forward(アリゾナ州立大)の設立に取り組んだことがベンチャー・スタートアップ企業を支援し、新規事業を誘致してきた。アリゾナ州立大のキャンパス拡張時に従来のリベラルアーツ色の強い大学から、ビジネススクール起業スクール学際カレッジ総合工学スクールなどの誘致・設立により変貌し、人材が集まり・輩出される重要な資源になった。また、エリア全体のインフラ、小児科や癌の研究・治療の病院などの医療への投資により、地域は住民と企業の双方にとってより魅力的な地域となっている。

将来の経済成長に関して、ウエストバレーの広大な空き地と強固な交通網も強みになっている。既存の州間高速道路、州道、環状線の他、今後の州間高速道路や州道への投資など交通網の整備計画があり、地域内外のアクセシビリティとコネクティビティの向上が想定されている。バックアイは特に鉄道物流の拠点でもあり、先端製造業、輸送、物流に携わる企業にとってのメリットが提供されている。ただ、ウエストバレーの変貌を真に後押ししてきたのは、「オープン・フォー・ビジネス」の姿勢であり、地域のリーダーたちが地域に対して抱いている情熱と、地域発展のために協力的に働こうとする意欲の結集であると言える。

insight | 知見

  • TSMCの熊本への投資は九州経済全体に影響を及ぼしています。今後も半導体関連企業の進出やその裾野産業の投資が進むものと考えられます。一方で、工場の稼働に伴う交通渋滞や、人口の急増に対するインフラや住居・教育・医療サービス能力の不足など課題も顕在化しています。

  • フェニックスの取り組みは九州や熊本にも参考になると思います。イノベーションを起こす環境づくり、高等教育機関の強化と人材の集積・輩出、医療機関・教育機関の充実、交通網や物流網の整備などについて、官民が連携した地域戦略として、地域全体で協力して進めていくことが重要になるのだと思います。