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英ブリストルはLTNの導入を計画中だが国内では激しい批判が起きている

case|事例

イギリスのいくつかの都市で、渋滞緩和に向けた取り組みとして、low-traffic neighborhood(LTN:低交通量地区)の導入を進めているが、ネットや一部のメディアで激しい批判が起きている。LTNは、住宅地内の街路に狭さくやハンプのような自動車の通行を抑制する対策を行うもので、一部では「運転手に対する戦争」とも呼ばれている。

国政選挙を控える英国議会で、野党である労働党は環境保護政策や自動車の利用に制約をかけるような施策を進めてきていたが、ロンドン市長が超低排出ゾーン(ULEZ)を急進的に拡大したことが原因で予備選に負けており、自動車利用の抑制や通行料課金のような政策は現在進めにくい状況にある。

また、LTN導入のネガティブな影響も指摘され始めている。例えば、ロンドン市のランベス自治区は、バスの遅れを原因としてLTNのひとつを解除している。頻繁に道路工事が続いたことが原因だと行政はコメントしているが自動車利用者以外へマイナスの影響が出てしまったことは事実である。オックスフォードシャー州議会の公開したレポートでは、オックスフォードで導入されたLTNでは緊急車両の到着が平均で45秒遅れたとの指摘がなされている。

完全に世論は、自動車利用の抑制に反対であるかのように思われるが、ガーディアンにリークされたレポートでは、LTN内の居住者は賛成の割合が反対の割合より2倍多いことを示している。レポートは、ロンドン、バーミンガム、ウィガン、ヨークを対象に、1,800人のサンプル調査を行っている。得られた回答のうち、賛成は45%、反対は21%だった。LTNをはじめ環境保護に寄った政策への批判は、しばし陰謀論と結び付けられてしまうが、事実やデータに基づく議論が必要だと言える。

ブリストル市は、パブリックコンサルテーションを経て、今年度LTNの導入を予定している。ブリストル市議会で交通政策を担当するアレクサンダー議員は、「市民対話での回答を現在分析中であるが、市民にとってデメリットよりメリットの方がはるかに大きいと我々は信じている。LTNは自動車の保有や利用を完全に排除するわけではなく、一部の街路で通過交通の排除や通行の抑制を行うもので、これまで自動車に供されていた空間をポケットパークや街路樹、自転車用のスペースなどに割り当て直していきたい。警察や消防など緊急車両への影響などは丁寧に対応する必要がある。」とコメントしている。

また、ブリストル市では、オンラインの市民参加プラットフォームを構築し、住民の体験を可視化し共有することを可能にしている。「共同発見」、「共同開発」、「共同デザイン」の3つのフェーズで市民との対話を進めながらLTNを導入したいと考えている。

insight|知見

  • 市民の生活に大きな影響が想定される政策の合意形成の難しさを示している記事だと思います。

  • 陰謀論と結びついてしまうような脈略もない批判や主観的な批判を切り分けて、データや証拠に基づいて対話しましょうということが記事の論旨のひとつかなと思いますが、その方法でも民主的な合意形成にはなかなか時間がかかるようにも思います。

  • トップダウンな意思決定がいいのか、啓蒙しながらのボトムアップの意思決定がいいのか、なかなか答えを出すのは難しいですね。