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15分都市:なぜ将来の都市計画において時間を唯一の要素にすべきでないのか?

case|事例

徒歩もしくは自転車で15分以内に生活に不可欠なサービスにアクセス可能にするという「15分都市」の概念が次第に都市計画分野に浸透してきている。15分都市が人気を集める理由のひとつに、この概念が交通や環境汚染、社会的孤独、生活の質などの都市における差し迫った課題に対して解決策を示すように思わせるという点が挙げられる。現在、世界人口の半分以上が都市に居住し、その数は年々増加しているため、上記のような都市の課題は今後ますます深刻になると懸念されている。

ローマ・ラ・サピエンツァ大学がローマ・ソニーコンピューターサイエンス研究所と共同で行った研究は、単に時間だけを評価要素とする15分都市の概念に対して疑問を投げかけている。彼らは、Nature Citiesに発表した論文で、世界の都市の実態が15分都市にどの程度近いのか定量的に評価する方法を提案している。また、その方法を世界の都市に適用し、教育や文化、医療、アウトドアアクティビティへのアクセシビリティを可視化するオープンアクセスプラットフォームを公開している。このプラットフォームでは都市内の地区の比較と異なる地域間の比較の両方が可能で、各サービスへのアクセシビリティへの格差が確認できる。

都市内の比較では、都市の中でサービスへのアクセシビリティの高いエリアは物価や生活コストが高く、居住地選択への不平等をもたらしていることが明らかとなる。一方、世界の都市間比較では、ウィーンやパリなどヨーロッパの都市でアクセシビリティが高い傾向がみられるのに対し、アメリカやアフリカ、アジアの一部では逆にアクセシビリティが低い傾向にあることが示されている。

また研究者らは、機能やサービスの再配置もしくは追加することによって、アクセシビリティを高め不平等を解消し得るのかどうかをシミュレーションによって検証している。結果として、15分都市の条件を満たすために追加すべきサービスの数は都市間で異なり、多くのケースによって15分都市の実現が難しいことが明らかとなった。このことから、都市の課題はより複雑で、同じ都市は二つとしてないという至極当たり前なことに気づかされる。彼らは、15分都市はあくまでも理念のひとつであり、都市をつくるには時間ベースの価値観だけでは不十分であり、人口密度や社会経済の要因、文化的な要素など価値ベースの価値観が必要であると結論付けている。

insight|知見

  • 学生のときにこんな研究をしたかったなと思わせる、めちゃくちゃ面白い研究です。また、公開されているプラットフォームも世界の主要都市が網羅されていて、訪れたことある都市を眺めていると時間を忘れてしまいます。

  • 15分都市が提示した考え方に異論は全くないですが、実際の都市に適用することを考えると、確かに、この記事で指摘されているように、インフラの整備状況や人口分布などが異なる都市を一律に時間だけを要素に評価して15分都市の理念を適用しようとするのはナンセンスで、生活習慣や文化などを考慮する必要があると思います。

  • 日本の地方都市の移動制約問題も、各生活サービスのアクセシビリティを評価して、きめ細やかに実態を評価しないと、適切な解決策が見いだせない気がします。フィーダー化はあくまで輸送の効率化の問題で合って、生活の質が向上するのかという点は別の評価軸の議論な気がしますよね。