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都市のスマートグロースで盲点になりがちな工業用地と雇用

case | 事例

(カナダ・メトロバンクーバーのシニア地域プランナーであるエリック・アダーネック氏の論考)
多くの都市にとって、市街地のスプロール化を抑制するスマート・グロース戦略を採用することは、比較的安価な工業用地を、商業と住宅が混在する再開発用地に転換することに関連付けられてきている。実はこの動きは都市の経済基盤を弱体化させ、良質な雇用を生み出す土地の供給を減らし、産業部門の郊外への拡散を助長しかねない。スマートな成長とは、あらゆる所得水準の家族のために住宅を建設すること同時に、あらゆる職種のためにスペースを確保することでもある。「住みやすい都市」のランキングでは「働きやすい都市」の視点が必要である。

住宅に連続性があり、都市に軸線があるように、産業にも軽工業から重工業、伝統的産業から近代的産業、アナログからデジタル、大規模用地型から施設集中型まで様々な形態があり、未来志向の経済であったとしても、都市にはある程度の工業用地は必要である。2011年に採択されたメトロバンクーバー地域成長戦略『メトロ2040』には、都市圏内の工業用地を指定し保全する政策が盛り込まれている。これは、工業用地が郊外型のオフィスや住宅地に用途転換され、地域経済のニーズを満たす工業用地が供給不足に場合に対応する考えから来ている。メトロ(都市圏)内各自治体にも理解され、産業用地の用途転換は大幅に減少した。メトロバンクーバーは2020年の「地域工業用地戦略」で最適化された交通システムに加えて、土地利用の最適化に資する産業用地の集約化と高層化・高密度化を進めている

スマート・グロースは、住宅、小売、レクリエーションに重点を置き、都市の住みやすさにとっての工業用地の重要性に目を向けてきていない。持続可能性を促進するためには、都市圏内の自治体が連携した計画と行動により、工業用地の保持と住宅の高密度化を同時に追求するべきだ。都市圏範囲で工業用地を保護するためのゾーニング、既存の住宅地や商業地の強化、工業の集約化と密集化の促進、交通の便を高め都市中心部への人流の誘導、商業地区や複合地区内への軽工業用地の導入など、職住近接とともに産業部門が労働力の近くで活動できる構造を維持するべきだ。


insight | 知見

  • 福岡はよく住みやすい都市だと言われ、そのようなランキングで上位になることがありますが、「働きやすい都市」かどうかという視点が加わると、課題を抱えていることがわかります。

  • ただ、都市単体で幅広い産業と雇用の基盤を保つことには限界があるので、記事のように都市圏全体で連携・役割分担をしながら工業を含む産業全体の空間を確保することが戦略的に重要だと思います。このような都市圏連携はメトロバンクーバーから学べることが多いのではないでしょうか。

  • 3Dプリンタなど技術の進歩により都心でもクリーンな製造業の立地が可能になるという主旨の記事が以前ありましたが、工業空間を都市圏自治体間で協調しながら集約化・高密度化することも重要な視点ですね。