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スマートグロースに対してTODがもたらす5つの価値

case|事例

アリゾナ大学の研究チームが、公共交通指向型開発(Transit Oriented Development:TOD)がどのように都市を変えていくかを長期にわたって検証したレポートを公開した。2007年から2009年までのリーマンショックに伴う大不況から2020年から2023年までのCOVID-19までを含む期間で、アメリカ国内のTOD事例を分析し、TODが雇用をどのように増加させ、世帯動態をいかに変え、通勤パタンや不動産価値、ジェントリフィケーションにどのような影響を与えるのかを分析している。レポートからは下記の5つの重要な示唆が得られる。

  1. 雇用の増加を引き起こす:公共交通結節点周辺のエリアは都市全体の中でわずか1%の面積割合であるのに対し、20%以上の雇用を抱える。LRTの停留所周辺に限ってみても、半径800m以内で延べ100万人が働いている。このことから公共交通結節点周辺は雇用を惹きつけることが示唆される。経済活動を集中させ、スプロールを抑制し、効率的な土地利用を導くために公共交通結節点周辺は戦略的に重要な位置であると言える。TODによってアクセシビリティを高めることで移動コストが削減でき、経済と環境とがwin-winの関係になる。

  2. 世帯構成を多様化する:TODによって、特に非白人や65歳以下の人口が増加がみられる。幅広い社会経済的な背景を反映した層が居住することによってより包括的なコミュニティが形成される。子育て世代や単身世帯を含む多様な世帯構成はコミュニティに活気をもたらし強靭さを増す

  3. 運転する機会を減らす駅の近くに住む世帯ほど、台キロで計測された自動車利用の実績が減少することが示されている。TODは自動車依存を減らすと共に環境負荷も小さくする。それ以外にも、渋滞が減り、大気質が改善され、安全でウォーカブルな環境が創出されるなどのメリットがある。

  4. 不動産価値を高める一方でジェントリフィケーションを起こす可能性がある:LRTや路面電車の停留所周辺に住む世帯の所得の中央値は、それ以外の地域よりも上昇が早い傾向にあり、ジェントリフィケーションの兆候が見られる。一方で、BRTの停留所周辺では同様の傾向はみられない。2023年のFoot Traffic Aheadでもウォーカブルな環境は不動産価値を高め、消費者もウォーカブルな環境への選好が強いことが示されている。不動産の価値が高まるというメリットの一方で、ジェントリフィケーションを抑制するためにアフォーダブル住宅の確保などの措置が必要となる。

  5. ジェントリフィケーションを緩和するために政策介入が必要となる:4.と関連するが、TODの開発が低所得者の移転を強いる可能性が指定されている。ジェントリフィケーションを起こさないためにも、アフォーダブル住宅の確保やコミュニティ土地信託などの政策介入が必要となる。

insight|知見

  • アメリカの都市と比較すると日本の都市の公共交通分担率は概して高く、公共交通の利用環境は日本の方がまだ良好です。(もちろん過疎地や小規模の都市の移動制約問題はありますが…)一方で、運転士不足や人口減少(?)によって、運賃の値上げや便数の削減が強いられ公共交通のサービスレベルは年々低下しています。

  • これまで日本の都市はあえてTODと言わずともTODのような開発がされ、コンパクトでそれなりに公共交通の利便性が高い環境が維持されてきましたが、将来に向けては、より戦略的に交通計画を含む都市計画を考えていかなければならないように思います。環境問題もさることながら所得格差に伴う移動制約などもこれからますます課題になるのではないかと思います。