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千歳くんはラムネ瓶のなか5 感想



「ーーー三秒数えてから力を抜き、軽く構えたバットを、身に馴染んだスイングで振り抜くーーー。」

  かしゅーんっ、きらきらきらきら。

「ーーー繊細で美しい音色を残して、山崎くんの部屋の窓が、薄く短い一生を終えるーーー。」
(千歳くんはラムネ瓶のなか 1巻114Pより)


はじめに。

こんにちは。初めましての方は初めましてでしょうか。水瑞(みずたま)です。Twitterでは、”なし(@L1yNa___)”と言う名前で活動をしていますが、物書きモードになる時にはこのハンドルネームを使用しています。よろしくお願い致します。

突然ですが、
「皆さんの好きな季節は何ですか?」
僕は冬でした。何故なら、いくら服を脱いでも夏は暑いままだけど、冬は何枚も着込めば寒さを凌げるから、です。とにかくアスファルトから出る、もうもうとした水蒸気が自分の体を蒸し尽くすような気がして、早く冬になればいいのに、とずっと考えていた記憶があります。
最近までは。

チラムネに出会ってから、僕の考えはまるでガラス窓を割ったかのように粉々に吹き飛ばされました。笑。
だって、そうじゃないですか。あんなにも、仲が良くて、無邪気で、可愛くて、眩しくて、切なくて。
「俺も、そう言う青春を謳歌したかった!」
「俺も、おっぱいの大きい美少女に囲まれて砂に埋もれてみたかった!」
「俺も、あの熱い季節のアツい行事に魂をかけていれば!」
俺も!と思った事が何度あったでしょう。
チラムネに出会ってからは、”夏”が恋しくなりました。夜にベランダに出ては、気持ち良いくらいのよそ風が頬を撫で、夏の夜独特の匂いを運んでくる。

「みなさんは、今年の夏を何色に染め上げたいですか?」
僕は、橙色に染めたいです。


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感想

「朔のことが好き、大好きです。」
「私を、あなたのトクベツにしてください。」

「わりぃ、夕湖の気持ちには応えられない。」


一章、二章、三章、は所々にいつもより少し本気な誘惑があったり、夕湖の独白があったものの、花火大会に行ったり、夏の勉強合宿に行ったり、その夜みんなでバーベキューをしたり、と彼らの青春物語が連なっていた訳ですが、四章から怒涛の急展開でしたね......。びっくりしました。
1年間夕湖がずっとしたためてきた朔への想いを言葉にして伝えた訳ですが、その答えは切ないものでした。

「俺の心のなかには、他の女の子がいる。」


夕湖編

ーーー「私を覆ってた壁は朔が1発で叩き割ってくれた。」
ーーーパリーんとどこかで綺麗な音がした。


トクベツ扱いをする人に辟易していた夕湖は、入学式の日、初めて自分をトクベツ扱いせずに”フツウ”に接してくれ、雑に扱ってくれた朔に恋をします。どこか、夕湖とその他の間にあったガラスの壁を、1発で叩き割ってくれたのが朔でした。
そんな単純な理由で、と思うかも知れませんが、そこに”フツウの女の子”らしさが出ていますよね。1年間、朔への想いをしたためてきた訳ですが、想いが溢れ、トクベツを嫌った夕湖が朔のトクベツになりたい、と願うのです。

「旅行の終わりって、なんかセンチメンタルになるもんな。」
ーーーそうだよね。
ーーー終わりは、哀しい。
ーーーさよならなんて、したくない。

夏勉の最終日になり、夕湖と朔、2人で海を見に行った時の言葉です。
あっという間に終わってしまう夏勉。
もっとたくさん話したい。
もっとみんなではしゃぎたい。
もっとみんなといっぱい思い出を作りたい。
崩れちゃうと、2度と戻ることはできないから。

ずっとこのままがいいな。

ーーーだけど、向き合わなきゃいけないんだ。自分の気持ちに。

夏勉最後の日に、夕湖は今までの自分とみんなにお別れをして、先が見えていても、前に進む事を決意したのでしょうね。チーム千歳のなかでも、一番朔に想いを寄せていたのが、夕湖だと思います。

「朔のことが好き、大好きです。」
「私を、朔のトクベツにしてください。」

「ーーー朔には、いつだって私が大好きになった朔のまんまでいてほしいな。」

「わりぃ、夕湖の気持ちには応えられない。」

夕湖がトクベツになりたいと願った男の子にとって、夕湖は友達だった。
たはは、と笑みをつくる夕湖。

「......でも、やっぱり、朔じゃなきゃ、やだなぁ。

夕湖が泣きながら笑うシーンは、本当に自然と涙が出てきましたね......。
自分の感情に、想いに言い訳をしようとして、でもやっぱり抑えられない。
「......でも、やっぱり、朔じゃなきゃ、やだなぁ。」
でも、振り向き際に涙を流しながらそう言う夕湖の姿さえ、苦いラムネの味がしそうな感じがして、そこがまた良さなのかもしれません。

自分の気持ちにみんなの気持ちに、みんなが最初に出会い、想いがうまれたこの教室と言う場所で、折り目をつける。

とても、切なく、それでいても、どこかひまわりのような黄色みを感じる回でした。

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朔編

いつかこうなる事は、分かっていたはずなのに。
みんなで見た、あの花火大会のフィナーレみたいに、
いつまでもこの楽くて幸せな時間、関係が続けばいいのに。
それでも、花火は散っていく。

明日姉と紡いだ、三角形のような神秘的な青春。
陽とかけ合った、不器用なまでに真っ直ぐで眩しい青春。
七瀬と過ごした、魅惑的な笑顔がまとわりつく青春。
夕湖と共にした、苦い味までも甘さに変えてしまうほどの青春。

マンガみたいに、いつまでも、高校2年生の夏休みだったら。
あぁ、このまま、時間なんて止まってしまえばいい。
楽しい思い出だけを摘んで、ラムネ瓶のなかに詰め込んでしまいたい。
それでも、、、想いは待ってはくれない。
誰かの気持ちに自分の気持ちに向き合うときが、訪れてしまった。



ーーー2年生になってから、季節が進むたびに、朔のまわりを囲っていた分厚いガラスの壁が少しずつ、割れていった感じ。

ーーーこの四ヶ月で朔はすっごく変わった。

ガラスの壁と言えば、何か思い出す事はないですか?

そう、一巻です。
一巻で、朔は引きこもり状態だった健太をベランダの窓ガラスをバットで叩き割って外に連れ出します。そして健太は、夕湖、朔のプロデュースによって根暗生活から脱します。

この時点で、物理的とは言えど、朔は健太のガラスの壁をぶち破っている訳です。朔は色々な人のガラスの壁をぶち破り、光のあたる場所へと導いています。この健太の家の窓ガラスを割ったその瞬間、朔を覆っていた最後のガラスも割れたのかも知れません。
それが、できるのが千歳朔と言う人物なんです。

そんな朔でも、野球を辞めた去年の夏は、自分で塞ぎ込み、自分のガラスの壁をどんどん分厚くしていました。

「ーーー最初から、ここに居場所はなかったのか。」

そうやさぐれていた朔のガラスを、元気で、熱で、優しさ、で溶かしたのが夕湖であり、陽であり、七瀬であり、チーム千歳のメンバーなのです。

そうして、築き上げた関係を変えたくない。


「ーーー私、今から朔に告白しまーーす!」

しん、と教室が静まり返っている。
あれ、なんだよここ笑う場面だろ。

朔のなかでは、答えを出さなければいけないと分かっていた、でも何処かその現実を受け入れたくなかったのでしょうね。
それでも、相手の想いに対する答えを出さなければいけない時。

「わりぃ、夕湖の気持ちには応えられない。」
「俺の心のなかには、他の女の子がいる。」

「てめぇ、朔ッ!!!」


こうなる事は最初から分かっていたはずなのに。
何が正解なのかは分からない。
このままじゃダメなことは、分かっていたはずなのに。
だけど、何一つ変えることができなかった。
それでも、もう少し、あと少しはラムネ瓶越しに見る夏を切り取っておきたい。

ーーー待ってくれよ.....。

朔は、どうすれば良かったのか。
朔にとっても、夕湖にとっても、チーム千歳にとっても、キツい回だったと思います。


海人編

今回は、夕湖編なのはもちろんの事、海人編と言っても過言ではないと思うんです。それくらい、海人の人柄が滲み出ている回でした。

「もし自分のすっごく大事な友達が、自分と同じ人を好きになったらどうする?」(夕湖)
「ーーー大切な友達だからこそ、無理矢理ふたりに割り込んででも勝負すっかな。」(海人)
ーーー沈みかけの夕陽に照らされた笑顔が、ちょっとだけ哀しそうに見えた。

夕湖たちの水着選びが終わり、帰りに海人と出会った際の会話です。
ここからも分かるように、海人は天真爛漫な夕湖に恋をしているんですね。

「ーーー大切な友達だからこそ、無理矢理ふたりに割り込んででも勝負すっかな。」

前に進もうとしている夕湖の背中を押すためですね。
でも、そう言っているのに、自分の夕湖に対する想いは押し殺している。
何故か。

夕湖の隣として相応しいのは朔しか居ないと思っているから。
朔なら、きっと夕湖を幸せに導いてくれると思うから。
朔なら、夕湖が出した答えに逃げたりせず、真正面から向き合ってくれると思うから。

「いつかあいつの想いみたいなのと、正面から向き合って欲しいんだよ。
適当に流したり逃げたりしないでさ。」(海人)

夏勉でのホテルの縁側で、海人が朔に向かって言った言葉です。
それなのに。


「わりぃ、夕湖の気持ちには応えられない。」
「俺の心のなかには、他の女の子がいる。」

精一杯、ありったけで、くしゃっと笑ってみせた。(朔)


「てめぇッ、朔ッ!!!」
「ずっとお前の隣に居たのは、夕湖だろッ!」

海人が激昂するんですね。今までずっと、朔の近くで支えてきた夕湖の想いを、笑顔を、悩みも考えもせずに適当に踏み躙っていいのか、と。
夕湖を幸せにできるのは、自分ではない。朔しかいないと信じていたからこそ、朔の言葉は許せなかった。
朔は朔なりに、夕湖のどこまでも真っ直ぐな瞳に、真摯に嘘偽りなく自分の気持ちをぶつけようしたはずですが、それでも大きな瞳にずっと朔を写し続けていた夕湖を見てきた海人にとって、朔の言葉は、軽く聞こえてしまった。

思えば、誰よりも人のことを怒れたのは海人でした。
健太の身の上話を聞いた時。
図書館でヤン高の連中に絡まれていた時。
一人で帰る、と出て行った七瀬を真っ先に追いかけた時。
仲間のため、親友のため、好きな人のために、どこまでも我が身のように考え、想い、行動していたのは、海人でした。

あの朔なら夕湖を幸せにしてくれると『信じていた』からこそ、ずっと夕湖への気持ちを押し殺してきた海人だからこそ、できた行動だと思います。

チープな言葉になってしまいますが、本当に海人は「いいヤツ」だなと痛感しました。

陽編

「だからあの日のことは、気に、気に......」
「気にして欲しいッ!!!」

陽が夏勉の夜、朔とランニングに浜辺に行った際、言った言葉です。
あの日、と言うのは四巻で朔に『愛してる』と言い放ち、頬にキスをした日ですね。読んでいた際、思わず一人で「いや、気にしてほしいんかい!」と突っ込んでしまいました笑。

でも、しっかり真正面から”恋愛対象の女の子”として見てほしい、と言いのけるあたり、陽らしいですよね。どこまでも不器用で、でも一生懸命、正々堂々と食らいつき、挑む。それが陽の強みであり、長所なのだと思います。
”あの日”から何となくぎこちなかった陽と朔でしたが、良い意味でいつもの熱苦しい関係に戻れて良かったなと思います。

優空編

「ーーーよかった、まだいたんだね。」
「朔くん、一緒に帰ろっか。」

まさに、”天からの声”ですね。夕湖からの告白を断り、どうにか偽りの笑顔をみんなに向けて教室から出た朔。
これが、悪い夢ならいい。
これが、ifルートだったら。
海人から殴られた頬をもう一度殴って見ても、まぶたが開く気配はない。
あぁ、これが現実なのか。
あぁ、さもしい。
傷つけたやつが、傷ついた様な面してんじゃねぇよ。

そんな朔が落ち込んでいる時、降ってきた言葉です。

「月の見えない夜に迷いこんでいるのなら、
そのときは、誰よりも朔くんの隣にいるから。」

一年前、野球を辞め、やさぐれていた朔を食生活の面でも支えていたのが優空でした。
キザに振る舞い、できるだけ傷つけたくない、でも自分の想いをはっきりさせなければならない。その間に翻弄され、迷いこんでしまった朔を、裂けてしまった箇所を、縫い合わせ陰から支えたのが優空でした。

ーーーアルトサックスのメロウな音色が響く。


「俺は、両腕に顔を埋めて、いつまでも泣きじゃくっていた。」


ちょっとした、考察。

「俺の心のなかには、他の女の子がいる。」

ここからは、完全に自分の推測になってしまうのですが、ずばり、

「他の女の子」とは一体、誰なのか。

夕湖?
夕湖と言う可能性も0ではないと思いますが、一度振っている相手と言う事もありそう言うことには真っ直ぐ真摯に答える朔の性分を考えると、あまりない気がします。

七瀬?
花火大会でのシーン、

「ふたりで、みたかったの。」(七瀬)
ーーーあぁ、それは、ほんとうに、悪いことをした。(朔)

朔のセリフと言い、間の入れ方と言い、七瀬もあまりない気がします。
七瀬が朔の中の女の子だとしたら、いつも軽口を叩いてる割に察しの良い朔が、意中の子が花火を二人で見ようとも取れる誘いに気づかない、と言うのは不自然ではないでしょうか。

陽?
夏勉で夜、朔と陽が一緒に走るシーン、

「いつか私があんた本気の勝負を挑んだ時は、逃げずに受けてよね?」(陽)
「はッ、そん時は返り討ちにしてやるさ。」(朔)

”返り討ち”と言う言葉が”意趣返し”と言う意味なのであれば、朔も陽が惚れて立てなくなるレベルの告白をする、と取ることができます。
ですが「一緒にお家デートをする」と言うより、ばりばり外で運動しあう相棒みたいな関係なイメージが強いので、どうなのでしょうか。
可能性は十分あると思います。

優空?
いかんせん、情報が少ない!!!。笑
落ち込んでいる朔の隣に居たのは、野球をやめた去年、今年でも変わらず優空であり、朔の土台となっていたのは、優空です。
なので、十分可能性はあると思いますが情報が少ないのでこれは次巻を待つしかなさそうです。

明日姉?
時間的に考えれば、一番朔と関わっていた時間が長いのは明日姉であり、お互い好意があるとも取れるようなシーンがいくつかありますが、それは恋愛対象としての好意なのか?と聞かれれば疑問符がつきます。また朔兄と明日姉の関係は三巻で区切りがついており、五巻でも所々刺激的な姿を披露してくれてはいますが、受験勉強に専念している様子が窺えることからこのまま神秘的で甘酸っぱい思い出のまま終わってしまいそうな気がします。


まとめ。

今回は『千歳くんはラムネ瓶のなか5』の感想を書いてみました。
明日姉との高校生夏休み最後の冒険。
8人で見た花火大会、初めて行った夏勉。

今までの関係にさよならをするため、一歩踏み出すため、自分の想いに正直になるために、朔へみんなの前で想いを伝えた夕湖。

”あの日”からぎこちなかった関係を直すため、勢いでやってしまったことにケジメをつけるため、自分の想いをぶつけるために真正面から動いた陽。

もっとも大事なものを選ぶ選択をした優空。

自分にはみんなと違い特段何もない。ならせめて、理解合える関係でいたい、そう願った七瀬。

友達のため、親友のため、好きな人のために、自分の感情を殺し、人のために怒った海人。

まさかいつもクールで冷めやすい割に、珍しく「好きな人が男に惚れている横顔を見て惚れた。」と暴露した和希。

このままの関係を変えたくないと願いながら、これで良いのかと悩みながら自分の想い、夕湖の想いに真摯に向き合った朔。

辛い、逃げたい、いつまでも花火のフィナーレが続けばいい。
でも、

誰かのきもちに、
自分のきもちに、

目を逸らさず、向き合わなければいけない。
沢山の思い出を紡ぎ、沢山の勇気をもらったからこそ。
傷つくのは、辛い。傷つけるのも、辛い。

それでも、後戻りはできない。

「ーーーまるで、最後の灯火みたいにあたりが真っ赤に染まった。」

本当に辛く、切なく、でもこれも彼らの青春なんだと感じされられるような、ラムネを飲んだ時に口に広がる甘さ、しゅわっとした爽快感、炭酸のちょっぴり痛いあの感覚すべてが詰め込まれているような一冊でした。

と、真面目に語るのはこの辺で、今冊は「明日姉の水着姿があったぞ!!」
最初買った時に透明フィルムをわくわくしながら、ぺりぺりと剥がして神挿絵を拝謁するのですが、ページをめくるたびに興奮しすぎて思わず口から「ぶっふぉおお」と言う効果音がマシンガンのように溢れ出てきました。
それくらい、嬉しかったんだよ、うん。

終わりに。

話は変わりますが、このnoteはいかがでしたでしょうか。
いつもはTwitter内の160字と言う限られたスペースのなかで、どう伝えたら良いかと、頭を物理的にアイスを食べながら冷やして考えるのですが、今回はそんな事をする必要もなく、のびのびと書くことができました。

千歳くんはラムネ瓶のなか5 SS付き特装版 はこちらから。
千歳くんはラムネ瓶のなか1-5巻セット はこちらから。

最後になりますが、長々とした文章をここまで読んでいただき、ありがとうございました。

ではまた。




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