インナーチャイルドの声を聴こう⑥
〈第5話〉
ハッとする。
また私は過去の自分を置いてきぼりにしようとしている。
101匹わんちゃんの黄色い浮き輪がない、遠くで浮かんでいる、あれだ!
私は浮き輪に向かって泳いだ。
あ、私泳げる!
浮き輪無しで泳いでいる自分がいた。
浮き輪までたどり着いた私は、それをしっかりとつかんだ。浮き輪は空気が抜けてフニャっとしていた。私はしぼんでしまった浮き輪を抱きしめた。
ごめん、ごめんね
過去の私とは愛の人
守ろうとしてくれたんだよね
振り回されるのは嫌だなんて
ごめんなさい
忘れていてごめんなさい
思い出せなくてごめんなさい
無視してごめんなさい
置いていってごめんね
あなたも私の一部なんだよね
ここにいるよって
出てきてくれたんだよね
ありがとう、ありがとうね
こんなに小ちゃくなってしまった
あなた
暴れん坊のあなた
お母さんを守るために
私を守るために
強くいたんだよね
なのに、理不尽な目に合わせて
本当にごめんね
そして、あなたなんていなかったことにして、忘れていてごめんなさい
私は本当にひどいよね
怒っていたんだね
あなたは本当に役に立っているよ
あなたがいてくれないと
今の私はいませんでした
がんばってくれてありがとう
痛かったよね
苦しかったよね
誰も褒めてくれなかったね
えらかったよ、きみはえらかった
これからもそばにいて
私を守ってほしい
きみがいてくれるだけで
強くなれるから
きみがいてくれて
本当によかった
大好きだよ
愛しているよ
いつまでも一緒にいよう
私のために戦ってくれて
ありがとう
私は泣きながら浮き輪に謝った。
すると、浮き輪がちいさな男の子に変わった。
男の子は私に言った。
ホントに泣き虫だね
きみは……
でも
僕のために泣いてくれて
ありがとう
きみを愛してる
僕の大切なきみ
きみがいつまでも
幸せでありますように
僕はもう
君に触れることはできないけど
いつも祈っている
君の幸せを
怖がらせてごめんね
もう怖いことはしない
君を怖がらせることは起きないよ
僕はもう君の前に
姿を見せることはないだろう
でもね
忘れないでほしい
僕のことを、僕がいたことを
そして今も見守っていることを
忘れないでね
そう言い終わると、男の子は消えた。
私は男の子が私の中に入ったのだとわかった。
私は私の中の男の子に言った。
会いに行くよ
私はもっと強くなって
あなたの住む天国にきっと
会いに行くよ
あなたが見守っていてくれるから
大丈夫
私は自分でちゃんと働いて
天国に行ける準備をしっかりして
それから
あなたに会いに行く……
ここでまた、思い出した
K子ちゃんの他にいた子たち
みんな女の子でK子ちゃんと同じような浮き輪を持っていたような気がするのだけど
果たして、そうだったか?
実は正確には覚えていない
なんだかみんながK子ちゃんの取り巻きで、私が一人で戦ったような記憶があるけど
果たして、そうだったか?
本当はそうじゃなかったのかもしれない……
私はその場にいたみんなを代表して
K子ちゃんに噛み付いたのかもしれない
K子ちゃんが「変だ」と言ったのは、私のことだったのか?
それも定かではない
もしかしたら、あの場にいたみんながK子ちゃんに対して同じ気持ちだったのではないか?
そしてK子ちゃんでさえも……
事実はわからない
何を真実にするかを
自分で決めなければならない
第6話につづく……
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