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杉浦直樹似の紳士にナンパされた俺。

1980年代前半のコトだ。

当時、大学4年のときにはじめた映画関係の会社で
毎日アルバイトに精をだしていた。

同年代の仕事仲間とはしょっちゅう飲みに行っていて、
アルバイトを辞めたあともつきあいはずーっと続き、
途切れることなくコンスタントに杯を交わしている。
先日もその連中と熊本2泊3日の旅行を愉しんだ。

あ、40年前のその日も会社のあった東銀座あたりでしこたま飲み、
いつものよーにくるくるパーになるまで酔っ払うと、
実家が千葉の野田だった俺は東武野田線の最終電車に乗る気は
さらさらなくなっちまって、新宿でひとり暮らしをしていた
先輩の風呂なしトイレ共同アパートに転がりこむ気満々だ。

店をでて皆と別れ、丸ノ内線で新宿をめざす先輩と俺。
地下鉄に揺られて腸の動きが活発になったのか、
新宿駅に着くと先輩は、内股でそそくそ、もとい!
そそくさと西口のトレイへと駆けこんだ。

公衆便所の前でボーッとひとり佇む20代前半の俺。
ウンコだから、けっこう時間がかかっている。

と、ひとりの男が俺に近づいてきた。
見ると、1:9イチキュー分けではなかったが、
俳優の杉浦直樹に似た紳士だった。

「あまり時間ないんだけど、お茶でもどう?」

声をかけてきた男の言葉をすぐに理解できなかった。

え?ナニ?お茶っぱの勧誘?

杉浦直樹は、杉良太郎のよーな流し目で俺を見て、
割れ目の入ったケツあごをクイッと左へと動かし、
さあ、坊や、あっちへ行こーじゃないか!
とゆーふーにウブな俺を促したのだ。

こ、これって、ナンパ?
こんなとこでひとり立っていたから!?

さすがに俺も気づいたが、なにしろはじめてのコトで
ドギマギして言葉もだせずに固まっていると、
用を足した先輩が手をふきふきトイレからでてきて
俺のもとへと大股で歩いてきた。

お待たせ!

それを見た杉浦直樹は、

あー!そーゆーコトか!

とゆ―顔をして申しわけなさそーにその場を去って行った。


そして、2024年9月。

最近、観た映画につなげてのひとり飲みにはまっている俺。
「新宿シネマカリテ」で「#スージー・サーチ」を観たのち
す~じ~つながりで“す~じ~とろとろ煮込み”がある
しょんべん横丁の「もつ焼き ウッチャン」へとしけこんだ。
カウンターでひとりホッピーをぐびぐび飲んでいると、
右隣のリーマン男性が話しかけてきた。

御殿場から仕事できているとゆー男性と会話が弾み、
話の流れはよく憶えていないけど、俺が40年前に新宿で
杉浦直樹似の紳士にナンパされた話をし終わったときだ!

左隣から肩をチョンチョンと叩かれた。

ふり返ると、70代半ばと思しき男性が、
右手人差し指を鼻に当て口角を思いきり上げていた。

えええぇ~!?
あのときの杉浦直樹ぃ~?

顔をよーく見てみると、
頭部は1:9イチキュー分けもできないほど薄くなっていたが、
あごには確かに割れ目が入っていた。

ケ、ケツあごだー!

「40年前、西口のトイレの前で?」

尋ねると、年老いた杉浦直樹は照れ笑いを浮かべながら頷いた。

こ、こんな偶然て!?

「こんどは時間のあるときにお酒でも」

喉まででかかった言葉を飲みこんで店をあとにした。

ちなみに、先輩とは先日行った熊本でも飲ったが、
つい最近2人目の孫娘が生まれたそーな。

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