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音楽紹介 #1 笹川真生

 夏ほど、秋が待ち遠しいと季節は無いし、冬ほど、春を待ち遠しくなる季節はないと思う。amazarashiというバンドに『季節は次々死んでいく』という名曲があって、その曲の最後の一節のように、季節が早く生き返ることを望んでいる。

 新年が明けました。皆さん、おめでとうございます。別にそこまでめでたい気分でもないけど、「おめでとう」とか「よろしく」は言える機会が沢山あった方がいい。ので、言う。2022年になったからといって劇的に人生が変わることは無いだろうけど、だからまぁ緩やかに行こうよ。仕事もそれなりには楽しいし。

 で、新年になったし、だからなにか新しいことでも始めるかと、好きな音楽でも紹介しようかなと思って今これを書いています。

 流行と同じように自分の好きな音楽も、歳を重ねる度に紙飛行機の様にいつかどこかへ飛んで行ってしまう。 永遠に誰かを、何かを好きで居続ける事など、僕等に出来るのでしょうか。昔好きだったあの子の仕草や記憶が形骸化して行くにつれて、僕はその自信を無くす。浅野いにおさんの漫画、おやすみプンプンのプンプンも最後に愛子ちゃんの記憶を忘れていってしまうし。

 でも、だからこそ好きとか好意的な感情があるうちに言葉を重ねるのは、きっと悪いことではない。前置きが長いな。いい加減始めよう。

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 官能と飽食とキャロル。笹川真生さんの曲の中で、僕が初めて聴いたのはこの官能と飽食だ。MVを聴いた瞬間、頭の中を発泡スチロールのバッドでぶん殴られたような衝撃を受けたのを覚えている。致命的なエラーを発生した天国のようなコラージュアニメーションに、天界に誘われたような現実離れした曲調。悲痛と恐ろしさ中にこそ滞在する美しさというか。

このままいつかきっとわたしは 何も言えずに育っていく
怖がらなくても大丈夫だよ

 こちらはキャロルの歌詞。いつだったか理芽さん(笹川真生さんが作詞作曲編曲してるvtuberシンガーソングライターです)のインタビューで、「歌詞にあまり具体的な意味は込めていない」みたいなことを話していた記憶がある。

 だけど、作詞とか、人が言葉を選んでいく行為の延長線上には、必ずその人の思想とか感情が宿るものだと思う。例えば、その人が谷川俊太郎さんの詩集が好きだとか、戦争映画が好きだとか、ダンサー・イン・ザ・ダークに感動する、だとか。まぁ、僕は谷川俊太郎さんの詩集、読んだことがないのだけど。

 そういった思想や偏好がこもった言葉や歌詞は、どうしたってその人なりの色が出る。そこにある諦観や羨望に焦がれたり、訪花性の虻みたいに花に引き寄せられるのは、紛れもなくその人の感性に恋のようなものをしているからだと思う。有り体に言えば、僕はこの人が今まで影響を受けてきた出来事や好みから繰り広げられるこの感性が、めちゃくちゃ好き。

どこかで他人が死んでても わたしの心はちっとも動かないの そういうとこだよ わかってる
わたしが弱いから伝えられないのかな
画面の向こうでだれかが人を殺す

 この曲なんか僕はすごく好きで、初恋とか季節を裂いていくとか、全ての歌詞が素晴らしく好きなんです。手を伸ばしても欲しいものには届かないし、ニュースで報道される遠くで起こる事件にも関係できない。キャロルや官能と飽食に比べたら曲調も歌詞も現実に足元を付けたように聞こえる曲だけど、どうしても、遣る瀬無さみたいなものが曲全体に宿る。

 植物や綺麗な花の根っこみたいに、絡め取られてるみたいな。動けないし、自分の希望や意思では届かない。些末な交通料金で、僕等はどこにでもいけるはずなのに。

 悪魔と異邦人。これらは結構最近の曲で、ねぇママとか、キャロルと比べると随分現実に回帰したような音楽だと思う。異邦人とか、出だしから最後に掛けてまで今まで聴いたことがないぐらい爽やかな印象を与える曲だ。

永遠がどんなもんか わたしにはまだ分からないけど たぶんそう、きっと、長くはないでしょう

 だけど、この空中浮遊と言うか、天国にでも遊びに出かけているような言葉選びは変わっていない。それでも、異邦人はかなりポジティブな明るい色を帯びた楽曲だと思う。初めて聞いたときは、爽やか過ぎてびっくりしたのを覚えている曲だ。好きです。

 悪魔も、深海生物の形みたいな超独創的な作曲センスはさておいて、最後には希望のある歌詞で終わる。この曲に関しては最後のサビのクオリティが宇宙回帰レベルで優れているので是非聞いてほしいのですが。ここまで来ると、個性的すぎて誰だって真似できない。彼だけの城が立っているんだ。

 最新曲の日本の九月の気層です。謎の場所に閉じ込められて、聴こえてきた音楽がこの曲だったら、それだけで特別になると思うの。スタートの水の流れるような音ととかさ。その音楽構築がもうハイレベル。まぁ、僕は、ギターのGコードすら弾けないんだけど。

 2000文字も書いて、結局僕が伝えたいのは、笹川真生さんの音楽は、独創的な世界観の中で呼吸をしているということだけ。明るい世界観だとは思わないし、流行に近い音楽だとも思わない。そもそも、今何が流行っているのか、僕には分からない。Awesome City Clubの勿忘は好きだけど。

 だけど、僕は少なからずこの音楽たちを聴いて衝撃を受けたし、それから初めて官能と飽食を聴いて三年近くたった今も、彼の音楽を聴いている。今でも、その感性に惹かれているし、愛している。ずっとその感情が続くかは分からないけど、何十年後にこの音楽が好きだったことを思い出しても、後悔はしないはず。

だからこそ、一曲でいいので聴いてみて欲しい。誰かにとっては、今まで生きてきた世界に針を刺されるような感覚にきっとさせられるので。

最後に、誰かの人生を一本の映画に出来るなら、僕は彼の人生をフィルムで座席に持たれて、眺めていたい。その感性を覗いてみたい。

じゃあ、おやすみ。

逶ョ繧帝哩縺倥※謨ー縺医※縺ソ縺ヲ


 最後の最後に、fullのライブ映像です。聴いてみて。


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