祝!脱ワイナルドゥムーリヴァプールのボトルネックは取り除かれたのか?-

過去4シーズンのプレミアリーグでの実績は下記の通りです(アリソンとファンダイクというチート選手が揃う前のシーズンと比較するのは意味がないので)

4シーズン得点失点勝点の比較

取らぬ狸の皮算用ですが、このままのペースで突き進めば99.9得点28.14失点で勝点88.67の得失点差+71。121得点32失点という11−12シーズンのマドリーには届きませんが、なかなかの数字でシーズンを終了することになります

チアゴとファビーニョをMFで同時先発させておけば昨季のエヴァートン(GKがアドリアン)とインテル(0-1で負けても突破の中2日が続いた4戦目)戦を除いて全勝なので彼らが故障で長期離脱しなければ勝点のペースは上がって90は超えてくるはずです→得点94と伸び悩み失点は想定に近い26で勝点も92と予想通りの水準で終了
以下、xGなどに関するデータは全て下記のサイトより引用https://understat.com/team/Liverpool/2021

攻撃指標を過去4シーズンで比較する

昨シーズンからなぜここまで数字が改善されたかといえば、単純にチャンスの機会がめちゃくちゃ増えたからです。ゴール期待値xG90に対して実際のゴール数G90が下回っており、FWの選手たちが決定機を外しているように昨季不調だったFW陣が調子を取り戻した、というわけではありません

図1シーズン別 90分あたりゴール期待値xG(青)と期待アシスト値xA(橙)と実際のゴール数(灰)のまとめ

ちなみにxGは適当なロングシュートを打っても数値が積みあがっていく欠陥指標なのでこの数字だけが良くなっても意味がありません。シュート1本あたりのxGであるxG/Sh、シュート1本あたりのxAであるxA/Shも含めて検討する必要があります。(本来ならば分散や中央値も含めて分析するべきですが、データの収集がめんどくさいので平均値のみです)

図2シーズン別 0分あたりゴール期待値xG(青)と期待アシスト値xA(橙)と実際のゴール数(灰)のまとめとシュート数(黄)

このデータを見れば明らかです。シュート1本あたりのゴール期待値が改善し、シュート本数が増えたからゴール数が増えました。シュート本数は18-19シーズンの1試合あたり15.21本から19.57本に増えました。何故こんなにも数値が良くなるのでしょうか?

まず明らかに数値がおかしくなっている昨季の原因は誰もが分かる通りCBの故障が原因でした。昨年の得点力不足はFW陣の不振ではなく、CBが故障したことが全ての原因でした。リヴァプールはハイラインで戦い、DFラインの裏に弱点を抱えています。それを問題にしないで戦えているのはダイク、マティプ、コナテ、ゴメスといった能力が高いCBと前に飛び出せるアリソンやケレハーといった守備範囲が広いGKによってカバーできているからです

去年は主力CB3人が全員離脱し、フィリップスやカバクといった2部上位~プレミア降格圏レベルのCBや2部レベルのリース・ウィリアムズになってしまったことが去年の不振の原因です。リヴァプールのCBの質が低ければハイライン戦術は欠陥戦術になり、相手はカウンターに専念すれば得点が取れるようになりました。そのため、ほぼすべてのチームが引きこもってカウンターという手段を選び始めました

相手がドン引きする事で勝点90を超えていた2シーズンからもシュート数は増えましたが、ドン引きチーム相手の無理なシュートが多くなった事でシュート1本あたりのゴール期待値も減りました。シュート数が6%近く増えたのにもかかわらず、1本あたりのゴール期待値は10%程度落ちることになり全体のxGが低下することになったのです

カウンターから失点を繰り返し、ロバートソンやアーノルドの攻撃参加が次第に減っていくことになりました。昨季アーノルドの守備スタッツが彼のキャリア史上で断トツの数字を出したのは守備に奔走していたからです

両サイドバックの攻撃参加も減り、ファンダイクが故障したため左のCBから右のアーノルドやサラーへのロングパスがなくなり、右CBであるマティプやゴメスからのドリブル突破もなくなりました。攻撃の手段が減った単調な攻撃では得点数が増えることはありませんでした

ゴール期待値が低ければ選手のクオリティでゴールを取るしかありませんが、フィルミーノとマネは期待値から4点弱も外しため、サラーが期待値よりも2点弱ゴールを決めても下回りました。結果的にシュート数以外すべてが最低のシーズンとなってしまったのです

しかし今季はCBが復帰した事で数値が戻る事は想定内ですが、2シーズン前や3シーズン前と比べても明らかに改善されています。ここまで得点力が上がった原因は2シーズン前まで出場機会が多く、今季出場していない人によるものでしょう。つまり今季退団したワイナルドゥムがピッチ上から居なくなった事が得点力が今季大きく飛躍した要因となっていると言って問題はないでしょう

サッカーでは下手な人間を1人取り除くだけでパスがスムーズに流れだし、時間的な余裕が生まれて攻撃が劇的に進化するものです。足元の技術が足りないワイナルドゥムをMFに配置するデメリットは攻撃面で言えば莫大でした。私のように彼を咎め続けていた人たちは現在のような攻撃サッカーを見たいがために彼を売却してMFを補強するべきだと叫び続けていたのです

守備指標を過去4シーズンで比較する

それでも残念ながら現在の勝点ペースは年間92しか取れませんでした。彼の離脱によって守備面が大きく損なわれていれば得点力が上がっても意味がないことです。守備の指標が悪くなっていないか、失点期待値と実際の失点数を見てみましょう

図3 失点期待値xGA90(青)と実際の失点GA90(橙)

失点期待値が減り実際の失点数も減りました。xGはそのシュートの期待値をシュートを打つ位置、DFの配置を基に算出していますが、相手GKのレベルが高ければxGが0.1を下回るものは殆ど入りませんし、相手GKのレベルに関わらずxGが0.5を超えてくると高確率でゴールが決まります。そもそもxGが0.8を超えてくる場合にはGKがシュートを防げない位置に居る確率が高く、FWがミスしない限りは点が決まるものです

リヴァプールがレアルマドリーに負けたのもゴール前で誰も止められない位置から相手にシュートを打たれて先制点を失った為です。またxGが0.2くらいのものはGKが完璧なセービングをすると意外と入らないものです。ノックアウト方式のカップ戦で能力的に優位なチームがリスクを取って攻撃して1チャンスに沈められて負ける事が多いのは、優秀なGKが居ればこの戦い方が成立してしまうからです

カップ戦で大事な事はクルトワのような世界トップクラスのGKでも止められないピンチを作られないようにすることです。それさえできればGKのスーパーセーブ連発を祈って相手のミスを待てば勝つことは十分にできるのですから。この重要な1本あたりの失点期待値xGA90と90分あたりのシュートを打たれた本数ShA90を下表で見てみましょう

図4 被シュート本数(青)とシュート1本あたりの失点期待値xGA90/Sh90(橙)の推移

シュートを浴びる本数は優勝したシーズンどころかマネとフィルミーノとダイクの守備力が常軌を逸していた18-19シーズンよりも数字が向上しました

またシュート1本あたりのゴール期待値も1819のようにダイク1人でピンチ自体を作らせなかった1819には劣りますが、平常時のダイクやコナテやマティプといったワールドクラスのCBが稼働していましたのでシュート1本あたりの失点期待値も例年通り低く抑える事が出来ました

結論

上の4つの表にまとめたデータから明らかなように彼の放出によりリヴァプールの”平均パフォーマンス”は向上しています。ワイナルドゥムは一部の信者から高い評価を受けていましたが、リヴァプール躍進に対して殆ど貢献が0に近いチームの足を最も引っ張るスタメンの選手つまりボトルネックだったのです。ワイナルドゥム放出して良いMFを買えばリヴァプールのサッカーは進歩するのにと私が4年前から願い続けていた通り、彼が退団した後もチームには何の問題も起きませんでした

彼に昇給を用意しなかったフロントのデータ分析班は非常に良い仕事をしています。しかしワイナルドゥムを放出した事は正解でしたが、彼を上回るチアゴのような本物のMFを獲得する事が出来ませんでした。そのためボトルネックのワイナルドゥム放出も補強0によってボトルネックがヘンダーソンやケイタに移っただけでリヴァプールのサッカーは進歩しませんでした

またマネの衰え、MF最後のピース不足、アーノルドとチアゴの控え不在という問題によって勝点はピーク時に比べて劣っています。これを解決するリヴァプール最後の改善案について下の記事たちをご覧ください

P.S. 彼がPSGに行ってポジションを失ったのは金に目が眩んでパフォーマンスが落ちたわけではなく、リヴァプール時代からパフォーマンスが良くなかった事がバレただけの話です。毎年4,000分近くピッチを走り回って当時の選手層が貧弱なリヴァプールの穴を埋め続けた彼に対して「金を選んだのが悪い」というのはあまりに失礼というものです

恥じるべきは能力的にトップレベルとは言えない選手に大金を積んだPSGのスカウト部門であり、彼に低い給与から昇給させなかったリヴァプールフロントにも、ワイナルドゥムにも非は何もないのですから

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