ケイタはリヴァプールに足りない最後の1ピースになりうるか?-リアルナビ・ケイタは何処に行った?-

幻の「リアル」ナビ・ケイタ

まず前提として現状のリヴァプールにおいてGKにアリソンCBにダイクとマティプかコナテ、LBにロバートソンでRBはアーノルド。中盤の底にはファビーニョが入り、チアゴが低い位置から長短のパスで前線の選手にパスを出してディアス、マネ、サラー、ジョタ、フィルミーノの中の3人にボールを提供する形となっており、10個のポジションにワールドクラスの選手を揃えている。またレギュラーの控えに関してもチアゴとアーノルドを除く全ポジションにレベルが高い水準の控え選手を擁している

問題となっているのはMFとFWを繋ぐ4枚目のアタッカーであり、このポジションで最近はケイタが序列を上げてヘンダーソンを抜いて1位となっている。しかしながら唯一リヴァプールのレギュラー選手として世界トップで戦うには物足りないのがケイタである。今後「リアル」ナビ・ケイタは到着する可能性があるのか検討していきたい

リアルナビケイタという虚構を作り出したのは恐らくこれらのYoutube動画だ

確かに素晴らしいプレーに見える。ただ今の彼のプレーを見て冷静に見返してみると「リアル」ナビ・ケイタと言うのはファンが見た幻で虚構の生き物だったと言わざるを得ない
もちろん今リヴァプールでのケイタは彼本来の実力からすると100%を発揮できている訳ではない。彼の実力は(イニエスタ+カンテ)÷2+ロングシュート-ドリブルであり、周囲に遠慮して武器であるロングシュートを活かせていない。またフィジカルコンディションもラキティッチの蟹挟み殺人タックルを受けて離脱した後、十分なプレー機会を得られず当時と比べて若干劣るようにも思える

プレミアリーグで通用しないブンデスリーガの下位クラブで無双する選手

しかし、こうして改めてケイタのブンデス時代のプレーを見ると過度な期待をかけていたと思わざるを得ない。ケイタの弱点であるパスの雑さ(素晴らしいパスも多いが、酷いパスも多い)もこの動画から見る事ができるし、カウンターのロングスプリント時には明らかに足が遅いことも分かる。トラップも素晴らしく見えるがチームメイトの能力的な問題でリヴァプールのような難しいパスも少ない

また活躍していた対戦相手のレベルにも問題があった。ブンデスリーガは世界トップレベルに強いバイエルンと調子の良い他の1〜5チームもプレミアリーグで欧州を争えるだけの力を持っているが、それ以外の12〜16チームの大半は残念ながらプレミアリーグでは16位〜20位くらいのレベルのチームである。またブンデスリーグの降格を争うチームはそもそもチャンピオンシップを勝ち上がる事も出来ないであろうレベルにある

これはプレミアリーグやチャンピオンシップのチーム強化に使っている予算を考えれば当然のことである。素晴らしい健全経営を行なっているブンデスリーガとオーナーの支えがなければ経営破綻している脆弱な財務基盤のチームが相当数も存在するイングランドのサッカーは目指す姿が異なっている。イングランドサッカーのレベルは現在世界で1番高いが、ファイナンシャルドーピングをしまくって世界各国から選手を金で奪い去っていくからレベルが高いだけの話だ

健全経営して利益を出せているのは昔のバーンリーやニューカッスルぐらいでリヴァプールも赤字を出していないが営業利益はほぼ0で選手の売却益によるギリギリ綱渡りの健全経営である。ユナイテッドもコロナによって過去の蓄えを全て失い赤字体質に陥り、トッテナムも莫大な借入金の返済に追われている
そういったギリギリ綱渡り系のクラブと比較にもならないのはチェルシーやシティである。彼らはユースやスタジアムなどの維持費にかかる£20m程度の赤字はFFPでは許容されているのでFFPは守っているが、この程度の赤字を当たり前に出してオーナーからの融資で成立しているに過ぎない。プレミアリーグのレベルの高さはこういった財務的なメチャクチャさによって成り立っている

話が脱線してしまったので元に戻そう。ケイタがライプツィヒで活躍していた対戦相手はそうした弱いチームを相手にしている事が多く、トップレベルのチーム相手の活躍は少なかった

バイエルン戦で1G1Aの活躍をしているが、相手GKはノイアーではなくウルライヒである。ウルライヒはノイアーのように優れたGKがいるチームの2ndのGKとしては優秀であるが、プレミアリーグだとレギュラーを取れるクラブの方が少ない。また当時のブンデスリーガはドルトムントもクロップ退団後で没落気味で、レヴァークーゼンやシャルケといったチーム同様に一貫性がなく苦しんでいた時期でもあった

欧州の舞台でも戦えるブンデスリーガのトップ層を相手にも必ず活躍するトップ選手はデブライネ、ソンフンミン、フィルミーノ、マティプなどプレミアリーグに来ても大活躍している。しかしながらブンデスリーガの下位クラブを相手にスタッツを荒稼ぎして無双していただけの選手はプレミアリーグで通用していない。恐らく原因はブンデスリーガには6~10チームもある弱いチームがプレミアリーグには2~4チームしか存在しないからだろう

ケイタは優れたインサイドハーフである。しかしワイナルドゥムと同じく特別な選手ではない

もう1度ケイタについて再確認をしていこう。彼は4−3−3なら3センターの前側を担当し、4−2−3−1なら2列目の3で左か真ん中に入る選手である。彼の能力を細かく見ていこう。この能力についてはFIFAやパワプロ的に考えていただきたく、採点についてはイングランドのプレミアリーグやスペインのラ・リーガで降格を争う16−20位のチームの平均的な選手の能力がトータルでD評価ぐらいと考えていただきたい(ポジションで必要とされる能力がそこそこならばD評価となります。例えばCBはクロス精度が高くても殆ど加算されず、守備力や空中戦が強ければ求められない能力が低くても高い評価)

A 90以上 B 85-89 C 80-84 D 75-79 E 70-74 F 65-69 G 65未満

Aキック力、胸トラップ
B足元トラップ、ボール奪取力
Cドリブル、グラウンダーパス、ロフテッドパス、守備予想力
D切替スピード、集中力、加速、ロングパス、スタミナ、シュート精度
E故障耐力
Fトップスピード

こうしてみるとケイタは良い選手であり、プレミアリーグの格下クラブを殴るときには十分な戦力であるが、チェルシーやシティやマドリーやPSGやバイエルンといった世界トップレベルのクラブと戦うには全く物足りない選手である

能力的にカンテのようにダブルボランチの3列目として優れている能力とイニエスタのようにFWへボールを運ぶ2~2.5列目として優れている能力が混在しており、活躍できる領域が非常に限られている事が問題だ。せっかくボール奪取力が高くても身体能力が低く、守備で危険を察知する能力が並ではカンテの能力は発揮されない。またトラップ技術が高くても身体能力の低さを補えるほどのドリブル技術を持っておらずイニエスタのように中に切れ込むプレーも出来ない

このようにケイタはIHとして特別な選手ではない。そのため彼を超えるIHの獲得が必須だと私は考えていた。しかしながらIHとして文句なしに能力が高い選手はチアゴ、デブライネ、ギュンドアン、ベルナルド、カンテ、コヴァチッチ、ポグバ、クロース、モドリッチ、バルベルデ、ペドリ、フレンキー、ヴェラッティで13人ぐらいしか居ない。更なる問題は彼らを獲得できるかであるが、現実的に取れる選手はポグバとフレンキー・デヨングぐらいしか居ない

そのフレンキー・デヨングもどちらかと言えば3列目からBox to Box型の優れた選手であり、高い位置の狭いスペースで曲面を打開する選手としてはペドリなどに劣る。冒頭に書いた通りリヴァプールに求められているのは高い位置でMFやDFからのボールを受けてFWへスムーズにボールを渡せる選手である。リヨンのカケレなど今後の成長が楽しみな選手は多いが、そのカケレも契約を延長しており、IHでケイタを超える人材は非常に少なく市場に出そうな気配も殆どない

リヴァプールのラストピースはなかなか埋まらない。この問題を解決するためには「世界的にIHが足りないならばIHを獲得する必要などない」という発想の転換、そうシステムの変更が必要である。3センターという固定概念を外し、クロップがドルトムント時代に愛用し、リヴァプール1年目のメンバーで最終的にたどり着いたダブルボランチというシステムに変更すればより良いピースが見つかるのではないだろうか

ケイタの契約を延長する価値はあるのか?

システムを変更する際に考えるべきは今の主力選手を活かせるシステムであるかだ。現在は逆三角形の3センターを三角形の3センターに代えるだけなのでMFについて考えれば良い。チアゴはバイエルンで、ファビーニョはモナコでダブルボランチを組んでおり彼らの守備力と展開力を最大限に活かせていた。またプレス耐性が低いヘンダーソンもポジションを下げた方がプレッシャーが緩くなって活躍する傾向にあるためレギュラーメンバーは問題ないどころかダブルボランチの方が向いていると言える

さて大事なことは果たしてケイタは今後も活躍できるのか、契約延長をする価値があるのかという点である。まずケイタを3列目として使うのはどうだろうか

結論から言えばチアゴの控えとしてケイタは十分な能力を持っているが、ケイタは適任ではない。まず能力的にロングパスの能力が低いケイタはチアゴ不在時にチアゴの役割が出来ない。ただこの点に関してはダイクが補えるのでそこまで大きな問題にはならない。しかし次の2点の観点からケイタよりもチアゴの控えに適した人材がいると私は考える

①チアゴは年に何度かは離脱する選手だが、ケイタは週2回出場の負荷に耐えられないのでチアゴの控えとして適任ではない
②IHとしてはケイタより能力が低くても3列目の守備的MFとしては彼より能力が高い選手は沢山いる

ケイタが持つ優れた能力は3列目の守備的MFに要求されているものと2列目の攻撃的MFに要求されているものに分かれていて、3列目の守備的MFに求められる能力の一部が低く、2列目の攻撃的MFに求められている能力の一部が低くバランスが悪い。彼は中堅クラブでエースになるだけの実力を持っているが、世界トップクラスの選手が揃えられる世界のトップクラブでは中途半端な選手にすぎない

3列目と同様に2列目として考えるのも苦しい。超人たちによる即興サッカーというクロップの粗い攻撃戦術の中で4枚目のアタッカーとして計算するには技術の幅が圧倒的に足りないからだ

現在のリヴァプールでクロップが行っているのは本質的にはアーノルドやロバートソンやツィミカスのクロスに大きく依存した銀河系モイーズサッカーである。このクロップサッカーに対応するにはオールラウンドな技術が求められる。我々のフロント5は自らのポジションで超一流なだけではなく、左サイドでも中央でも右サイドでもプレーする事ができるので状況に応じてポジションを入れ替えても問題ない実力を持っている。サラーもディアスもマネもジョタもフィルミーノも全てが出来る上に何かしらの武器がある選手だが、ケイタにそこまでの力はない

ケイタはどちらかと言えばピッチの王様として振る舞った時に最も良いパフォーマンスを発揮できる選手だ。しかしながらこのタイプの選手のシャキリは上手くいかず、コウチーニョもクロップは売ることを止めなかった。王様として振る舞うにはピーク時のコウチーニョ級の技術が求められるがケイタの技術はその水準には劣る

更に言えばシャキリもコウチーニョも攻撃面では輝いていたが、高い位置で彼らにボールが渡らないよう供給を絶ってしまえば大きなインパクトを残せなかった。コウチーニョもシャキリもポジションを下げてボールを貰っていたが、低い位置からではロングパスもロングシュートも怖さも半減するし、スペースが消されてしまえば輝く事は少なかった。彼らの一瞬の閃きが生み出す攻撃面のメリットよりも走力不足による守備強度のマイナスが大きく彼らは売却される事になった

クロップサッカーでのFWとMFを繋ぐ4人目のアタッカーには最低限の走力と中央でプレーするだけでなくサイドに開いてボールを運んだり、クロスを上げたりする能力も必要だ。またチームとして誰が何処で何をするといった決め事が少なくパスがズレやすいサッカーでも収めて前進させていく力がない求められる
しかしケイタの能力は2列目に特化した構成になっておらず、そういった前線に求められる能力も走力も備わっていない。クロップ時代のリヴァプールでこの役割を高い次元でこなせていたのは1617のララナしか居らず、今季は4冠という歴史的な偉業に挑戦しているものの最後のピースは明らかに足りていないのだ

このような観点から私はケイタがリヴァプールでゆるぎないレギュラーの立場を獲得する事は未来永劫ないと思っているが、契約延長をして欲しいと思っていた。なぜなら明らかに彼より良いIHは世界に20人程度しか存在しない世界的な供給不足のため彼以上のIHを2枚調達する事が不可能だと思っていたからである。しかし発想を変えて攻撃的なMFと守備的なMFをそれぞれ1人獲得する事ができればケイタの契約を延長する価値はない

彼はワイナルドゥムと同じくリヴァプールに足りないMFとFWを繋ぐ4枚目のアタッカーでレギュラーに抜擢できるほど特別な選手ではない。またチアゴの控えとしての役割で見ても彼はロングパス能力が劣り、故障が多く稼働率の点から適さない
シティやチェルシーやマドリーといった強豪クラブを相手に戦うにはケイタでは力不足であり、控えとしても故障が多いので不十分である。「リアル」ナビ・ケイタは幻であり、新しい選手を探す必要がある。ケイタを超える選手が獲得できたならケイタは間違いなく売却するべきである

ではその選手とは誰なのか?リヴァプールに足りない最後のレギュラー、そしてチアゴの控えとアーノルドの控え問題を解決する優秀な選手を紹介しよう-後編へ続く-

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