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ピーター・ガブリエルの1stソロのリハーサルには、アンソニー・フィリップスとフィル・コリンズ、マイク・ラザフォードが参加していた!

これはわたしも初めて知った話で、あまり一般的にも有名な話ではないと思うんですよね。英語版のWiki見てもここまで書いてないんですよ。そこにはただ、

When they learned that Gabriel was to make a solo album, they sent a telegram wishing him luck.
ガブリエルがソロアルバムを作ることを知った彼ら(ジェネシスのメンバー)は、幸運を祈る電報を送った。

Peter Gabriel (1977 album): Wikipedia

とだけ書かれています。でも、実際は「電報を送った」どころか、ジェネシスのメンバーがリハーサルにまで参加していたんですね。

Car / Peter Gabriel (1977)

Carと呼ばれるピーター・ガブリエルの1stアルバムは、カナダ(トロント)のスタジオで録音されているんですね。ところが、このレコーディングに先立ったリハーサルが、ロンドンのトライデントスタジオで行われ、ここに集まったのが以下のメンツなのです。

  • アンソニー・フィリップス

  • フィル・コリンズ

  • マイク・ラザフォード

  • ジョン・グッドサル

ジョン・グッドサルは、あの BrandX の変態ギタリストwでして、フィル・コリンズの人脈でやって来たのでしょう。そして、アンソニー・フィリップスは、このとき「ピアノ」担当としてキャスティングされたというのですね。本人のコメントを引用します。

Having said I was never a very talented keyboard player — which is true — when Peter came back into the business after taking his sabbatical he put together some demos at Trident studios for his first solo album. Peter had been out of Genesis for about a year. So who did he get on piano? A. Phillips. Yes, I was the keyboard player — which is really weird and I was very flattered. I imagine Peter’s thinking was that while I'm very far from being a virtuoso, I did understand his music. I could play his material with a few extra frills, but I probably wouldn’t put too much of myself into the arrangement or constantly argue back at him, simply because the piano was not my home turf.
僕は決して才能のあるキーボード・プレイヤーではなかったと言ったけど、それは本当だよ。ピーターが休暇をとって仕事に戻ってきたとき、彼はトライデント・スタジオで最初のソロ・アルバムのためのデモをいくつか作ったんだ。ピーターは1年ほどジェネシスを離れていた。それで、彼は誰にピアノを頼んだと思う? A.フィリップス。そう、僕がキーボード奏者だったんだ。これは本当にありえないことだけど、とても光栄だった。ピーターは、僕は名手にはほど遠いけれど、彼の音楽を理解していると思ったんじゃないかな。僕は彼の曲に少し余分な飾りをつけて演奏することはできても、アレンジに自分の力を入れすぎたり、彼に反論し続けたりすることはない、だってピアノは僕のホームグラウンドじゃないからね。

Genesis Capter & Verse

最後の一節は、まんまトニー・バンクスの事を意識しながらの発言だと思えて、ちょっと微笑ましいのですがw、まあそういうことだったのでしょう。それにしても、The Lamb のツアーを追えた後にジェネシスを脱退したピーター・ガブリエルと他のメンバーの間には、確執といえるようなものがあったはずなのですが、わずか1年後にソロ活動を再開するに当たって、元を含むジェネシスの3人が集まってスタジオで曲作りのリハーサルをやるとは、本当に彼らの信頼関係って深いんですね。

I didn’t have a piano at the time and had to go over to somebody else’s house and practise. We played ‘Here Comes The Flood’ and a number of the other tracks from the album. Mike and Phil were also involved along with John Goodsall, the guitarist from Brand X. I think it was nice for Peter because it gave him the opportunity to dip his toes in the water in an environment that was harmonious and fun. It was the only time I've ever played with Mike and Phil together as a proper bass and drums rhythm section — on the earlier occasion Mike and I had both been playing acoustic guitars. That was another moment that made me think, ‘What have I missed here?’, because Phil and Mike were so solid and yet so relaxed together, the kind of relaxation that only comes from confidence and empathy and years of understanding. It was an absolute dream in fact. I just played a few chords and sat and listened to the two of them. They were so good.
当時僕はピアノを持っていなかったので、誰かの家に行って練習するしかなかったんだけどね。Here Comes The Floodやアルバムの他の曲もたくさん演奏したよ。マイクとフィル、それにブランドXのギタリスト、ジョン・グッドサルも参加した。ピーターにとっては、和気あいあいとした楽しい環境の中で、水に足を浸す機会となったので、よかったんだと思うよ。マイクとフィルと、ベースとドラムのリズム・セクションとして一緒に演奏したのは、このときだけだったんだ。初期の頃はマイクと僕はアコースティック・ギターを弾いていたからね。これもまた考えさせられた瞬間だったね。「僕は何を見逃していたんだろう?」ってね。なぜなら、フィルとマイクはとてもソリッドで、それでいてとてもリラックスしていてね、自信と共感と長年の理解からしか生まれないようなリラックスなんだ。まさに夢のようだった。僕はただいくつかのコードを弾き、座って2人の演奏を聴いていた。彼らはとてもよかったよ。

Genesis Capter & Verse

こうして、アンソニー・フィリップスは、フィル・コリンズとマイク・ラザフォードのリズムセクションを絶賛するのですね。

一方、ピーター・ガブリエルは、こう発言しています。

When I started writing seriously again, I really tried to come up with songs that would be as different from the Genesis sound as possible. It was a scary thing to put an album together with other musicians, because I'd never been a trained musician. I had had some piano lessons, but I felt I couldn’t score the musical ideas, so I was concerned about how I was going to express what I wanted and I needed people there who would understand me. I had no idea how to communicate with real session musicians, who seemed like strange, foreign people. So for the first demo sessions I involved musicians with whom I already had that shorthand — Mike, Phil, and Ant on keyboards: I used to like the way Ant had quite a simplistic approach to the piano but brought a lot of feeling and a lot of
colour to it. He was very musical; I still think he was one of the most musical, if not the most musical member of Genesis.
本格的に作曲を再開したときは、ジェネシス・サウンドとはできるだけ違う曲を作ろうとしたよ。でも他のミュージシャンと一緒にアルバムを作るのは怖かった。ピアノのレッスンは受けたことがあったけど、音楽的なアイディアを楽譜にするのは無理だと思ったよ。だから、自分のやりたいことをどうやって表現したらいいのか心配だったし、理解してくれる人が必要だった。本物のセッション・ミュージシャンとどうやってコミュニケーションをとればいいのか、まったくわからなかったんだ。だから最初のデモ・セッションには、マイク、フィル、そしてキーボードのアントという、すでにコミュニケーション手段を持っていたミュージシャンを起用したんだ: 僕は、アントがピアノに対しては、非常に単純なアプローチなのに、そこに多くのフィーリングと色彩をもたらしてくれるのが好きだった。彼はとても音楽的なんだ。今でも、彼は最高とは言えないまでも、ジェネシスの中で最も音楽的だったメンバーのひとりだったと思ってる。

Genesis Capter & Verse

ということで、ピーター・ガブリエルが音楽活動を再開するにあたって、頼りにしたのは、やはりジェネシスの元メンバーだったのでした。そういえば、あのゲートリバーブサウンドが生まれた3rdソロ、meltのレコーディングにもフィル・コリンズが参加していたわけですが、このときは、1st、2ndが商業的には成功せず金欠だったピーター・ガブリエルを助ける友情出演だったわけだし、WOMADの失敗で大借金を作って殺害予告までされたピーターを救うためにたった一度の再結成コンサートを行うとか、彼らの信頼関係はなかなか他のバンドでは見られないものだと思うのです。

そういえば、その後マイク・ラザフォードが最初のソロアルバムSmallcreep's Day(1980)をレコーディングしたとき、キーボードを担当したのがアンソニー・フィリップスだったのですね。きっとこのときの起用の伏線がこのときのセッションだったのではないでしょうか。


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